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第91話 襲来の忍者

「ハー……ハー……」

「まさかこんな事になるなんて……」

「意外とスタミナあるじゃねーか……」


 零夜、エヴァ、マツリの三人は、ネオンモールの一階階段前にようやく辿り着いたが、過酷な追跡劇で体力を削られ、膝をついて息を荒げている。零夜の黒髪は汗で乱れ、エヴァの銀色の狼耳がピクピク動き、マツリの赤い竜角がネオンの光に反射されている。そこへ、一般人のヒカリがしぶとく追いすがり、ふらつきながら姿を現した。彼女もまた、汗だくで顔を紅潮させている。

 ヒカリはよろめきながら零夜に近づき、彼の手をぎゅっと握る。涙目で顔を寄せ、鼻先が触れそうな距離で訴えた。


「一体何で零夜君がここにいるの? 私にも詳しく教えてよ!」

「わ、分かりました! 教えますから!」


 ヒカリの懇願に零夜が慌てる中、倫子、日和、アイリンが駆け込んできた。倫子と日和のロングヘアが揺れ、アイリンの猫耳がピンと立つ。三人もまた、椿に追い詰められてヘトヘトだ。


「そっちもやられたのですか!?」

「うん……椿ちゃんにバレてしまって……もうクタクタ……」

「まさか油断してしまうとは……」

「最悪よ……」


 倫子と日和はヘナヘナと座り込んでしまい、アイリンは不機嫌そうに猫尻尾を振って座り込む。そこへ椿が颯爽と現れ、日和に額をコツンとぶつけ、ジト目で睨みつけた。


「日和? どういう事か説明してもらいましょうか?」

「いや、それはその……」


 日和が冷や汗を流す中、トワ、エイリーン、ベル、ヤツフサが階段前に到着。ヤツフサは目の前の混乱にため息をつき、彼を抱いているベルは驚きの表情をしていた。


「まさかお前達二組がバレてしまうとはな……」

「すいません……まだまだ未熟でした……」


 ヤツフサからの指摘に、零夜、倫子、日和、アイリン、エヴァ、マツリはガックリと項垂れる。この光景にトワとエイリーンは苦笑し、ベルは母親らしい温かい眼差しで皆を見守る。しかし事情を知らないヒカリと椿は、首を傾げるしかなかった。


「仕方がない。お前達二人にも話すとしよう。実は……」


 ヤツフサはヒカリと椿に、ネオンモールに潜む「悪鬼」の陰謀と隠された秘宝を説明し始める。二人は真剣に耳を傾けていた。


 ※


「なるほど。そういう事か……だったら私も力になる!」

「ヒカリさん!?」


 説明を聞いたヒカリの決意に、零夜は目を丸くする。一般人を戦いに巻き込むのは危険だが、ヒカリは自信満々に笑っていた。


「私も零夜君たちの活躍を見て、様々な格闘術を習っていたから。それに応急処置も習っているから安心して」

「……あまり無理はしないでくださいよ。怪我したらこちらの責任になりかねませんので」

「心配しなくても大丈夫だから。よしよし」

「「むーっ!」」


 ヒカリが零夜の頭を優しく撫でると、倫子が両手に腰を当てて、エヴァが狼尻尾をピンと立てて頬を膨らませる。零夜とヒカリはまるで姉弟関係と言えるが、この光景に嫉妬するのも無理はない。


「私もサポートは任せて。できる限りの事はするから」

「あまり無理しないでよ、つばきん」

「大丈夫。日和は心配し過ぎよ」


 椿も参戦を宣言し、日和が心配そうに見つめる。同じアイドル仲間が傷つくのは見たくないからこそ、心配するのは当然である。

 すると零夜の鋭い感覚が空気を切り裂く。モールの奥から、冷たい殺意が忍び寄る。ガラス張りの天井から差し込むネオンの光が、不気味に揺らめいた。


「敵襲です! すぐに警戒態勢に!」


 零夜の叫びに、全員が一斉に構える。零夜は村雨を抜き、苦無を手に握る。倫子は長剣と盾を構え、日和は二丁拳銃を抜く。アイリンは拳を握り、エヴァはクロー付きガントレットを装着。マツリは刀と盾を手にし、トワは弓に矢をつがえる。エイリーンとベルはロングアックスを振り上げ、ヤツフサは低く唸る。ヒカリと椿は武器は持っていないが、アイリンと同じく格闘姿勢を取った。

 その時、階段の影から一人の小学生が現れる。零夜は目を細め、ヒカリと椿が驚く。


「あれ? この子って、一般参加の刈谷智之君じゃない」

「彼も参加者の一人だから、この場所に逃げてきたんじゃないのかな?」


 倫子たちが安堵し、武器を下ろそうとする。だが、零夜とヤツフサは動かない。零夜の目が鋭く光り、ヤツフサの牙が剥き出しになる。


「違います。正解は……こちらです!」


 零夜は電光石火で苦無を投げる。刈谷はバックステップで回避するが、零夜は一瞬で間合いを詰め、刈谷の首根っこを掴んで大理石の床に叩きつける。ドゴン!という衝撃音がモールに響き、ガラスケースがビリビリと震えた。


「零夜君!?」

「なんで攻撃を!?」


 この光景に日和たちが驚く中、零夜は真剣な表情をしながら彼女たちに説明を始める。彼はすぐに敵を察知していて、変装も見破る事は朝飯前だ。


「普通の小学生ならこんな動きはしません。明らかに偽物であり、敵である事には間違いないです」


 すると刈谷の身体が揺らぎ、煙とともに忍者の姿へ変化。黒装束に身を包み、陽炎のような揺らめく気配を放つ男が現れる。


「まさかバレるとは驚いたな。流石は八犬士の忍者……」


 忍者の姿を見た倫子たちは一斉に戦闘態勢へ。零夜は村雨を構え、真剣な表情で敵を睨みつける。


「俺は悪鬼Cブロック所属の忍。陽炎だ!」

「陽炎か! 本物の刈谷はどうしたんだ!」


 陽炎が指を鳴らすと、空中に魔術のウィンドウが展開。本物の刈谷が映し出されるが、救急隊に運ばれて意識不明の重体。血まみれの姿に、倫子たちが息を呑んでしまう。


「そんな……!」

「こんな事って……!」


 倫子の目に涙が滲み、日和の手が震える。他の皆も涙目となっている者もいれば、怒りで拳を握り潰す者もいた。

 その様子を見た陽炎はニヤリと笑う。


「悪いが彼には少し痛めつけておいた。生きるか死ぬかは……分からないが」

「こ、こいつが……!」


 零夜の瞳が怒りに燃え、倫子たちは武器を構える。ヒカリと椿も拳を握り、ヤツフサも戦闘態勢に入っていた。

 すると陽炎も苦無を構え、ネオンモール内での戦いが始まろうとしていた。


「行くぞ、八犬士ども!」


 陽炎が無数の苦無を投げ、黒い影となって襲い掛かる。だが、零夜が村雨で一閃。金属音が響き、苦無が弾き飛ばされる。


「零夜君、援護は任せて!」

「一気に動きを封じておかないと!」 


 倫子が盾で突進し、陽炎の横からの苦無を弾き飛ばす。更に日和は二丁拳銃を乱射し、陽炎の動きを封じていく。

 弾丸がガラスケースを砕き、破片がキラキラと舞っていた。まさに幻想的と言えるが、器物損壊で弁償しなくてはならない。


「邪魔するとはな……だが、この俺を倒す事は不可能だ!」

「その言葉、そっくり返してやるぜ!」

「小癪な!」


 零夜と陽炎が同時に飛び出して激突。村雨と苦無が火花を散らし、階段前の広場に金属音がこだまする。

 陽炎は煙のように揺らめき、複数の分身を展開する。


「そうはさせないわ! ブレイブナックル!」


 ところがアイリンが強烈なパンチを分身に当てた途端、一瞬で霧散してしまう。強烈なパンチの影響が本体に響き渡り、陽炎がよろめいてしまった。


「隙あり! ウィンドクロー!」


 エヴァがクロー付きガントレットで陽炎に斬りかかり、彼の腕に深い傷を刻む。まさに見事な連係というべきだろう。


「ぐっ! 獣人の連携か!」

「アンタみたいな雑魚に負ける理由にはいかないのよ!」


 アイリンが猫の尻尾を振って挑発するが、陽炎は冷静に視線を相手に合わせていた。心の中では怒りを感じているが、忍者たる者冷静になれの心構えを持っているのだ。


「挑発に応じない……本物の忍者かもな……」

「だったらこちらも戦闘に集中するしかない。ここから気を引き締めて行きましょう!」

「「「おう!」」」


 零夜の掛け声に倫子たちは一斉に応え、陽炎に対して真剣な表情で睨みつける。同時に彼との戦いも、後半戦へと突入し始めた。

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