幕張ネオンモールの外回り。零夜、エヴァ、マツリの3人は、真剣な表情で目的の張り紙を探していた。張り紙は彼らにしか見えないキラキラ光る特殊効果があり、外回りのどこかに隠されている。
「目的の張り紙が外回りにあるとはな……確かこの辺りにあると思うが……」
「なかなか見つからないな……何処にあるんだよ……」
零夜は周囲を鋭く見渡す。ここにはあまり人がいないが、少なくとも見つかってしまうリスクが高く、緊張が張り詰める。エヴァが鼻をクンクンと動かし、狼の耳をピクピクさせる。
「ここは私の特殊嗅覚で探してみるわ。」
「頼んだぜ、エヴァ。アンタが頼りだからな!」
「任せて!」
エヴァが匂いを追う中、マツリは角を揺らし、力強く周囲を警戒する。しばらくすると、エヴァの瞳がキラリと光った。恐らく目的の物を見つけたのだろう。
「見つけたわ! 五十メートル先に張り紙があるから、その場所に行くべきよ!」
「よし! すぐに……隠れろ!」
「「ひゃっ!?」」
零夜が動き出そうとした瞬間、敵の気配を察知。三人は階段の陰に身を隠す。ハンティングマンが逃走者を追いかける姿が視界を横切り、三人は息を潜める。ハンティングマンは気づかず通り過ぎるが、緊張は解けない。
「見つかったらどうなっていたのやら……」
「このまま逃げ切れば良いのだけど……こっちに来た!」
零夜が指さす方を見ると、逃走者の一人がこちらへ向かってくる。退路はなく絶体絶命。このままでは騒動確定だ。
しかし零夜は即座に決断し、エヴァとマツリに指示を出す。
「ここは空を飛ぶぞ! 逃げればこっちの物だ!」
「そうするしかないな! エヴァはアタイらに捕まれ!」
「ええ!」
マツリの背中から竜の翼が生え、力強く羽ばたく。零夜も隠された力で翼を展開し、マツリと共にエヴァを抱える。三人は夜空へ舞い上がり、逃走者に見つからず二階へ移動する。
「やれやれ……無事に逃げ切る事が出来たわね……」
「張り紙は……あった!」
零夜が指差す先に、キラキラ光る張り紙が壁に貼られている。零夜は素早く剥がし、エヴァとマツリと共に内容を確認する。
「第一の謎の内容は……『ハルヴァスの神様を答えろ』だって。」
「それなら知っているわ。アルベスタ様よ!」
エヴァが即答。ハルヴァス出身の彼女とマツリには簡単な問題だ。張り紙が黄金のメダルに変化し、零夜の手元に収まる。第一の謎はクリアし、残るはあと二つだ。
「よし! こちらは問題なく成功したぜ!」
「後は扉が出現する場所に向かうのみだ!」
「幕張ネオンモールの中にある階段前の広場ね。すぐに中に入らないと!」
3人がネオンモール内へ向かおうとした瞬間――
「あれ? 零夜君、なんでこんな所にいるの?」
「そ、その声は……ヒカリさん!」
零夜が冷や汗をかきながら振り返ると、橘ヒカリが立っていた。白いロングシャツ、黄緑色のジャケット、赤いジャージズボン、黒のヘッドギアという動きやすい装い。この様子からすれば彼女も逃走者だ。
「しまった……! まさかバレてしまうとは……!」
「こうなると……覚悟を決めるしか無いわね……」
「実はアタイもそう思った……」
零夜たちは冷や汗を流し、ヒカリに気づかれたことを悟る。彼の知り合いとはいえ、目的を明かせない。三人は一斉に後ろを向き、逃げる準備を整える。
「逃げるが勝ちだ! 急いで目的地まで急ぐぞ!」
「「おう!」」
「あっ、待って!」
零夜たちは全速力で走り出し、ヒカリが慌てて追いかける。逃走ロワイアルとは別の、奇妙な追いかけっこが始まった。
※
一方、日和、倫子、アイリンの3人もネオンモール内で張り紙を探していた。日和はかつてリポーターとしてこのモールを訪れた経験があり、フロアマップを把握している。
「仕事で1回来ていたけど、まさかこんな事になるなんてね……前はリポーターとして来ていたけど……」
日和は苦笑しながら過去を振り返る。彼女の知識が、迷路のようなモールでの移動をスムーズにしていた。
「でも、私達の目的はあの張り紙だからね。他の皆は大丈夫かしら……」
「さあ……あっ! 見つかっちゃう!」
「ひゃっ!」
「あうっ!」
倫子が前方を見ると、逃走者がハンティングマシンから逃げる姿が目に入る。三人は物陰に隠れ、息を殺す。アイリンが猫耳をピクピクさせ、不機嫌そうに舌打ちする。
「チッ、こんな時に邪魔が入るなんて……」
幸い、見つからずにやり過ごせた。しかし今後も同じ様な展開になるので、要注意だ。
「なんとか助かった……ん? あれって……」
倫子がホッとした瞬間、キラキラ光る張り紙を発見。彼女は迷わず駆け寄る。
「あった! 目的の紙や!」
「それなら早速確認しないと!」
アイリンと日和も合流し、張り紙の謎を確認。『来年の干支はどんな動物なのか』。
「それなら簡単! 蛇年!」
倫子が即答し、張り紙が黄金のメダルに変化。彼女はメダルをオーバーオールのポケットにしまう。残る謎はあと一つだ。
「これで私達の方は大丈夫みたいね。」
「よし! そのまま見つからずに急ぎましょう!」
日和の合図で走り出そうとした瞬間、後ろからトコトコと足音が聞こえる。ピンクのジャケット、白いミニスカート、スパッツの女性が現れる。日和が振り返ると、
「日和、何しているの?」
「つばきん……いや、何でもないから……逃げましょう!」
「あっ、日和ちゃん!」
「ったく、なんでこんな時に絡まれなきゃいけないのよ!」
「待って!」
日和は冷や汗を流しながら慌てて逃げ出し、倫子も後に続く。アイリンが走りながら不満げに言いつつ、急いで二人の後を追いかける。
更に椿も追いかけてきて、別の意味での追いかけっこが幕を開けたのだ。
※
トワ、ヤツフサ、エイリーン、ベルの4人は、すでに張り紙を見つけ、謎の解明に取り掛かっていた。張り紙の謎は『属性魔法の系統を答えよ』。知性と魔法を得意とするトワにとって簡単だ。
「答えは簡単! 火、水、風、土、雷、森、光、闇、無属性の9つ!」
トワが自信満々に答えると、張り紙がメダルに変化。3つ目の謎もクリアし、すべての鍵が揃った。
「これで良し。そろそろ向かいましょう!」
目的を果たした四人は一階の階段広場へ向かおうとするが、エイリーンが足を滑らせ、前のめりに転ぶ。
「痛っ!」
「大丈夫か!?」
「しっかり!」
「コケたけど、大丈夫なの?」
ヤツフサが小さな吠え声で心配そうに近づき、トワとベルがエイリーンを支える。するとエイリーンはすぐに立ち上がり、服の埃を払う。彼女はドワーフで頑丈さが持ち味。このぐらいは問題ないだろう。
「すいません……私、ドジでコケてしまって……」
「気にしないで。さっ、集合場所に向かいましょう。」
「はい!」
ベルが母親らしい笑顔でエイリーンを励まし、四人は目的の場所へ動き出す。
その背後、柱の陰で忍者が様子を伺っていた。彼はキョロキョロと周囲を見回し、変装の標的を探す。
「奴等は扉の前に向うが……その前に誰かに変装する必要があるな……このままでは敵にバレるのも時間の問題……ぬ?」
忍者の視線が、走る小学生に止まる。彼も逃走者で、ハンティングマンから隠れようとしていた。因みに彼は一般参加となっていて、この番組に出るのを楽しみにしていた。
「……見つけた。奴を依り代にして接近するとしよう。」
忍者がニヤリと笑い、静かに小学生に近づく。彼の手が襲いかかった瞬間、小さな竜巻が発生した。
「うわっ! 何だ!?」
「いきなり竜巻だと!?」
カメラマンが慌てて離れると、竜巻は消え、忍者と小学生の姿も消えていた。この光景にカメラマンは呆然としてしまい、ただ立ち尽くすしかなかった。
忍者の暗躍が、新たな脅威を予感させた。