エイリーンからの衝撃の説明に、再びギルド内は騒然としてしまう。彼女の仲間も遺産を隠していたのは分かるが、まさかシュンラと同じ場所に隠すとは想定外としか言えないだろう。
「まさかシュンラ様と同じ場所に遺産を隠していたなんて……これは偶然でも驚くわね」
トワは真剣な表情をしているが、内心では驚きを隠せずにいた。まさか偶然とはいえども、同じ場所に遺産を隠すのは予想外としか言えない。恐らくシスターがこの話を何処かで聞き、自分達も遺産を隠そうと考えていた可能性が高いだろう。
「私もその事をシスターから聞いた時は驚きました。もう、彼女は死んでいますけどね……」
エイリーンは苦笑いしながらも、突如下を向いて俯いてしまう。彼女の目には涙が浮かんでいて、今でも泣きそうになっている。恐らく死んだ仲間達を失った辛さがまだ残っていて、思い出すと泣きそうになってしまうのだ。
「あなたも同じ経験をしたみたいだけど、何があったのか教えてくれない?」
「はい。あれは数日前の事でした……」
エヴァの質問に対し、エイリーンは涙目になりながらもコクリと頷く。そのまま数日前に起きた事をそのまま話し始めたのだ。
※
「ふう……今日の配達仕事も終わったし、皆お腹を空かせて待っているだろうな」
当時のエイリーンは孤児院に住みながら、シスターの経営の手伝いをしていた。
彼女はドワーフの村で鍛冶職人をしていたが、ドジで失敗ばかり。挙げ句の果てにドワーフ族の村から追い出されてしまい、トボトボと歩きながら旅をしていた。その時の道中にシスターと出会い、今に至るという事なのだ。
「さてと! 今日の夕食は……」
エイリーンが言い切ろうとしたその時、遠くの方で炎が上がっているのが見える。同時に火消し隊が次々と駆け出すのが見えて、多くの住民達も走っているのが見えた。
「どうしたのですか?」
「大変な事になったんだよ! お宅のところの孤児院が、悪鬼の襲撃で大量虐殺されたんだ!」
「ええっ!?」
住民からの説明にエイリーンは驚きを隠せず、急いで火元である孤児院へと駆け出していた。まさか自分達の居場所が襲撃されるのは予想外であり、生き残りが一人でもいて欲しいと心から願っているのだ。
(お願い、一人でも無事でいて……)
エイリーンは心から祈りながら孤児院に辿り着くが、そこには燃え盛る孤児院と倒れているシスターだけが残されていた。子供達は既に殺されていて、シスターも重傷でピンチの状態となっているのだ。
「シスター!」
エイリーンは駆け出しながらシスターの元に駆け寄り、彼女の手を強く握りしめる。エイリーンの目は既に涙目となっていて、シスターまで死んだら一人ぼっちになるのは嫌だと心から思っているのだ。
「エイリーン……遅かったわね……あなたの帰りを待っていたのに、こんな結末になるなんて……」
「シスター……あなたまで死なないでください……あなたが死んだら私は……」
エイリーンは涙を流しながら、シスターが死ぬのを心から嫌がっていた。しかしシスターは寂しそうな笑みを浮かべ、最後の力を振り絞りながらエイリーンに視線を移す。
「異世界にある幕張ネオンモールの地下に、私達が隠しておいた財宝があるの……それだけはもしもの為に異世界転送したから……本当の仲間と共に……必ず手に入れて頂戴……」
「本当の仲間……?」
シスターからの遺言を聞いたエイリーンは一部納得するが、本当の仲間の意味が分からずにいた。一体それが何なのかも知らず、キョトンとしてしまうのも無理はない。
するとシスターはエイリーンの右手首にあるバングルを指さすが、それには「地」の文字が刻まれている珠が埋められていた。恐らく彼女はエイリーンが八犬士の一人である事を、前から見抜いていただろう。
「これから先……あなたはこのバングルに付属されている珠に導かれ……大切な仲間と出会う事になるわ……だからこそ……私は……信じている……あなたならこの世界を変える……人に……なる事を……」
シスターは穏やかな笑みを見せた途端、光の粒となって消滅してしまう。そのまま光の粒は大空へ舞い上がり、そのまま見えなくなってしまったのだ。
「シスタァァァァァ!!」
エイリーンは涙を流しながら、悲痛な叫びをあげてしまう。彼女はそのまま数分間泣き続けた後、その場から振り向かずに走り去ったのだった。
※
「そうだったのか……それにしても、エイリーンが八犬士の一人だったとは驚いたぜ……」
エイリーンの話を聞いた零夜達は納得の表情をするが、彼女も八犬士の一人である事には驚きを隠せずにいた。シスターはそれを見抜いたからこそ、彼女に八犬士の一人である事を自覚させようとしていたのだろう。
「はい。それから私は八犬士の一人であることを自覚し、あなた方の元へ会いに向かいました。ここから先は貴方達と共に戦います。これ以上大切な仲間を失わない為にも!」
エイリーンは強い決意を心に宿しながら、零夜達の仲間になる事を宣言する。その言葉に偽りはなく、何よりも真っ直ぐな目をしているのが証拠であるのだ。
エイリーンの姿を見たヤツフサは真剣な表情をするが、すぐに微笑みながら彼女に視線を移す。
「それなら大歓迎だ。お前が来てくれた事で、八犬士達が全員集結した。私としてはこの時を待っていたが、ようやく叶う事ができた。お礼を言う!」
「いえいえ。別に大した事じゃないですよ……」
ヤツフサは礼をしながら感謝の言葉を述べるが、エイリーンは苦笑いしながら否定する。仲間達の元に駆け付けた事ぐらいで褒められると、逆に照れくさくなってしまうのも無理ないのだ。
「でも、自ら仲間に加えて欲しいという勇気があっただけでも、立派だと思うんよ」
「倫子さんの言う通り。私達は既に仲間となっているし、これから共に頑張りましょう!」
「……はい!」
倫子と日和の笑顔に対し、エイリーンは目に涙を浮かべながらも笑顔になる。エヴァ達も笑顔でエイリーンを歓迎しているので、彼女の心配は問題ないと言えるだろう。
「何はともあれ、これで八犬士達が揃いましたね。あなた方のこれからの活躍、そしてクエストクリアを信じています!」
メリアからの笑顔のエールに対し、零夜達は真剣に頷きながら応える。彼女は心から零夜達の事を信じているだけでなく、タマズサを倒せる最後の希望と実感している。彼等の活躍を見ていたからこそ、お互い信じ合える仲に成長する事ができたのだ。
「よし! すぐにでも地球に向かう準備を始めるぞ! 出発は明日なので、必要な物は買い揃えておくように!」
「「「了解!」」」
ヤツフサからの指示に零夜達は一斉に応え、そのまま駆け出しながらギルドを後にする。メリアはそんな彼等の後姿を、微笑みながら見ていたのだった。
※
その頃、アミスラ海岸近くには黒い要塞の建物が建てられていた。その要塞こそCブロック基地であり、その中にはネムラスと孤児院を襲撃した犯人であるリッジがいるのだ。彼は現在、部下である戦闘員から報告を受けていて、納得の表情をしているのだ。
「まさか奴等が地球へ向かうとは驚いたな……さて、こちらも動くとするか」
リッジも地球に行く決断を固め、その場からゆっくりと立ち上がる。そのまま彼は歩きながら部屋から出て行き、戦闘員も後に続いて追いかけたのだった。