目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第83話 秘宝への道

 クローバールのギルド本部は、重厚な石造りのホールに冒険者たちのざわめきが響いていた。壁に飾られた歴代の英雄たちの肖像画が、零夜たちを見下ろしているかのようだ。中央のカウンターで、ギルドマスターのメリアが書類を手にしながら、鋭い眼差しで彼らの報告を聞いていた。


「なるほど。トワさんによってEブロック基地の隊長は始末する事に成功。基地も破壊しましたが、まさか彼女にこの様な事が……」

「ええ。全て事実です」


 零夜の声は落ち着いていたが、その瞳には深い憂いが宿っていた。彼の隣に立つトワは、金髪を揺らし、唇を固く結んでいる。Eブロック基地の崩壊だけでなく、トワの故郷ネムラスがリッジによって滅ぼされた事実が、ギルド全体に衝撃を与えていた。

 冒険者たちはざわつき、信じられないといった表情で互いに顔を見合わせる。零夜たちもその話を初めて聞いたとき、怒りと驚きで胸が締め付けられたのだ。


「ええ……私は奴らを絶対に許さない……! どうしてこんな事に……!」


 トワの声は震え、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。彼女の華奢な体は、故郷を失った悲しみとリッジへの憎しみで震えていた。仲間たちの死、ネムラスの崩壊――その傷はあまりにも深く、彼女の心を切り裂いていた。

 その姿を見かねたエヴァとマツリが、そっとトワに近づく。エヴァの銀色の狼耳が小さく揺れ、優しくトワの背中を撫でる。


「元気出して。私達がついているから」

「そうそう! アンタも八犬士なんだから、私らの大切な仲間だ。皆で協力して、リッジをぶっ倒そうぜ!」

「……うん!」


 トワは涙を拭い、力強く頷いた。エヴァの優しさとマツリの豪胆さに背中を押され、彼女の心に新たな炎が灯る。八犬士の絆――それが、彼女を孤独から救ったのだ。


「トワさん。私たちもあなたを歓迎します。八犬士の一人として、ギルドの一員として宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくね」


 メリアの一礼しながらの笑顔に対し、トワも笑顔で返す。その瞬間、ギルドの空気が一気に温かくなり、冒険者たちからも歓迎の拍手が沸き起こった。


「データを確認しましたが、トワさんはSランクですね。では、その様に登録します」

「ええ。お願いするわ」


 メリアがパソコンにデータを入力し、トワのランクをSランクに設定。その言葉に、ホールが再びざわめいてしまう。


「またSランクが出やがったか!」

「八犬士の奴らはSランクばかりなのか!?」

「凄すぎるだろ……」


 冒険者たちの驚愕の声に、零夜たちは苦笑いを浮かべる。自分たちのチームがSランクばかりとなっている以上、皆からそう言われるのも無理はない。


「まぁ、いつもの反応よね」

「でも、ちょっと誇らしいかも知れませんね」

「ふん、騒ぐようなことじゃないでしょ」


 倫子がこの光景に肩をすくめ、日和もくすりと笑っている。アイリンは猫耳をピクピク動かしながらも、ツンとした態度を取っている。心の底では満足げであるが。


「後は秘宝のある場所が何処にあるか気になりますね」

「異世界という事は確かだけど、ひょっとしてウチ等のいる地球やないんかな?」

「地球なら、私たちのホームグラウンドだし、やりやすいですね」


 倫子が首を傾げながら推測し、日和が真剣な顔で頷く。他の皆も何処にあるのか疑問に感じながら、真剣に秘宝の在処を推測し始める。


「その事なら地図とメモ用紙があるわ。用意するから」


 トワがバングルを起動させ、空中に地図とメモを投影する。その瞬間、零夜たちの視線が一斉にそこに集まった。


「これが秘宝の場所の地図……確かに凄いとしか言えないけど……」

「場所が……幕張ネオンモールの地下!?」


 零夜の声に驚きが混じる。倫子と日和も目を丸くし、互いに顔を見合わせる。千葉の幕張ネオンモール――そんな身近な場所に秘宝が隠されているとは、誰が想像しただろうか。


「まさか俺達の世界に秘宝があるなんて……」

「どうやって幕張ネオンモールの中に設置したの?」

「私も分からないけど……」


 零夜、倫子、日和の三人は困惑しながらも、真剣に地図を見つめる。幕張ネオンモールの地下に秘宝があるという事実は衝撃的だが、どうやってそんな場所に隠し場所を作ったのか、想像もつかない。シュンラの意図がそこに隠されているはずだ。

 一方、アイリン、エヴァ、マツリ、エイリーン、ベルは揃って首を傾げる。彼女たちは地球に来た事が無いので、そうなるのも無理はない。


「こんな建物は初めて聞いた……」

「地球って、こんな建物があるのかな?」

「アタイに言われても流石に……」

「私もです……」

「行った事も無いからね……」


 アイリンの猫尻尾が不満げに揺れ、エヴァの銀狼耳がピクリと動く。マツリが竜の角を指で叩きながら苦笑いしていて、エイリーンは落ち着いた様子で指を咥えている。ベルはミノタウロスの角を揺らし、母親らしい穏やかな笑みを浮かべていた。


「シュンラ様は悪鬼から秘宝を守る為、この建物の地下に隠し場所を作られたの。その前に三つの謎を解く必要があるわ。」

「「「三つの謎?」」」


 全員が一斉に声を揃える。隠し場所を守るための対策は理解できるが、三つの謎とは何か。好奇心と緊張がギルドを包む。

 トワが再びバングルを操作し、幕張ネオンモールの内部映像を投影する。画面には、ショッピングモールの賑やかな通路や店舗が映り、特定の場所に三つの張り紙が貼られている。


「そう。シュンラ様は魔術を使い、三つの張り紙を指定の場所にこっそりと貼っていたわ。その謎の内容についてはどんなのか知らないけど」

「でも、こんな事をして一般人にバレないのかしら?」


 トワの説明を聞いたアイリンが鋭く尋ねる。彼女のツンデレな口調には、心配が滲んでいた。

 もし秘宝の在処が一般人に伝わったら、マスコミは当然、我先へと多くが遺跡の秘宝を探しに向かい出す。そうなると悪鬼が動き出してしまい、後楽園の悲劇の様な惨劇が、再び起こってしまう事もあり得るのだ。


「それは八犬士とその仲間にしか見えない特殊な張り紙となっていて、それ以外には見えない仕組みとなっているから大丈夫よ。」

「それなら大丈夫みたいね……秘宝に関しては金貨、宝石、ダイヤの指輪、後は宝剣などが用意されているのかしら?」

「ええ。後はシュンラ様が私に対してプレゼントを送ると言っていたけど、それについては何なのか分からなかったわ。」


 アイリンはトワの説明に心から安堵した後、彼女は秘宝の正体を推測し始める。それにトワはコクリと頷くが、その声にはほのかな不満が混じる。シュンラの意図が読めないことに、彼女自身も苛立ちを感じているようだ。


「けど、秘宝については必ず手に入れないとね! 地球に戻れるのは嬉しいけど、任務に集中しないと!」

「悪鬼の思い通りにさせない為にも、私達の力で其れ等を回収しましょう!」


 倫子が拳を握って力強く言い、日和も両腕でガッツポーズをしながら同意する。零夜、アイリン、ベルの三人も頷き、決意を新たにする。しかし、エヴァ、マツリ、エイリーンの三人はどこか浮かない表情だ。


「私達は異世界に行くのは初めてだし……」

「慣れない環境に行くのは流石にな……」

「私もコケまくりますし……心配です……」


 エヴァが銀狼の尻尾を小さく揺らし、不安げに呟く。マツリも竜の角を指でなぞりながら、珍しく弱気な声を出す。エイリーンも自分の悪いところを呟きながら、小さくため息をついてしまう。

 その様子を見た零夜は、ゆっくりと三人に近づき、優しく抱き締める。


「大丈夫。不安な事もあるが、その時は俺達がついている。心配しなくてもいいぞ。」

「……うん」

「ありがとな」

「感謝します……」


 エヴァが優しく微笑み、マツリも照れ臭そうに笑う。エイリーンも笑顔を見せながら、心から安堵していた。

 零夜の温かさに、三人の不安は少しずつ溶けていく。彼の持つ仲間を安心させる力は、スキルなどではなく、純粋な心の強さなのだろう。


「では、皆さんはクエストで地球へ向かう事になりますが、クローバールについては任せてください。更に今回のクエストのランクについてですが、Sランクの任務となります! 目標は秘宝の回収ですが、悪鬼の襲撃などのハプニングもあるので要注意となります!」


 メリアの真剣な言葉に、零夜たちの空気が一変する。Sランクの任務――しかも地球という未知の戦場での戦い。失敗は許されない。

 その様子を見たヤツフサが前に進み出る。その眼光は鋭く、威厳に満ちている。


「この戦いは気を引き締めて取り組まないといけない様だが、お前達ならやれる筈だ。後は地球に向かう為の準備を心がけておく様に。」

「「「了解!」」」


 零夜たちは一斉に声を揃え、決意を胸に刻む。メリアがその姿に満足げに頷く中、ギルドのホールには新たな冒険への期待と緊張が満ちていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?