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閑話31 遊園地のヒーロー騒動③

 にこからの頼みに零夜達がざわつく中、倫子と日和は冷静な表情をしながら彼女の話を聞き始める。同じ芸能関係である以上、放って置く理由にはいかないのだ。


「それで、なんで男に追われていたの?」

「はい……私は子供達と共に番組の撮影をしていました。その最中に男が現れてしまい、側にいた子供達を容赦無く斬り裂いて倒してしまったのです。私は恐怖のあまり全力で駆け出しながら逃げて行き……」

「今に至るという理由ね」


 にこからの説明を聞いた日和は、真剣な表情をしながら納得する。

 話の内容によると、にこは当時子供達と共に番組の収録を行っていたが、その最中に男が現れた事で事態は急変。男は子供達を超能力で浮かび上がらせ、同時に鉤爪攻撃で次々と斬り裂きまくった。子供達は重傷を負いながら地面に激突しながら倒れてしまい、にこは恐怖のあまり全速力で男から逃げ出してしまったのだ。


「けど、その男の特徴については何か分かるの?」

「うん……確かシルクハットを被っていた中年紳士だけど……」


 にこが男の容姿について説明した途端、コツコツと足音が聞こえ始める。それを聞いた彼女達が足音の方を向いた途端、シルクハット被った貴族の男が姿を現した。しかも身体は小太りの男で、悪人面をしているのだ。


「やっと見つけたぞ……まさか八犬士達もいるとはな……」

「俺達を知っているという事は……悪鬼の者だな」


 零夜は真剣な表情をしながら戦闘態勢に入り、倫子達はにこを守りながら同様の表情で男を睨みつける。キャラクター達は後ろに下がりながら警戒していて、この場は一触即発の雰囲気となってしまった。


「違うな。わしはあんな奴と一緒にするな。わしは自ら行動し、野望を達成する事が信念なのだからな」


 零夜の質問に対し、男は平然としながらそう答える。同時に男の性格が唯我独尊である事が判明され、説得するのは難しいと言えるだろう。


「悪鬼とは違うみたいね。じゃあ、個人で行動しているという事なの?」

「そうだ。わしはライオット。ハルヴァスでは領主を務めていたが、逮捕されてから全て失った。ここから成り上がる為にこの世界に向かい、美女を手に入れようとしていたのだよ」


 ライオットの説明を聞いた零夜達は、真剣な表情で彼を睨みつける。相手が元悪徳領主である以上、容赦無く倒すしか方法はないと感じているのだ。

 するとトワがライオットを見た途端、頭の中にある事を思い浮かべた。どうやら彼の事について何か知っているに違いない。


「あなた……はぐれ悪党ね」

「はぐれ悪党?」


 トワがライオットを指差しながら宣言するが、零夜達は初めて聞く単語に首を傾げていた。当然にこやキャラクター達も疑問に感じていて、その証拠に?マークが浮かんでいるのが丸分かりだ。


「ハルヴァスにいる悪党の中で、悪鬼に入らずに自分勝手で行動する悪党の事よ。悪鬼はそんな奴等を始末しようとしているけど、ここは私達の手で倒しましょう!」


 トワが皆に説明したと同時に、弓矢を手元に召喚して戦闘態勢に入り始める。零夜達もそれぞれの武器を手元に召喚し、ライオットに視線を合わせながら戦闘態勢に入っていた。


「面白い。やれる物ならやってみろ!」


 ライオットは手元にクローを装着したと同時に、鋭い視線を向けながら戦闘態勢に入った。その直後に緊迫した空気が流れ込み、キャラクター達とにこはこの様子に息を呑みながら見守っていた。


「行くぞ! 戦闘開始だ!」

「「「おう!」」」


 ヤツフサの合図で零夜達は一斉に駆け出し、ライオットを始末しようと勢いよく襲い掛かる。彼もまた戦闘に入る事を確認したと同時に、素早く駆け出して立ち向かったその時だった。



「待て! この戦い、俺も参戦するぞ!」

「あっ! この声は……!」



 突然響いた声に零夜が気付いた直後、街灯の上に一人のヒーローが立っているのが見えた。白を基調とした近未来風の全身鎧で、顔もフェイスマスクで覆われている。


「何者だ、貴様は!?」

「俺の名は東京ワンダーランドのヒーローレスラー、ワンダーボーイだ! これ以上の悪行は許さないぜ!」


 ワンダーボーイは跳躍しながら地面に着地し、真剣な表情をしながらライオットに襲い掛かる。次々と強烈な攻撃がライオットに炸裂し、反撃させずに追い詰めていた。


「おのれ! 八犬士以外にも強敵がいるとは!」

「甘く見るなよ? 後楽園での事件以降、その対策としてヒーロー協会が設立された。八犬士達に負担を掛けさせない為にも、この地球は守り通す!」


 ライオットは冷や汗を流しながら、予想外の強敵に苦戦を強いられる。それに対してワンダーボーイは、真剣な表情で彼に宣言し、次々と攻撃を繰り出しまくった。

 零夜達がハルヴァスに旅立ってから翌日、地球での国際会議が行われた。後楽園の事件を受けた結果、各国にヒーロー達を誕生させる事を義務付けられたのだ。

 今ではワンダーボーイだけでなく、世界中の何処でもヒーローが存在しているのだ。


「良いぞ、ワンダーボーイ! そのまま攻めまくれー!」


 零夜は興奮しながらワンダーボーイを応援していて、キャラクター達も彼を精一杯応援している。この様子に倫子達は唖然とするしかなく、ポカンとした表情で戦いを見るしか無かった。


「ヒーローって、存在していたの……?」

「はい。あなた達が旅立ってから翌日に」

「そ、そうなんだ……」


 にこの説明を聞いた倫子達が苦笑いした途端、ワンダーボーイがライオットをパワーボムの態勢で持ち上げる。そのまま勢いよく跳躍したと同時に、急降下しながらライオットの頭を地面に叩きつけたのだ。


「これぞ必殺技、流星ブレイカーだ!」

「ぐはっ……!」


 頭を打ち付けられたライオットは、あっという間に戦闘不能。そのまま大量の金貨となって地面に落ちてしまったのだ。


「任務完了!」

(凄い……! ワンダーボーイ、本物のヒーローになっていたのか……!)


 ワンダーボーイは拳を前に突き出しながら、ニッコリと笑顔を見せる。それはまさにヒーロー其の物であり、キャラクター達は興奮しながら太鼓などを鳴らしていた。特に零夜は目をキラキラ輝かせながら、ワンダーボーイの姿を見ているのだ。


「零夜……なんであのヒーローに興奮しているの?」

「実は彼……プロレスラーになるにはどうすれば良いかと考えていて、レスラーとして活躍しているワンダーボーイを見ながら参考にしていたの」

「それでか……」


 アイリンの質問を聞いた倫子は苦笑いしながら答え、それに彼女達は唖然とするしかなかった。零夜はプロレスラーになる夢があるのは分かるが、この様な一面があるとは知らなかっただろう。

 するとワンダーボーイが零夜に近付き、彼の両肩に手を置いた。


「零夜君。まさかお前が八犬士として選ばれるとは驚いたな」

「いや、大した事じゃないですよ。八犬士としてはまだまだ未熟な部分もありますから」


 零夜が苦笑いしながらワンダーボーイと話をしている中、にこはある事を思い出してワンダーボーイに近付く。どうやら子供達の事が気がかりとなったのだろう。


「それで子供達はどうなりました?」

「仲間が駆け付けて治療したが、救急車によって病院に送られた。数時間すれば目を覚ますそうだ」

「良かった……」


 ワンダーボーイからの報告を受けたにこは、安堵の表情でため息をつく。もし間に合わなかったらどうなったのか分からず、下手したら死んでいた可能性もあるだろう。

 零夜達も安堵の表情をしながら、子供達が無事である事にホッとしていた。


「そうなると子供達の代わりは……あっ」

「「「へ!?」」」


 にこは子供達の代わりをどうすれば良いのか考えたその時、零夜達に目を合わせてある事を思いつく。視線を合わせられた彼等はキョトンとしてしまい、キャラクター達も一斉に首を傾げたのだった。

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