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閑話30 遊園地のヒーロー騒動②

 零夜達は電車に乗って東京駅に到着し、そこから徒歩で遊園地へと向かっていた。東京駅から約10分という時間なので、普通に歩いていれば目的地に必ず辿り着くだろう。


「いよいよ東京ワンダーランドか! 早くジェットコースターに乗りたいわ!」

「マツリはジェットコースターが好きなのね。私はメリーゴーランドが良いかも!」


 マツリはジェットコースターに乗る事を楽しみにしていて、アイリンはメリーゴーランドに乗る事を楽しみにしている。エヴァ達もソワソワしながらアトラクションを楽しむ事をワクワクしていて、その様子に倫子と日和は微笑んでいた。


「あっ、入口前だ!」


 零夜が指さす方を見ると、東京ワンダーランドへの入口である入場ゲートが目の前に姿を現した。その奥にはマスコットキャラは勿論、お客さんもたくさんいる。

 間違いなく東京ワンダーランドであり、彼等は無事に辿り着く事が出来たのだ。


「チケットについては事前に買ったし、早速中に入りましょう!」


 倫子の合図に全員が頷き、急いで入場ゲートへと向かい出す。楽しい遊園地が目の前にある以上、駆け出さずには居られないからだ。


「やれやれ……子供みたいだな……」

「あれが彼女達ですからね……俺達も向かいましょう」

「だな」


 この光景にヤツフサは呆れた表情をしていて、零夜は苦笑いしながら説明する。彼等も歩きながら倫子達の後を追いかける中、この様子を電柱の影からこっそり見ている者がいた。

 男性である事には間違いないが、長谷川ではない事も確かだ。


(……)


 男性は無言で零夜達の姿を見つめた後、その場から移動したのだった。


 ※


 東京ワンダーランドの中に入った零夜達は、その外観に驚きを隠せずにいた。

 今いるメインゲート広場にはシンボルとなる巨大地球儀が飾られている。ゆっくりと横に回転しながら、地球が今も回っている事を証明しているだろう。


「凄い……中に入っただけでこんなオブジェがあるなんて……」

「地球って、こんな惑星だったんだね……」


 エヴァ、マツリ、アイリン、トワ、エイリーン、ハユンの6人は、巨大地球儀のオブジェを見ながら興味津々に見つめていた。遊園地に入場してからこんな物を見るのは初めてなので、興味津々になるのも無理なかっただろう。


「まさか入場口にある巨大地球儀に対し、興味津々になるとはね……」

「初めての遊園地だから仕方がないと思いますよ」


 この様子を見た倫子、日和が苦笑いをする中、零夜とヤツフサはとある方向を見つめていた。それは多くのキャラクター達がお客さん達を出迎えながら、写真を撮ったり触れ合ったりしていたのだ。


「あれは確か……この遊園地のキャラクター達か」

「ええ。俺も小さい頃にキャラクター達と写真撮りましたからね。あの時は今でも忘れていません」


 零夜が当時の事を思い出しながら、ヤツフサにキャラクター達の事を説明する。

 零夜もかつて家族で遊園地に行った時、キャラクター達と写真を撮った事があるのだ。


「で、東京ワンダーランドにいるキャラクター達だが、動物が多いみたいだな」

「ええ。メインは犬のワン太郎、猫のニャン子、リスのスク丸、ウサギの……ん? こんな奴いたのか?」


 零夜はヤツフサに東京ワンダーランドのキャラクターを説明するが、見た事のないウサギがこの遊園地にいるのだ。それに零夜が疑問に感じたその時、ウサギがズカズカと彼の元に接近してきたのだ。


「あっ、見た事のないウサギがこっちに近付いてきた!」

「どうせその正体は分かっている……長谷川だろ?」


 零夜はウサギの正体をすぐに察し、彼を指さしながらその正体を宣言する。するとウサギは着ぐるみを脱いだと同時に、中から長谷川が姿を現したのだ。


「ウサギの正体が長谷川だったなんて……」

「その様子だと俺を始末してきたのだろうな。いい加減に懲りろよ!」


 トワ達がこの光景に驚きを隠せずにいる中、零夜は長谷川に対して止めろと叫んでいく。こんな事を何時までも続けていれば、最後はやられるのがオチだと判断しているのだ。


「断る! 邪魔するなら倒すのみだ!」


 長谷川は怒りで零夜に立ち向かうが、エヴァが彼の手を掴んで強く握りしめる。その表情はとても怒りに満ち溢れていて、大切な人を傷つけるのなら容赦はしない性格だ。


「あなたなんか最低! 大嫌い!」

「ぎゃあああああ!!」


 エヴァの強烈パンチが長谷川の顔面を殴り飛ばし、彼は勢いよく大空に飛ばされてお星様になってしまった。大嫌いと言われた事と怒りのダブルパンチを喰らった以上、もう零夜達に絡んでくる事は無いだろう。


「助かったぜ、エヴァ。お前がいなかったらどうなっていたのか……」

「気にしないで。さっ、私達もキャラクター達と交流しに向かいましょう!」


 零夜がエヴァの手を取りながらキャラクター達の元に向かおうとするが、彼等がゾロゾロと零夜達の元に駆け付けてきた。恐らくエヴァが長谷川を殴り飛ばしたのを見た事で、興味を持ちながら集まってきたのだろう。


「へ? 私達の元に近付いてきた?」

「今の行為は流石にまずかったんじゃ……」

「嫌な予感しかしません……」


 予想外の展開にエヴァ、マツリ、エイリーンは冷や汗を流してしまうが、アイリンはすぐに近付いてきた原因を察する。そのまま彼女はワン太郎の方に近付き、彼の顔をじっと見ながら話を始める。


「もしかして……私達が八犬士だという事を知っているの?」


 アイリンの質問にワン太郎はコクリと頷き、カメラを構えながら一緒に写真を撮って欲しいと頼み込む。それを見たアイリン達は断る理由にもいかず、一緒に撮る事を決断する。


「それじゃ、皆で撮りましょう!」

「その前に本来の姿に着替えないとね! この方が私達と言えるし」


 トワの提案で皆は本来の姿になる事を決断。そのまま彼等は光のオーラに包まれながら、戦闘衣装へと姿を変えたのだ。

 因みにヤツフサは小型フェンリルへと変身し、ハユンが彼を抱き上げた。


「よし! キャラクターの皆さんは集まってね!」

「写真を撮りたいお客さんは私達の前に移動してきてください!」

「ルールを守って行動してね!」


 倫子、日和、ハユンの呼びかけと同時に、キャラクターだけでなく、お客さんも次々と集まってきた。更にスタッフのサポートもあったお陰で、特別撮影会はスムーズに進む事が出来た。


「撮りますよ! はーい!」


 零夜達を中央にしながら撮影会が始まり、皆はカメラやスマホを構えながら次々と写真を撮り始めた。

 まさか遊園地に入っただけで撮影会をするのは驚いたが、これもいい経験となるなろう。


 ※


 零夜達は撮影会を終えた後、東京ワンダーランドにあるアトラクションを楽しみ始める。ジェットコースター、メリーゴーランド、コーヒーカップ、ゴーカートなどを体験しながら楽しく過ごしていた。

 因みにキャラクター達も全員付いてきて参加していたが、その理由は聞かないでおいた方が良いだろう。


 ※


「ふーっ、楽しかった! 東京ワンダーランドに来て良かったかも!」

「私もこの遊園地に来て良かったわ。ソフトクリームも美味しいし」


 アイリンはソフトクリームを食べながら、アトラクションを楽しめて良かったと感じている。エヴァ達もソフトクリームを食べながら笑顔になっていて、アイリンと同様満面の笑みを浮かべていた。

 その様子を見ていた倫子と日和も、ソフトクリームを食べながら笑顔になっている。


「でしょ? 東京ワンダーランドにはまだまだアトラクションが多くあるから、ソフトクリーム食べたら次のアトラクションに行きましょう!」

「「「はーい!」」」


 倫子の説明を聞いたアイリン達は、手を挙げながら一斉に返事する。この様子だと学校の先生と生徒に見えていて、零夜とヤツフサはソフトクリームを食べながら唖然としていた。


(彼奴等、子供としか見えないな……)

(今の様子を見ればそうかも知れないな……)


 零夜とヤツフサが心からそう思い、今のアイリン達の姿にため息をつくしかなかったその時、向こうからミディアムヘアの女性が彼等の元に駆け寄ってきた。服装はコートと白パーカー、ワッペン付きのオーバーオール。更には帽子を被っているのだ。

 その女性を見た零夜は誰であるのかすぐに分かり、彼女に視線を移す。


「あなたはミュージシャンのにこさん! その様子だと何かあったのですか?」

「八犬士がいると聞いて探していたからね。実は私……ある男に追われているの!」

「「「ええっ!?」」」


 にこからの突然のお願いに、その場にいる零夜達は全員驚きを隠せずにいた。同時に遊園地における戦いも、始まりを告げようとしていたのだった。

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