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閑話29 遊園地のヒーロー騒動①

 元旦での騒動から数日後、零夜達のいる屋敷では倫子が彼等を呼んで話をしていた。


「遊園地?」


 倫子からの提案に零夜と日和が疑問に感じ、エヴァ達異世界組も頭に?マークを浮かべながら同様の表情をしていた。エヴァ達は日本に来てから色んな事を勉強中なので、遊園地というのはあまり聞いた事がないのも当然である。


「ええ。エヴァ達は日本に来てから色んな文化を学んでいるし、たまには皆で遊園地に遊びへ行くのもありだと思うの。皆で楽しむのは勿論だけど、日本文化を知る勉強も兼ねるのでいい案でしょ?」


 倫子からの提案を受けた零夜達はお互い顔を見合わせるが、その内容に誰もが笑みを浮かべながら賛同する。この様な経験をするのは滅多にないので、参加しないと聞いたら断る理由にはいかないだろう。


「だったら皆で行きましょう! 折角の体験だから、皆で行った方が楽しいと思うし」

「私も遊園地には興味あるからね」

「色んなアトラクションがあるし、乗りたいところはたくさんあるから!」

「私もコーヒーカップに行きたいです!」


 エヴァ、マツリ、トワ、エイリーンは遊園地に行きたいと色んな意見を述べている。それにアイリンやハユンも同意しながら頷き、自らも遊園地に行きたい様子が丸分かりだ。


「なら、決定ね。今度の日曜日に皆で東京ワンダーランドへ向かいましょう!」

「東京駅にある遊園地ね。あそこは色んなアトラクションがあるし、家族連れやカップルの間でも有名になっているわ」

「そうだね。そうと決まれば早速スケジュール確認をしないと!」


 倫子が提案する行先は、東京駅近くにある東京ワンダーランド。そこはジェットコースター、観覧車、コーヒーカップ、メリーゴーランド、ゴーカート、空中ブランコ、巨大クライミングなど様々なアトラクションがあるのだ。

 それに日和達は同意したと同時に、すぐに自身のスケジュールを確認する。幸いこの日は仕事休みみたいで、皆大丈夫そうだ。


「私達は大丈夫です!」

「それなら安心やね。あと、この遊園地は動物立ち入り禁止だって」

「じゃあ、ヤツフサはお留守番だね……」


 倫子の説明を聞いたハユンはヤツフサに視線を移すと、彼は隅っこで退屈座りしながら落ち込んでいた。彼はフェンリルでも動物の種類に入るので、遊園地に興味を持とうとしても入る事さえできないのだ。


「何故俺が仲間外れにされるんだ……」

「なんかごめんね……けど、ヤツフサが人間に変身できれば入れると思うけどな……」


 倫子はヤツフサに謝罪した直後、彼が変身できれば遊園地に入れる事が可能じゃないかと予測する。それを聞いたヤツフサはすぐにある事を思い出し、全員に視線を移す。


「それなら俺も変身できるぞ。こう見えても変身能力が可能だからな」

「本当なのですか⁉」


 ヤツフサが変身できる事を零夜達に説明し、彼等は驚きを隠せずにいた。まさかヤツフサにそんな能力があったとは知らなかったのも無理なく、皆が興味を持つのも当然と言えるだろう。


「今から見せてやる。はっ!」


 ヤツフサは自らの身体から煙を出した直後、彼は新たな姿に変身し始める。そのまま煙が晴れた直後、彼は狼の獣人へと姿を変えたのだ。しかし顔は狼となっているので、これはどうカウントするのか分からないだろう。


「獣人に姿を変えたけど、頭が完全に狼となっているわね……」

「本当に大丈夫なのか心配になってきた……」


 ヤツフサの獣人姿を見たアイリン、エヴァは唖然としていて、日和達も同様に頷く。獣人に変身できたとしても、頭が動物というだけで追い出される可能性もあり得るだろう。


「まあ、このぐらいが限界と言えるが……あとは上手く通る事ができるかだな」

「そうするしか方法はないですね……」


 ヤツフサの推測に零夜は苦笑いするしかなく、今回の件はここで一旦中断する事に。後はチケットの手配など色々あるが、ヤツフサの件は無事に遊園地に入れる事を心から祈るしかなかったのだった。


 ※


 そして日曜日。零夜達は遊園地に行く為、私服姿でお台場の駅に集まっていた。ヤツフサも日和が用意したカジュアルな服を着こなしていて、全員いるか正確に確認していた。


「まさか俺の様な獣人も遊園地に入れるとは驚いたな……俺としてはどうなるのか不安だったが……」

「エルフやドワーフ、獣人なども人間に含まれる事になったからね。その分お金も掛かるけど」


 ヤツフサは自身の今の姿でも、遊園地に入れる事は大丈夫だという事を実感していた。それにトワが補足しながら説明し、エイリーンも同意しながら頷く。

 エヴァ達が地球に来てから、国全体で異世界人についてどうするか考えていた。その結果、異世界から着た種族について、人として含まれる者は人間と同じであると決断。それによって人間と同じ行動をする事を認められているのだ。


「まあ、そればかりはしょうがないですけどね。そろそろ電車が来ますよ」


 エイリーンが指さす方を見ると、東京ワンダーランド行の電車が姿を現そうとする。そろそろ東京ワンダーランドへの旅が始まろうとしていて、誰もがこの時を待ち焦がれていたのだ。


「あっ、電車が来た……って、ええっ⁉」

「何この電車⁉」

「怖いです……」


 なんと姿を現した電車は、正面が般若の顔となっていた。その電車を見た倫子達は驚くのも無理なく、エイリーンに至っては涙目だ。

 これを子供達が見たらビックリするのは勿論、怖がって逃げてしまうのは確定と言えるだろう。


「般若の電車……こんな事をするのは……まさか!」


 すぐに零夜は般若の電車が来た原因を察した直後、電車の中から長谷川が姿を現した。いつの間に何処で話を聞いていたのかは分からないが、この様子だと遊園地での邪魔をするに違いないだろう。


「長谷川! 何しに来た!」

「お前が倫子さん達と共に遊園地に行くと聞いていたからな。だから邪魔しに来たのだよ」


 長谷川はジト目をしながら零夜を睨み付け、邪魔をしに来た事を宣言する。

 実は会社で零夜達が遊園地に行く事をこっそりと聞いていて、それを聞いた長谷川は血涙を流しながら悔しそうな表情をしていた。般若の顔をした電車を作ったのも、その楽しい雰囲気をぶち壊そうと考えて制作していたのだ。


「そんな嫉妬で邪魔をするな‼ さっさとこの世から消えろ‼」

「ぐへらば‼」


 長谷川の説明を聞いた零夜はすぐに駆け出し、強烈アッパーで長谷川を勢いよく殴り飛ばす。彼は殴られた衝撃で駅から吹っ飛ばされてしまい、あっという間にお星様となってしまったのだ。

 因みに長谷川は一般人なので、八犬士達に殴られると勢いよく飛ばされてしまう。これはどんな一般人でも零夜達に殴られてしまえば、同じ展開となるのは確実だろう。


「まったく! こんなところに来て邪魔する馬鹿が何処にいるんだ!」

(苦労しているんだな……その気持ちは分からないでもないが……)


 零夜は怒りの表情で手を叩き、この様子にヤツフサは唖然としながら心から思っていた。

 零夜がこの世界で倫子達と同居する事になってから、長谷川達が嫉妬で零夜を心から憎んでいた。それから様々な策略で邪魔をしようとしていたが、尽く失敗してやられるのがいつものパターンであるのだ。


「まあまあ。取り敢えずは電車に乗りましょう。こういうストレスは遊園地で発散しておかないと!」

「そうだな……時間も惜しいし、さっさと乗って皆で楽しもうぜ!」


 エヴァは苦笑いしながら零夜を落ち着かせ、遊園地に入ってストレス発散する事を提案。それに零夜も同意し、全員で般若の電車に乗って遊園地へと向かい出したのだ。

 しかし彼等はこの時、気付いていなかった。遊園地内である事件に巻き込まれてしまい、それが戦いへと繋がってしまう事を……。

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