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閑話28 最強傭兵 裕二④

 裕二は真剣な表情をしながら、格闘技の構えを取りながら戦闘態勢に入る。その狙いは立ち上がってきたサロメであり、彼女を倒すまでは任務終了と言えないからだ。


(奴は今の左ストレートを喰らっても倒れなかった……それなら徹底的に攻めて、倒すしか方法はない!)


 裕二は心の底から思いながら、スピードを上げてサロメに立ち向かう。その速度は前よりもギアを上げていて、速攻で任務を終わらせるつもりだろう。


「速攻で倒すつもりか! デビルアイ!」


 サロメは再び魔眼を発動させ、石化を狙おうと光線を発射させる。しかし裕二は素早い動きで見事回避し、そのまま彼女へと接近してきたのだ。


「何!? 私のデビルアイが躱された!?」


 予想外の展開にサロメが驚く中、裕二は強烈なアッパーを彼女に放つ。その速度は新幹線並みの勢いで、サロメは真上に大きく吹っ飛ばされてしまう。


「がっ……!」

「まだだ! 俺の攻撃はここで止まる筈がない!」


 裕二は格闘技術で次々とサロメに攻撃を与えまくり、ダメージを蓄積させていく。傭兵で鍛えた経験とオールファイトの技術が重なった事で、強烈な攻撃を次々と出せる事ができるのだ。


「これで終わりだ! デッドアッパー!」

「ぐはっ!」


 ラストは強烈な左アッパーが決まり、サロメは宙を舞いながら回転してしまう。彼女は勢いよく落下してしまい、床に背中を打ち付けられて即死してしまった。そのまま金貨となって地面に落ちてしまったのだ。


「終わったか……任務完了だ!」


 裕二はサロメが消滅した事を確認し、すぐに金貨を拾い始める。同時にパルルも元の姿に戻ってしまい、彼女は不満そうな表情をしていた。

 パルルは元に戻らなかった方が良かったのかも知れないが、このままにしたら別の意味で危ない展開になるだろう。


「チェッ! 元に戻っちゃったよ!」

「だが、サロメを倒した事で任務終了だ。すぐに移動するぞ」


 不満そうなパルルの頭を撫でた裕二は、彼女と手を繋いでヴァクロスの基地へと戻り始める。任務が終了した以上、ここに長居する理由にはいかないのだ。


「はーい……こうなったらザルバッグにお願いしておこうかな。大人の身体にして欲しいって」

「そんな事許される理由ないだろ……」


 パルルの悪巧みを聞いていた裕二は、唖然とした表情をしながらツッコミを入れる。いくら何でもこの様な事を、ザルバッグは許してくれないからだ。

 裕二はすぐにワープゲートを眼の前に召喚し、パルルと共に中に入り始める。二人がワープゲートの中に入ったと同時に、ゲートは消滅しながら姿を消す。その直後に基地が振動と同時に崩れ始め、数分後には瓦礫の山へと変化したのだった。


 ※


「ご苦労だった。これでハルヴァス征服への一歩が踏み出せただけでも、良いとしよう」


 ヴァクロスの基地内では、裕二からの報告にザルバッグは満足そうな笑みを浮かべていた。ハルヴァスへの侵略の出だしは上手く成功したので、一先ずは良しとしようと考えているのだろう。


「パルルについては状態異常を無効化にしました。その代償として大人の姿になる現象が起きてしまいましたが、現在は状態異常検査の為に医療室で治療を受けています」

「そうか。彼女は大人の女性になる事を、心から気に入っている可能性があり得るな。その時は何とかしておくとしよう……」


 裕二の説明を聞いたザルバッグは納得の表情をした後、パルルの今後の事について考える事を決断。この事を放っておけば、彼女の怒りで殴り飛ばされてしまう可能性もあり得るからだ。


「さて、今後の事に関してだ。現在八犬士達は地球とハルヴァスを行き来しながら、悪鬼と戦う事に身を投じている。恐らく悪鬼の奴等が地球に来る可能性もあり得るだろう」

「彼等もそこまでバカではありませんし、恐らく対策を仕掛けてきそうですね」


 ザルバッグの真剣な説明を聞いた裕二は、同意しながら真剣な表情で考え始める。

 悪鬼は現在Cブロックが零夜達との戦いに赴き、DからGブロックの上位がやられてしまうという事態が発生している。このまま放っておけば悪鬼が滅ぶのも時間の問題。それによって対策会議が開かれるのも当然と言えるだろう。


「更に悪鬼はA、Bブロック、その上である四天王、更には最強幹部も存在すると聞いている。そしてゴブゾウとタマズサを倒さなければ、悪鬼は終わりとは言えないからな」

「ええ。奴等の強さは未知数と言っても過言ではありません。私とパルルもまだまだ実力不足な部分がありますので、精一杯強くなります。それでは」


 裕二はザルバッグに対して一礼した後、その場から回れ右をして立ち去っていく。更に強くなって悪鬼を倒す情熱の炎が、背中から見ても相手に伝わってくるだろう。


(彼ならもしかすると、ヴァクロスのエースになる可能性があるだろう。だが、他の奴等も負けじと成果を出そうと動き出している。もしかすると……八犬士達と邂逅する事もあり得るだろうな……)


 ザルバッグは裕二の今後、これからの展開を予測しながら、真剣な表情で考え始めた。

 今後ハルヴァスを完全に征服する為には、八犬士達との戦いは避けられない。その事を覚悟しておく必要があると感じながら、用意されているグラスを手に取り、中にあるワインをゆっくりと飲み始めた。


 ※


 その夜、裕二は用意された個人部屋で、椅子に座りながら後楽園で起きた大量虐殺を振り返っていた。

 あの事件から数ヵ月が経ったが、彼の心には娘である莉奈を失った悲しみが今でも残っている。悪鬼の連中が後楽園に現れなければ、莉奈は死なずに済む事ができた。更に由恵とも離婚せず、円満な家庭が続いていた筈だ。

 しかし、そうでなければパルルと出会う事は無かったし、ヴァクロスに入って新たな道を進む事は無かった。複雑な心境となっているが、過去を変えようとしても無理である事は確実だ。


「娘を失ってから数ヵ月経か。由恵は今頃どうしているのだろうか……あいつの事だから心配ないと思うが……」


 裕二は離婚していた妻の由恵を思い出しながら、お皿にあるナッツをポリポリと食べ始める。

 由恵は裕二と離婚した後、コンビニ店員として既にリスタートしていた。住居についてはアパートで生活しているが、家に戻ると上の服だけ脱いで破廉恥行為をする悪い癖が残っている。これに関してはどうする事もできないので、放っておくしかないだろう。


「まあ、あの悪い癖はどうしようもないと言えるが……」


 裕二が由恵の行動にため息をついた途端、突然テレビの画面に速報ニュースが流れる。それはマルテレビで行われている生放送の「逃走ロワイアル」で、小学生逃走者の刈谷が死亡した事だ。

 この事件は後に逃走ロワイアルが放送休止となってしまい、打ち切りのまま終わりを告げられる事になる。更にマルテレビで発生しようとする重大事件へと繋がるが、それは別の話だ。


「まさか大晦日に死人が出てしまうとはな……世も末だぜ……」


 裕二は心の底からため息をついた後、窓の外を見上げる。空は満天の星空が輝いて、多くの星座も見えている。ヴァクロスは山の中にある基地なので、夜空を見上げた時の絶景がいつでも見られるのだ。


「俺の戦いは終わりを告げる事は無い……娘を殺した悪鬼の連中を倒す為にも……そして……八犬士の一人である東零夜と……決着を着ける為にも……!」


 裕二は心から決意を固めたと同時に、真剣な表情をしながら夜空を見上げていた。その数分後に除夜の鐘が鳴り始め、彼は星空を見上げながら新年を迎えていたのだった。

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