ポーラはグリモアドラゴンが来る事を推測した後、真剣な表情をしながらユウユウ達に視線を移す。その姿に彼女達も真剣に頷き、一斉に戦闘態勢に入り始めた。
「良い? グリモアドラゴンはかなりの強敵。一人一人が弱くても、皆で力を合わせれば勝てるわ!」
「そうやね。たとえ相手が誰であろうとも、ウチ等ならやれる!」
「バイルの思いを無駄にしない為にも、あのドラゴンは倒してみせる!」
「相手が誰であろうとも、負けられないわ!」
「ええ! この街を守り通す為にも、絶対に倒すんだから!」
ポーラの指示に対し、ユウユウ達は意気込みを入れながら応えていく。同時に上空からグリモアドラゴンの姿が見え始め、鳴き声を上げながら彼女達の元へ向かっていた。
その姿はデータと変わらず、当然遠くからでも怖いと言えるだろう。
「来るわ! 一気に攻めて倒しに行くわよ!」
「短期決戦か……なら、ユイユイ!」
「任せて!」
ユウユウとユイユイは上空にジャンプしたと同時に、両手から炎と氷の球を生成し始める。すると球は急速的に大きくなり、ついには身体半分の大きさになってしまったのだ。
「「
ユウユウとユイユイはそれぞれの球を投げ飛ばし、2つの球は一つの球へと合体していく。そのまま球はスピードを上げてグリモアドラゴンの眼前に移動し、強烈な爆発を起こしたのだ。
「グオオオオオ!!」
「今がチャンス!」
グリモアドラゴンは目の前の爆発を受けてしまい、目をやられて動きを止めてしまう。
するとチャンスと見たアンナは素早く跳躍したと同時に、ナイフを構えながらグリモアドラゴンに狙いを定めていた。
「ナイフ乱れ投げ!」
アンナが投げ飛ばしたナイフは、グリモアドラゴンの身体に突き刺さる。すると敵の動きが遅くなっただけでなく、更には痺れ効果で動けなくなった。
「動かなくなったけど、痺れ薬を使ったのね」
「ええ。チャンスは今しかない。攻めるなら……今よ!」
アンナの合図を受けたポーラとサユリは同時に飛び出し、跳躍しながらグリモアドラゴンに立ち向かう。するとポーラの脳裏にとある過去が思い浮かべられた。
それは赤ん坊の頃に両親が殺されてしまった事、バイルによって助けられた事、彼の指導で剣術の腕前が良くなった事であり、どれも忘れられない思い出となっているのだ。
(私が赤ん坊の頃、両親はダレンが呼び寄せたドラゴンに殺されてしまった。けど、バイルさんが救ってくれたからこそ、今の私がいる。そのバイルさんも死んでしまった以上……私は彼の思いを受け継いで、ドラゴンを倒す!)
ポーラは心の中で決意したと同時に、自らの持つ剣を光らせ始める。同時にサユリの剣も光り輝き、3本の剣の威力が大幅に上がり始めた。
「今の効果は?」
「味方全体の武器の威力を上げるスキルを発動したわ。さあ、行くわよ!」
ポーラの説明にサユリはコクリと頷いたと同時に、2人は駆け出して強烈な攻撃を放とうとする。グリモアドラゴンが動かなくなった以上、チャンスは今しかないのだ。
「「デストロイスレイヤー!」」
ポーラとサユリの2つの斬撃が、グリモアドラゴンの首を斬り裂く事に成功。グリモアドラゴンはそのまま悲鳴を上げる事なく、光の粒となって消滅してしまった。
「やった……私達……」
「ドラゴンを倒せた……!」
ポーラとサユリはドラゴンを倒せた事に喜びを隠せない中、彼女達はそのまま地面に落下しようとしていた。しかも急降下のスピードで落ちていくので、このままいけばお陀仏確定だ。
「しまった! 着地を考えてなかった!」
「それを早く言ってよ! まだ死にたくない! 助けて〜!」
ポーラがハッとした表情で着地の事を考えてなく、サユリは助けを求めながら叫んでしまう。
するとガルムに変身したユウユウが駆け出し、ポーラとサユリを背中で受け止めた。彼女達がいなかったら、大変な事になっていただろう。
「まったく……後先考えないからこんな事になりますよ」
「う、うん……ごめん……」
「気を付けないとね……でも、ありがとう……」
ユウユウからの注意を受けたポーラとサユリは、苦笑いしながら返すしか無かった。それを見たユイユイとアンナも同様の表情で、この光景を見つめていたのだった。
※
その後、グリモアドラゴンは確実に討伐する事に成功し、街への被害は0に収められた。ダレンも死んだ事で3億ハルヴがユウユウ達の元に手渡され、その内の1億はベルグルに寄付する事になった。
しかしバイルの死による悲しみはとても深く、住民達の提案で彼の墓が建てられた。今後彼の墓が存在する限り、このベルグルの今後を見守ってくれるだろう。
※
ユウユウ達はベルグルを去る事になり、住民達が見送りに来ていた。グリモアドラゴンを討伐した事を感謝していて、見送らずには居られなかっただろう。
しかし、その中にはポーラの姿がいなかった。
「ポーラさんは? 姿が見えないけど……」
「ああ。彼女なら……あそこだ」
住民の一人が指さす方を見ると、ポーラが新たな姿で駆けつけてきた。その姿は胸サイズの袖無しシャツ、青いガントレット、膝当て、そしてジーンズという組み合わせだ。
「ポーラ! その姿は一体……」
「もしかしてイメチェンしたの!?」
驚きを隠せないユウユウ達に対し、ポーラは笑顔を見せながら説明する。
「一晩中考えたけど、私もあなた達に付いていくわ。バイルさんと父さんの意思を継ぐ以上、私は剣士として活躍する! 父さんやバイルさんもそう決意した以上、私も頑張らないとね」
ポーラの決意の宣言に対し、ユウユウ達は納得の表情で頷く。ここまで話を聞いた以上、仲間にせずには居られないだろう。
「勿論大歓迎や! 仲間が増えただけでも心強いし」
「一緒に頑張りましょう!」
「ええ! これから宜しくね!」
ポーラは正式にユウユウ達の仲間となり、彼女達はベルグルから去っていく。住民達が見送る中、その内の一人がポーラについてある事を思い出す。
「思い出した。ポーラは伝説の剣士であるセルゲイの娘だ。彼はバイルと共に戦っていた友人であり、こう呼ばれていた。ハルヴァスの剣聖と……」
「「「!?」」」
男の説明を聞いた住民達は驚きを隠せず、彼等は一斉にポーラに視線を移す。しかし彼女はユウユウ達と共に去っていて、その姿は既にいなかった。
「どうやら……ハルヴァスに新たな風が吹くかもな」
男は微笑みながらそう呟いた後、後ろを向いてその場から歩き出す。ポーラ達のこれからの物語に興味を抱きながら、街の何処かへと消え去っていくのだった。
※
ユウユウ達はポーラを仲間に加え、草原を歩きながら次の目的地へと向かっていた。
「次の目的地はアルペンタウンだけど、そこに悪鬼のアジトがあるわ。グリモアドラゴンよりはかなり手強いけど、大丈夫?」
ユイユイは心配そうな表情をしながら、ポーラに対して質問する。
悪鬼はグリモアドラゴンよりかなり手強く、普通の冒険者が立ち向かっても返り討ちにされるのが殆ど。しかしユウユウ達は零夜達と共に戦った経験があるので、格下クラスなら倒せる事が可能であるのだ。
その質問に対してポーラは笑顔を見せながら、コクリと頷く。
「大丈夫。私はどんな相手でも一歩も引かないし、悪鬼についてはだいたい知っているからね」
「それなら大丈夫やね。じゃあ、早速目的地に向かわないと!」
ユウユウは納得の表情をした後、ポーラ達と共にアルペンタウンへと駆け出していく。青い空に浮かんでいる太陽の光が、そんな彼女達を照らしていたのだった。