ダレンの宣言に街の人達が騒然としてしまい、誰もが驚きを隠せず動揺してしまう。すると彼は呪文を唱え始め、魔法陣を展開する。
「いかん! 奴はドラゴンを呼び寄せるつもりだ!」
「あの魔術が!? だとしたら止めなくては!」
バイルは危険を感じながら皆に説明し、住民達は一斉にダレンを止めに向かう。すると彼はバリアを展開してしまい、誰も寄せ付けずに弾き飛ばしてしまう。こうなると強烈な攻撃を与えなければ、止める事は難しいだろう。
「もう遅い! ドラゴンよ、カモン!」
そのまま魔術が発動されたと同時に、魔法陣とバリアは消えてしまう。魔術は無事に発動する事に成功した以上、ドラゴンが来るのも時間の問題だ。
「遅かったか……」
バイルは悔しそうな表情をしながら項垂れてしまい、住民達は恐怖のあまり冷や汗を流してしまう。こうなってしまった以上、住民達は一斉に避難するしか方法はないだろう。
するとバイルは決意を固めたと同時に、住民達に声を掛ける。
「こうなったら私一人で立ち向かう! 皆は避難してくれ!」
「いや、一人で立ち向かうのは無謀だから! あのドラゴンは危険すぎるって!」
バイルの真剣な宣言に対し、アンナが慌てながら制止をかける。先程言った通り、いくら何でも一人で立ち向かうのは無謀しかなく、死んでしまう確率は高いと言えるだろう。
しかしバイルは首を横に振り、断固一人で立ち向かおうとしていた。それ程執着心が強いのだろう。
「すまない……これは私のけじめでもあるんだ。あのドラゴンとは20年前に戦ったが、奴を追い払うだけで精一杯だった。だが……もうあの時の思いは絶対にさせない。だから皆は避難してくれ」
バイルの宣言に対して住民達は一斉に頷き、皆一斉に避難し始める。彼の話を聞いた以上、身の安全を確保して避難しなければならないのだ。
その様子を見たバイルは後ろを向いた直後、そのままどこかへと去っていく。その様子を見ていたアンナ達は、ただ黙り込んで見つめるしかなかった。
「さて、私達はダレンを……いない!」
「逃げられたみたいね。ここは手分けして探しましょう!」
アンナ達はダレンを倒そうとするが、彼の姿は既に逃げられていた。しかし遠くまでには逃げていないので、4手に別れてこの街中を探す事に。
アンナ達はそれぞれ別れて、各自で行動し始める。その様子を見たポーラも決意を固め、アンナの後を追いかけ始めたのだった。
※
その後、アンナ達はベルグルの街中を探し回ったが、ダレンの姿は見当たらなかった。奴は素早い動きを持ち味としているので、そう簡単には見つからないだろう。
「見つかった?」
「全然! 本当に何処にいるのやら……」
ユウユウがため息をつきながら悩んでいる中、ポーラがある事を思い出しながら手を叩く。その様子だと心当たりがあるのだろう。
「そう言えば……確かバイルさんは南方面に行った様な……」
「南方面か……じゃあ、その場所に向かいましょう!」
ポーラからのアドバイスを受けたユウユウ達は、南方面へと駆け出していく。恐らくダレンはバイルと遭遇し、彼と戦う可能性が高いだろう。
ポーラも急いで後を追いかけるが、同時に心の中で不安も感じていた。バイルが死んでしまう可能性があるんじゃないかと。
※
南方面ではバイルがドラゴンを討伐しようと動き出しているが、そこにダレンが立ちはだかっていた。恐らくドラゴンを討伐させまいと、武器を構えながら抵抗しているのだろう。
ダレンの武器は死神の大鎌であり、強力な威力を誇る。その為、一撃喰らってしまえば、死んでしまう可能性は高いのだ。
「邪魔をする気なのか?」
「当たり前だ。ドラゴンがいなければ、俺の作戦は失敗する。邪魔するなら……殺すのみだ!」
ダレンは大鎌を構えつつ、横一閃に振ってきた。しかしバイルもロングソードを構えたと同時に、その一撃を弾き返した。
「隙ありだ!」
すかさず横一閃の斬撃を繰り出し、ダレンに斬撃のダメージを与える事に成功する。彼は口から血を吐いてしまうが、すぐに態勢を立て直して戦闘態勢に入る。
斬られた箇所から身が流れているが、このくらいなら問題ないと感じているだろう。
「まだ戦えるのか?」
「当たり前だ! 俺は目的を達成するまで死なねえ! デスブレイド!」
ダレンが放つ大鎌の斬撃が、バイルに襲い掛かる。彼はバックステップで回避しようとするが、その斬撃を右斜め上から斬り裂かれてしまった。
「そ、そんな……! この私が……!」
「どうやら勝負ありだな……」
バイルは大ダメージによって前のめりに倒れてしまい、地面に血が広がっていく。そこにアンナ達がようやく駆け付け、彼の元に駆け寄ってきた。
「バイルさん!」
ポーラはバイルの元に駆け寄り、彼の手を握る。傷はとても深く、今治療しても間に合う事は不可能。絶体絶命の状態であるので、どうする事もできないのだ。
「ポーラ……逃げていなかったのか……」
「心配だから駆け付けてきました……お願いだから死なないでください……!」
ポーラは今にも泣きそうな状態で、バイルに対して死なないで欲しいと懇願する。しかし彼は首を横に振ったと同時に、手元にとある剣を召喚する。それは聖剣の様な物であり、鞘に収まれているのだ。
「ポーラ……私からの餞別だ。今持っている私の剣と……君のお父さんが残してくれた聖剣がある。この2つを……君が使ってくれ」
「お父さんが残した……聖剣……」
ポーラはバイルから2本の剣を受け取り、その内の聖剣を鞘から引き抜く。すると刀身は銀色であり、太陽の光によって輝いていた。
この聖剣こそアロンダイトであり、ポーラは驚きの表情で見つめるしかなかった。
「これは私と君の父さんからの伝言だ……この2本の剣は、お前の為に引き継ぐ存在だ……この2つを駆使して……多くの他身を守る存在になってくれ……それが……我々の願いだ……」
バイルは穏やかな笑みでそう告げた直後、光の粒となって大空へと消え去った。この光景にポーラは我慢できず、大粒の涙をこぼしてしまった。
「うわあああああ!!」
ポーラは大声で泣き叫んでしまい、アンナが彼女をムギュッと強く抱き締める。アンナだけでなくユウユウ、ユイユイ、サユリも貰い泣きしてしまい、大粒の涙をこぼしていたのだ。
(バイルさんは最初から優しい人だった……けど、彼はこの戦いで死ぬ覚悟を決めていた……それを皆に早く伝えるべきだった……)
アンナは心の中で後悔しながら、泣きじゃくるポーラの頭を撫で続ける。その様子を見たダレンは、馬鹿にした様な表情で嘲笑っていた。
「へっ。人一人死んだぐらいで、何泣き叫んでいるんだよ……」
ダレンの嘲笑いがポーラの耳に届いた直後、彼女はアンナから離れて立ち上がった。そのまま2本の剣を構えながら、コツコツと彼に近付いていく。
「ほう? やる気だな。返り討ちにしてくれる!」
ダレンは再び大鎌を構え、強烈な斬撃を繰り出そうとする。しかしそれよりも早くポーラが駆け出し、彼の目の前に接近してきた。
そのまま双剣による強烈な斬撃を繰り出し、ダレンを見事斬り裂く事に成功。彼は無言のまま倒れてしまい、そのまま光の粒となって消滅したのだ。
「アンタみたいな奴に……生きる資格なんてないわ。地獄で悔い改めなさい!」
ポーラは涙目の怒りの表情で、消滅したダレンに対して宣言する。父だけでなく、バイル、故郷の皆を殺した恨みはとても大きく、怒りの表情になるのも当然であろう。
「グオオオオオ!!」
(この遠吠え……いよいよか……)
するとドラゴンの雄叫びが聞こえ始め、ポーラは心の中で決意を固める。自分の因縁の相手であるグリモアドラゴンとの戦いが、幕を開けようとしていたのだった。