グリモアドラゴンの姿にユウユウ達が冷や汗を流す中、アンナは冷静な表情でじっと見ていた。その様子だとグリモアドラゴンの事を気にしているのか気になるが、冷静さを保っているのは確かだ。
「アンナ、よく落ち着いているわね……ん?」
サユリがアンナの顔をよく見ると、彼女は目を開けたまま寝ていたのだ。
実は彼女、長い話が苦手で寝てしまう悪い癖があるのだ。それによって勉強がとても苦手なので、成績は下の方である。
「寝ている場合か!」
「うわっ!」
サユリの怒鳴り声がアンナの耳元で響き渡り、彼女は慌てながら目を覚ましてしまう。この様子にユウユウとユイユイはため息をついてしまい、ポーラとバイルは苦笑いしてしまう。
「ごめんなさい……けど、グリモアドラゴンの弱点って、光属性ですよね? その攻撃を喰らえば勝てるんじゃ……」
アンナは皆に謝罪をする中、自身の考えを皆に告げる。その内容を聞いた誰もが納得をするが、バイルは首を横に振った。
「いいや。普通の光攻撃では不可能。逆に倒されてしまう」
「じゃあ、更なる攻撃を与えないと駄目みたいですね……」
バイルの説明を聞いたアンナは、真剣な表情で考え始める。弱点攻撃を与えるだけでなく、強烈な攻撃まで繰り出さなければならない。そうでもしない限りはグリモアドラゴンを倒す事は不可能だろう。
「だが、私は奴を倒す覚悟を決めている。この街に必要な存在である以上、奴と戦う覚悟だ」
「本気なのですか!?」
バイルの真剣な決意にユウユウ達だけでなく、ポーラまで驚きを隠せずにいた。しかしアンナは真顔の表情をしながら、じーっとバイルを見つめていたのだ。
「ああ。まずは腹ごしらえをしてからだ。それから皆に話をするとしよう」
「分かりました。じゃあ、注文は何時もの奴で良いのですか?」
「ああ。それで構わない」
バイルは食事をする事にし、何時ものメニューを注文する。すると彼の前に大きめの皿に置かれたステーキと、大きなフルーツパフェが用意されたのだ。
「なかなかやりますね……」
「まあ、これぐらいが普通だが」
バイルの注文したステーキとフルーツパフェを見たアンナは、冷や汗をかきながら驚きを隠せずにいた。彼は平然としながら答え、すぐに食事に入ろうとする。
「それならこっちは……スペシャルを!」
するとアンナは指を鳴らしながら、特製のパフェを注文。するとかなり大きめの高さを誇るフルーツパフェが、彼女達の机にドサッと置かれたのだ。
「これは考えたな……」
「へへーん。 私だってそこまで馬鹿じゃないからね」
冷や汗を流すバイルに対し、アンナは平然とした表情で指を鳴らす。するとユウユウ、ユイユイ、サユリの3人が彼女に近付き、一斉に肩を叩いた。
「これ、どうするのですか?」
「まさか私達で食べると言う訳じゃないでしょうね?」
「もしかすると……考えていたんじゃないんですよね?」
3人はジト目でアンナを睨みつけ、彼女は大量の冷や汗を流してしまう。調子に乗って特大のパフェを頼んだ事が、仇となってしまったのだ。
「い、いや……そこまでは……」
「「「やっぱり……」」」
アンナは横目を向きながら答えてしまい、ユウユウ達はがっくりと項垂れてしまった。
結局特大パフェを4人で食べる事になってしまったが、無事に完食する事に成功したのだった。
※
アンナ達がレストランから出た途端、街の人達が多くいるのを見かける。その様子だとバイルの事を待っているのだろう。
「凄い人気ね……」
「バイルさんがこの街で必要だと言う事が分かったかも……」
ユウユウとユイユイがバイルの人気を感じる中、その彼が姿を現す。誰もが皆待ち焦がれていて、彼の元に駆け寄ってきたのだ。
「バイルさん、来てくれたのですか!」
「ああ。実は皆に対して話をしなければならない」
「何かあったのですか?」
バイルからの話に皆が興味津々となったその時、彼は真剣な表情で話し始める。それはとてつもなく重大な事であり、緊迫した空気が漂ってきた。
「実は……この街に……災厄である……グリモアドラゴンが再び来る……!」
「「「ええっ!?」」」
バイルからの緊急宣言に対し、街の人達は驚きを隠せずにいた。まさかあのドラゴンが姿を現すとは思ってもおらず、あの恐怖に怯えている者も少なくないだろう。
「グリモアドラゴンが来る!? どうして!?」
「20年前に奴を追っ払ったが、再びこの街に来る事が分かった。この時は部下達と共に立ち向かったが、今では私一人だからな……」
「そんな! 私達はどうなるの!?」
街の人達はパニックに陥るのは当然で、中にはブレイクダンスをしてしまうのもいる。その様子を見ていたバイルは、真剣な表情で皆に話し続ける。
「私がグリモアドラゴンを倒す。皆は街から避難して、安全な場所に避難してくれ」
「バイルさん、本当に大丈夫!?」
「大丈夫だ。皆は心配しなくていい。倒し方は知っているからな」
バイルは自信に満ちた表情で皆に話すが、アンナは心配そうに彼を見つめていた。グリモアドラゴンはとてつもなく強いドラゴンで、バイルが一人で倒すのは無理だ。
当時は部下がいて追い払う事ができたが、今の彼は一人のみ。こうなるとやられてしまう確率は高いだろう。
「だったらウチ等も手伝う! こう見えても悪鬼と戦った経験があるからね」
「私達も戦士である以上、戦う覚悟はできているから!」
ユウユウは自ら決意を固めながら、グリモアドラゴンと戦う覚悟を決める。ユイユイ、アンナ、サユリも同意見であり、既に戦闘態勢に入ろうとしていた。
それにポーラなどの街の人達は驚きを隠せず、ざわついてしまうのも無理ない。
「本当に大丈夫なの!? 相手はあのグリモアドラゴンよ!」
「心配しないで。ドラゴンとの戦いは何度も経験しているし、困っている人は放っておけないから!」
ポーラが心配そうな表情をしながら、ユウユウ達に声を掛ける。いくら彼女達が立ち向かおうとしても、やられる展開を予想するのも無理はないだろう。
それに対してサユリが代表し、自信満々に答える。ポーラなどの困っている人を見ると、放っておけなくなる悪い癖があるのだ。
(なるほど。困っている人は放っておけない。実に見事だな)
バイルがユウユウ達の姿に感心していたその時だった。
「おっと。そう簡単に倒せると思うのか?」
「ん?」
突然の声に全員が振り向いた途端、一人の男が姿を現した。赤い丸い鼻、ピエロメイク、赤いアフロ、更には白い紳士服を着ていた。見た目からすればとんでもなくヤバイ奴であり、悪者である事に間違いない。
「貴様は何者だ?」
「俺の名はダレン。3年前にある村でグリモアドラゴンを呼び出し、壊滅させた実績を持つのさ」
「「「!?」」」
ダレンは不気味な表情で自己紹介をし、誰もが驚きを隠せずにいた。まさかこの男がグリモアドラゴンを召喚するのは想定外であり、ざわついてしまうのも無理なかった。
ダレンはグリモアドラゴンを呼び出した元凶でありながら、指名手配犯として賞金首まで掲げられている。その金額は三億ぐらいで、始末しなければならない対象人物にまで指定されているのだ。
するとバイルは真剣な表情をしながら、ダレンに近付き始める。元凶が見つかったとなれば、黙らずにはいられないのだ。
「ダレンか。この街に何しに来た?」
「ドラゴンを呼び出したと同時に……この街を破壊するのさ……20年前と同じようにな!」
ダレンはニヤリと笑いながら、この街であるベルグルの破壊を宣言する。
20年前にグリモアドラゴンが襲来し、この街を一度破壊した犯人はダレンと判明。それを聞いた住民達は顔を真っ青にしてしまい、恐怖を感じ取るしかなかった。