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閑話21 ユウユウ達と災厄ドラゴン①

 ハルヴァスの西部にあるサルヴァ荒野。そこにはユウユウ、ユイユイ、アンナ、サユリの4人がヨロヨロと歩いているのが見えた。

 彼女達は零夜達と別れてから、風来坊として活動。しかし今はお金があるが、腹ペコの状態でヨロヨロと歩いているのだ。


「うう……腹減った……もうすぐお昼なのに……」

「食料が底をついたからね……こうなると近くの街に寄るか、狩りをしないと……」


 アンナはお腹を押さえながら、フラフラと歩いていた。サユリも苦笑いしながら、今の状況を皆に説明する。それに皆も納得する中、ユイユイがとある匂いを鼻で感じ取る。その様子からすれば、何か食べ物の匂いを感じ取ったのだろう。


「ユイユイ、何かあったん?」

「向こうに美味しそうな匂いがする……あっ! 街だ!」


 ユイユイが指差す方を見ると、なんと近くに街が見えていた。しかも匂いは街の中にあるレストランで、美味しそうな匂いが遠くまで流れているのだ。


「良かった! これで飢え死にしなくて済む!」

「それなら急いで向かいましょう! 早く食事に向かわないと!」


 ユウユウ達は急いで駆け出したと同時に、街へと走りながら向かい出した。自身のお腹を満たす為にも、ここで立ち止まる理由にはいかないと思いながら。


 ※


 西部にある街「ベルグル」。そこは西部開拓時代を元にした街であり、その特徴としてカウボーイやカウガールが多い。更にギャングもこの街に来る事があるので、治安は良くないと言えるだろう。

 その街に着いたユウユウ達は、匂いの発生源であるレストランに到着する。現在は12時前なので、人もそろそろ多くなる頃だ。


「良かった! この街にレストランがあって!」

「早速中に入って食べに向かいましょう!」


 ユウユウ達はすぐにレストランの中に入ると、そこは普通のファミレスの様な店だった。空いている席もあるので、問題なく食べられる事ができるだろう。


「席は空いているみたいね。さて、何処に座ろうかな?」


 ユウユウ達が空いている席を探そうとしたその時、一人の女性店員が彼女達の元に駆けつける。青いポニーテールをしたスレンダーの女性であり、エプロン、半袖シャツ、ジーンズを着ている。


「いらっしゃいませ。4名様ですね。こちらとなります」


 女性店員はユウユウ達を空いている席に案内する。そこは4つの椅子と大きなテーブルが用意されていて、彼女達はそのまま椅子に座り始めた。


「メニューはこちらの本に載っています。選びましたら声かけをお願いします」


 女性店員はユウユウ達にメニューについての説明をした後、其の場から移動する。すぐにユウユウ達はメニューの本を開き、どれにするか考え始めた。


「サンドイッチ、お肉、ビッグエッグなどあるんだ……じゃあ、オムライスにしようかな」

「私はクリームパスタ!」

「サーロインステーキで」

「私はハンバーグ!」


 ユウユウはオムライス、ユイユイはクリームパスタ、アンナはサーロインステーキ、サユリはハンバーグを注文。女性店員は頷きながら承諾し、料理人達に声を掛け始める。


「注文入りました! オムライス、クリームパスタ、サーロインステーキ、ハンバーグ!」

「了解! 素早く終わらせるよ!」


 料理人は音速のスピードで調理を始め、あっという間に料理を完成した。しかもその時間は僅か30秒。いくら何でも早すぎるとしか言えないだろう。


「こんなに早くできたんだ……」

「凄い……」


 ユウユウ達の目の前に料理が運ばれ、彼女達はあっという間にできた事にポカンとしていた。まさか30秒で早くできてしまうとは驚くのも無理ないだろう。


「ウチのシェフ、素早さが命ですからね……では、ごゆっくりどうぞ」

「「「いただきます!」」」


 ユウユウ達は注文した料理を食べ始め、満足そうな笑みを浮かべる。食料がない危機から脱する事ができたのは勿論、出された料理の味に舌鼓を打っていたのだ。


「美味しい! こんな料理は初めて!」

「我慢して来た甲斐があって良かった!」

(苦労していたのね、皆……)


 4人が目に涙を浮かべながら食べる姿に、店員であるポーラは苦笑いするしかなかった。まさかそんなに腹ペコになっていたとは予想外であり、この姿には何も言えないのも無理ないだろう。

 すると新たな来客が姿を現し、ポーラは彼に視線を移す。


「いらっしゃいませ。あっ、お久しぶりです! バイルさん!」

「「「?」」」


 ポーラの満面の笑みにユウユウ達が反応し、来客であるバイルに視線を移す。その男はカウボーイハット、紳士服、マントを着用していて、顔に髭が付いているのが特徴。その姿から見れば、ベテランの冒険者であるイメージが思い浮かべられるだろう。


「久しぶりだね、ポーラ。あれから3年経ったが、随分成長したみたいだな」

「ええ。バイルさんもお元気で何よりです」


 ポーラはバイルと話しながら、満面の笑みを見せている。この様子だと知り合いという事では間違いないが、過去にどうやって知り合ったのか気になるだろう。


(ベテランの冒険者か……ウチ等もあの様になるのかな?)

(分からないけど、精一杯頑張った方が良いかもね)

(私達なんてまだまだだからね……)

(う、うん……)


 ユウユウ達は自らの実力の無さを感じ取り、思わずため息をついてしまう。

 今の実力では最強モンスターに足手まといになるのも無理はなく、下手したら全滅してしまう可能性もあるからだ。彼女達は当然零夜達みたいに強くはなれないので、地道に頑張るしかないだろう。


「ところで……彼女達は此処に来たのは初めてなのか?」

「ええ。彼女達腹ペコだったみたいで」


 バイルはユウユウ達に興味を示し、ポーラは苦笑いしながら彼女達の説明をする。それに納得したバイルは、彼女達に話しかけ始める。


「食事の邪魔をしてすまないが、時間宜しいかね?」

「あっ、大丈夫です」


 バイルからの声掛けを受けたユウユウ達は食べる事を一時中断し、バイルの方に視線を移す。人から話しかけられた時はそれに応じる必要があり、一時中断するのが基本である。


「私の名はバイル。ベテラン冒険者として活躍しているが、この場所には何回も訪れているのだよ」

「そのベテラン冒険者がどうしてこの場所に?」


 バイルの自己紹介を聞いたユイユイは、気になる表情で質問をする。普通の冒険者ならこの街に何度も寄る事はそんなになく、大体年1回ぐらいは寄るだろう。


「ポーラとは縁があってね。実は20年前で彼女が赤ん坊の頃、この街にドラゴンが襲い掛かってきたんだ」

「ドラゴン? まさかこの街に襲い掛かってきたのですか!?」


 バイルの説明を聞いたユウユウ達は驚きを隠せず、冷や汗を流してしまう。まさかこの街にドラゴンが来た事は想定外としか言えず、言葉を失って黙り込んでしまうのも無理はないだろう。


「ええ。私の両親もドラゴンに襲われて亡くなりました。その時にバイルさんに助けて貰い、今があるのです」

「それでそのドラゴンというのは、どんなのですか?」

「データによればこんな物だな」


 バイルは自らのバングルを起動させ、ウインドウを召喚。そのままとある画像を映し出す。

 それはまさに黒いドラゴンであり、凶暴な角が生えている。クラスで言えばS級クラスのモンスターであり、苦戦するのも確定と言えるだろう。


「こ、このドラゴン……かなり凶悪です!」

「そう。それは災厄と言われたドラゴン……グリモアドラゴンだ」


 バイルの説明を聞いたユウユウ達はゴクリと息を呑んでしまい、冷や汗を流しながらグリモアドラゴンの姿を見つめるしか無かった。

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