ペンデュラスのギルド内では面接が始まろうとしていて、多くの者達が参加していた。その数は百人ぐらいだが、合格する確率は僅か4名となっている。要するにかなり厳しいと言う事だ。
すると受付嬢が参加者達の前に姿を現し、そのまま説明を始める。
「皆様、大変お待たせしました。これよりS級チームに入る面接を行いたいと思います」
受付嬢からの宣言と同時に、この場に緊迫の空気が流れ込む。この面接はかなり重要なので、下手な行動はできない。ましてやここで脱落すれば、S級になるのは難しくなるだろう。
「面接については正直な意見を述べる事が大事。それを守れたら合格に近付けます。しかし、心の中が大嘘であれば、即不合格となりますので」
受付嬢からの説明を聞いた殆どが、思わずゴクリと息を呑んでしまう。この面接に大嘘は通じないので、正直な意見を述べるしかないと判断せざるを得ないだろう。
「では、最初の方は……スリヤンさんですね。どうぞ」
「は、はい」
スリヤンと呼ばれた人間の男性は、前に出たと同時に部屋へと向かい出す。本格的な面接が始まりを告げられ、誰もが息を呑みながら見守るしかなかった。
※
「失礼します!」
スリヤンが面接会場の部屋に入ると、そこにはルイザとフェルネが椅子に座りながら待ち構えていた。彼等も面接では厳しめに接しているので、変な回答をすればその時点で不合格と言い渡すだろう。
「では、スリヤンじゃな。お主は確かDランクの様じゃが、S級になる覚悟はあるのか?」
「はい。ハイン達が不祥事を起こした影響は勿論、八犬士達の活躍を見て前から決意を固めています。自分が動かなければこのギルドは滅びてしまうと感じ、この面接を受けに来ました」
スリヤンはフェルネの質問に答えながら、真剣な表情をしていた。それは心からの本音であり、偽りなどなかったのだ。
フェルネはスリヤンの様子を見て真剣な表情をした後、すぐにリスト用紙に丸印を記入した。
「お主の意見は正直で見事じゃ。面接は合格!」
「ありがとうございます!」
スリヤンは面接に合格となり、彼は一礼しながら其の場から移動する。その様子を見ていたフェルネは頷きながら見ていて、ルイザも微笑みながらスリヤンの後ろ姿を見つめたのだった。
※
次はハング。彼も人間の男性であるが、年齢は小学校高学年となっている。ランクとしてはFランクだが、まだまだ伸び代がある。
「ハングがこの面接を受けた理由は?」
「俺はヒーローとして活動する為に、このギルドでS級ランクを目指そうとしています。悪い奴等を倒す為にも強くなるのみ!」
ハングは笑顔を見せながら、胸に拳をドンと叩く。その様子だとかなり自信に溢れていて、諦めずに立ち向かうだろう。
するとルイザが立ち上がったと同時に、ハングの頭をガシッと掴んだのだ。
「アンタね……ギルドというのはヒーロー活動していると思ったら大間違いよ。そんなにヒーローになりたいなら……地獄に堕ちろォォォォォ!!」
「ぎゃあああああ!!」
ルイザはハングの頭を掴みながら、窓の外に投げ飛ばした。そのままハングはギルド前の地面に落下してしまい、そのままピクピクと痙攣しながら倒れてしまったのだ。
不合格の場合はルイザとフェルネによるお仕置きを喰らう事が判明。それを見た参加者達の殆どが青ざめてしまった。
「不合格はお仕置きを喰らう……俺、一抜けた!」
「俺もだ! まだ死にたくない!」
「冗談が通じないんじゃ、S級になんてなれっこないぜ!」
すると参加者達が次々と逃げ出してしまい、三分の一が面接を辞退してしまった。このお仕置きに恐れてしまった彼等は、冗談を使いながらも合格しようとしていたに違いない。
そう。この面接は正直な意見を述べる者だけを合格する為の物であり、ここに残った参加者達は正直な意見を通そうとしていた。この件に関しては見事な戦略と言えるだろう。
※
「ミンジュンさん。どうぞ」
面接が次々と進む中、ミンジュンの時が来た。彼女は冷静な表情をしながら部屋の中に入り、ルイザとフェルネの前に立ち止まる。
「ミンジュン、お主はEランクの冒険者じゃな。S級に上がる覚悟はあるのか?」
フェルネが質問を投げかける中、ミンジュンは冷静に答え始める。その目は真っすぐとなっていて、偽りなどないのだ。
「はい、あります。私はこのギルドで多くの冒険者と出会い、共に戦ってきました。ですが、ハイン達の不祥事や八犬士達の活躍を見て、自分ももっと強くなる必要性を感じました。S級に上がることでギルドの名誉を挽回し、更に多くの人々を守りたいと考えています。」
ミンジュンは真剣な表情で答え、フェルネはその様子をじっと見つめていた。ルイザもミンジュンの答えに興味深々で、彼女の表情を観察していた。
その答えには偽りがなく、2人はミンジュンの可能性を感じていた。そのままフェルネがリスト用紙に丸印を記入し、笑顔の表情でミンジュンに視線を移す。
「君の意見は正直で、心からの本音じゃな。面接は合格!」
「ありがとうございます!」
ミンジュンは安堵の笑みで一礼し、部屋を出て行く。その様子を見ていたルイザとフェルネは、彼女について話し始める。
「もしかするとミンジュンは、お主とパートナーになれば良い活躍を繰り広げるかも知れんのう」
「まだまだ分かりませんよ。面接はこれからですから」
フェルネの意見にルイザは苦笑いしつつ、次の人を面談に呼び寄せ始める。
「次はリュウジさん。どうぞ」
受付嬢の合図と同時に、次の方が入ってくる。この面接は長く続くかと思ったら、1時間も満たないまま終わりを告げられたのだった。
※
面接が終わりを告げられ、フェルネとルイザはギルドスペースにいる合格者達を確認する。100人いた参加者は34人が不合格となり、66人が面接を合格したのだ。
「ほう。66人が合格か。ギルドの事を考えてくれるのは実に見事としか言えないのう」
フェルネは合格者の姿を見ながら喜びの表情をするが、すぐに真剣な表情をする。合格者がこれだけいるとなると、更に絞る必要があるのだ。
「しかしまだ試練が残っている。それは……S級クエストへのチャレンジじゃ!」
「「「S級クエスト!?」」」
フェルネからの宣言に参加者達は驚きを隠せず、その場でざわついてしまう。面接で終わりかと思ったら、まさかこの様なクエストを受けるとは思いもしなかっただろう。
「お主達はルイザと共にS級クエストに向かい、彼女をサポートしながらクリアを目指すのじゃ。しかしモンスター達のレベルも高い為、体力が一定以下となったら強制失格となる。試験は3日後に行われるので、準備を怠たらぬ様に」
フェルネがその場から去ったと同時に、ギルドスペース内はざわつきを隠せずにいた。面接に合格したのは良いが、まさかS級クエストの実技があるのは思いもしなかっただろう。
(何れにしても避けられない道か……頑張らないとね)
ミンジュンは心の中で冷静に決意したと同時に、3日後に行われる試験に向けて準備へと向かい出す。同時にこの場で解散となり、合格者達は一斉にギルドスペースを後にしたのだった。
(少なくともこのS級クエストとなる試験で、合格者が決まる。果たしてどうなるかね)
ルイザは参加者達の背中を見ながら、心の中でそう呟く。そのままクエストボードに視線を移し、試験となるクエストをどれにするか考え始めた。
※
それから1時間後、ルイザは自ら決めたS級クエスト用紙をフェルネに渡した。その内容を見た彼は納得の表情をしながら、このクエストを試験に使う事を決断した。
3日後に行われる事件はどうなるのか。それは先に進まなければ分からないだろう。