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閑話14 アルムルダの最強チーム②

 キリカ、ルミナール、クレアの3人は、サンサルダ樹海の前に辿り着いていた。そこにゴールドブルが潜んでいるが、他の大型モンスターも潜んでいる。彼等の縄張り争いに巻き込まれたら、最悪な展開が予測されるだろう。


「この先にゴールドブルがいるのか……なんか不安だな……」


 キリカは不安な表情をしながら、樹海に視線を移していく。その向こうにはモンスター達の気配が強く、遠くでは大型モンスターの鳴き声まで聞こえてくる。安易に入ろうとすれば、痛い目に遭うのは確実と言えるだろう。


「ユクタとロヴァがいなくて正解だったけど、一致団結して取り組む必要があるわね」

「ええ。すぐに樹海の中に入りましょう」


 ルミナールの意見にクレアも同意し、彼女達は一斉に樹海の中に突入する。目的であるゴールドブルを倒す為だけでなく、念願のS級ランクに辿り着ける為にも、ここで止まる事は出来ないのだ。


 ※


 その頃ギルドでは、一人の女性がキョロキョロと辺りを見回していた。その様子だと誰かを探しているらしく、ここにはいない事を確認していた。女性はエルフで、銀色の弓矢を構えている。銀髪のミディアムヘア、緑色のワンピースが特徴だ。


「もうクエストに出かけていたのかな……」


 女性がため息をついたその時、ウォルトが彼女の元に駆け寄ってきた。彼女の様子にいち早く気付く事が出来たのは彼であるが、長年の経験で人の気持ちを読み通す事ができるのだ。


「お主はキリカとルミナールを探しておるのか?」

「はい。そうですが……」


 ウォルトからの質問に対し、女性はコクリと頷きながら答える。彼女もキリカとルミナールと共に戦おうとしているが、声をかけるのが遅すぎていた。もう少し早く来る事ができれば、仲間に入る事ができたのだろう。


「キリカとルミナールはクレアを仲間に入れて、3人でサンサルダ樹海のクエストに向かっている。お主も行くのか?」

「はい。私も彼女達と共に戦います。話を聞いた以上は放っておける理由にはいきません!」


 女性は真剣な表情でウォルトに対してそう告げた後、すぐにギルドを飛び出してキリカ達を探しに向かい出す。彼女達が既に出かけているとなれば、急がなければ間に合わないだろう。


「若いのう……」


 その様子を見たウォルトは微笑みながら、女性の後姿を見つめたのだった。彼女もまた新たな可能性を秘めているという事を、心から思いながら。


 ※


 キリカ達は樹海の中に入り、敵がいないか確認していた。今のところは異常がないが、いつ飛び出すか分からないので油断は禁物だ。


「確かこの辺りにいる筈だけど……」


 キリカが辺りを見回しながらゴールドブルを探している中、クレアは耳をぴくぴく動かしながら辺りを見回し始める。恐らく敵が来る事を予感しているのだろう。


「向こう側に敵がいます」

「へ?」


 クレアが指さす方に全員が視線を移すと、そこにはトレントの大群がいた。しかもその数は90ぐらいで、苦戦するのも少なくはない。


「トレントは木の怪物ですが、火属性が弱点です!」

「火属性か。それなら、私に任せて!」


 クレアからのアドバイスを受けたキリカは、ナイフを構えながら戦闘態勢に入る。するとナイフに炎が纏わり始め、威力も増大に上がっていく。彼女のナイフはヒートナイフへと変化したので、これなら問題なく楽勝で倒せるだろう。


「やるなら攻めるのみ! はっ!」


 キリカは素早くスピードを上げたと同時に、強烈な斬撃をトレントに浴びせる。するとトレントは炎によって焦がされてしまい、あっという間に消滅してしまったのだ。しかも素材である木材と金貨が地面に落ちてしまい、キリカは素早く回収する。


「これでよし! けど、まだまだ禁物だから!」

「それなら私も助太刀します!」


 クレアはスピードを上げながら、剣に炎を宿し始める。すると赤い刀身の炎の剣へと変化し、炎まで剣に纏わり始めたのだ。これこそ正真正銘の炎の剣であり、クレアは頷いたと同時にスピードを上げて駆け出し始めた。


「攻めるなら今しかありません! フレイムブレイド!」


 クレアの炎の斬撃が次々と炸裂し、トレント達はなす術もなくやられていく。彼等は次々と素材と金貨に変えられてしまい、このまま全滅してしまうのも時間の問題だ。


「ナイス攻撃ね、クレア! なかなかやるじゃない!」

「ありがとうございます! けど、油断は禁物です。まだトレント達は半数もいますからね」


 クレアはルミナールに対してお礼を言い、現在の状況を真剣に説明する。まだトレントは50ぐらい残っていて、油断禁物と言えるだろう。


「こうなると……最後まで立ち向かわなければ意味ないかもね」

「誰もが皆諦めずに戦っている。ここまで来たとなると、後には引けないよね?」

「ええ。零夜達もこうやって強くなり、今の姿がある。彼等が地球にいる間は、私達でハルヴァスを守らないと!」


 キリカの宣言にルミナールも笑顔で頷き、彼女達は素早いスピードを上げてトレント達に襲い掛かる。トレント達はあっという間に倒されていき、全て素材と金貨に変えられてしまったのだ。


「よし! トレントについては大丈夫ね。早く先に進まないと!」

「ええ! 早くゴールドブルを見つけておかないと!」


 キリカとルミナールが先に進もうとする中、クレアは首を傾げながら彼女達に質問してきた。零夜達と言えば伝説の八犬士の事なので、彼等と知り合いなのか聞く必要があったのだ。


「零夜達と言えば八犬士の英雄と聞いていますが……知り合いなのですか?」


 クレアの質問に対し、キリカとルミナールは笑顔で頷く。


「ええ。彼等は私達の友人」

「そして目標でもあるからね」


 キリカとルミナールはクレアに対し、笑顔で零夜達について説明をしたのだ。


 ※


「へっくし!」


 地球にある東京のお台場。零夜は屋敷の中のリビングでくしゃみをしていた。恐らく誰かが噂をしていたらしく、くしゃみしてしまうのも無理なかった。


「零夜君、大丈夫?」

「もしかして風邪なの?」


 倫子とエヴァが心配そうな表情で声をかけるが、彼は首を横に振りながら否定している。


「誰かが俺の噂をしていまして……もしかすると……俺の事に関して噂しているんじゃ……」


 零夜が鼻をすすりながら、自分に噂がある事を予感する。それを聞いた倫子はある事を思い出し、ジト目で彼に顔を近づけてきたのだ。


「もしかすると……零夜君を好きになる人が続出したと思うんだけどな……最近、女性から声を掛けられる日が多いし」

「ええっ!? 確かにそうですが……」


 倫子のジト目に対し、零夜は冷や汗を流しながら応えるしかなかった。

 大晦日の戦いによって女性達から声を掛けられる日が多く、更にはプレゼントまで貰う事まで。サラリーマンからヒーローになった事で人生が変わったが、それによって恋愛関係は大変な事になっているのだ。


「それが原因で私達の間では不満になっているからね。それを解決するには、早くいい加減に花嫁を選んで結婚しなさいよ! 私か倫子のどっちかで!」

「マジか! 今すぐには決められませーん!」


 エヴァからもジト目で結婚しろと零夜に迫り始め、彼は冷や汗を流しながら叫ぶしかなかった。彼の花嫁は誰になるのやら……。

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