キリカ、ルミナール、クレアの3人は、サンサルダ樹海の前に辿り着いていた。そこにゴールドブルが潜んでいるが、他の大型モンスターも潜んでいる。彼等の縄張り争いに巻き込まれたら、最悪な展開が予測されるだろう。
「この先にゴールドブルがいるのか……なんか不安だな……」
キリカは不安な表情をしながら、樹海に視線を移していく。その向こうにはモンスター達の気配が強く、遠くでは大型モンスターの鳴き声まで聞こえてくる。安易に入ろうとすれば、痛い目に遭うのは確実と言えるだろう。
「ユクタとロヴァがいなくて正解だったけど、一致団結して取り組む必要があるわね」
「ええ。すぐに樹海の中に入りましょう」
ルミナールの意見にクレアも同意し、彼女達は一斉に樹海の中に突入する。目的であるゴールドブルを倒す為だけでなく、念願のS級ランクに辿り着ける為にも、ここで止まる事は出来ないのだ。
※
その頃ギルドでは、一人の女性がキョロキョロと辺りを見回していた。その様子だと誰かを探しているらしく、ここにはいない事を確認していた。女性はエルフで、銀色の弓矢を構えている。銀髪のミディアムヘア、緑色のワンピースが特徴だ。
「もうクエストに出かけていたのかな……」
女性がため息をついたその時、ウォルトが彼女の元に駆け寄ってきた。彼女の様子にいち早く気付く事が出来たのは彼であるが、長年の経験で人の気持ちを読み通す事ができるのだ。
「お主はキリカとルミナールを探しておるのか?」
「はい。そうですが……」
ウォルトからの質問に対し、女性はコクリと頷きながら答える。彼女もキリカとルミナールと共に戦おうとしているが、声をかけるのが遅すぎていた。もう少し早く来る事ができれば、仲間に入る事ができたのだろう。
「キリカとルミナールはクレアを仲間に入れて、3人でサンサルダ樹海のクエストに向かっている。お主も行くのか?」
「はい。私も彼女達と共に戦います。話を聞いた以上は放っておける理由にはいきません!」
女性は真剣な表情でウォルトに対してそう告げた後、すぐにギルドを飛び出してキリカ達を探しに向かい出す。彼女達が既に出かけているとなれば、急がなければ間に合わないだろう。
「若いのう……」
その様子を見たウォルトは微笑みながら、女性の後姿を見つめたのだった。彼女もまた新たな可能性を秘めているという事を、心から思いながら。
※
キリカ達は樹海の中に入り、敵がいないか確認していた。今のところは異常がないが、いつ飛び出すか分からないので油断は禁物だ。
「確かこの辺りにいる筈だけど……」
キリカが辺りを見回しながらゴールドブルを探している中、クレアは耳をぴくぴく動かしながら辺りを見回し始める。恐らく敵が来る事を予感しているのだろう。
「向こう側に敵がいます」
「へ?」
クレアが指さす方に全員が視線を移すと、そこにはトレントの大群がいた。しかもその数は90ぐらいで、苦戦するのも少なくはない。
「トレントは木の怪物ですが、火属性が弱点です!」
「火属性か。それなら、私に任せて!」
クレアからのアドバイスを受けたキリカは、ナイフを構えながら戦闘態勢に入る。するとナイフに炎が纏わり始め、威力も増大に上がっていく。彼女のナイフはヒートナイフへと変化したので、これなら問題なく楽勝で倒せるだろう。
「やるなら攻めるのみ! はっ!」
キリカは素早くスピードを上げたと同時に、強烈な斬撃をトレントに浴びせる。するとトレントは炎によって焦がされてしまい、あっという間に消滅してしまったのだ。しかも素材である木材と金貨が地面に落ちてしまい、キリカは素早く回収する。
「これでよし! けど、まだまだ禁物だから!」
「それなら私も助太刀します!」
クレアはスピードを上げながら、剣に炎を宿し始める。すると赤い刀身の炎の剣へと変化し、炎まで剣に纏わり始めたのだ。これこそ正真正銘の炎の剣であり、クレアは頷いたと同時にスピードを上げて駆け出し始めた。
「攻めるなら今しかありません! フレイムブレイド!」
クレアの炎の斬撃が次々と炸裂し、トレント達はなす術もなくやられていく。彼等は次々と素材と金貨に変えられてしまい、このまま全滅してしまうのも時間の問題だ。
「ナイス攻撃ね、クレア! なかなかやるじゃない!」
「ありがとうございます! けど、油断は禁物です。まだトレント達は半数もいますからね」
クレアはルミナールに対してお礼を言い、現在の状況を真剣に説明する。まだトレントは50ぐらい残っていて、油断禁物と言えるだろう。
「こうなると……最後まで立ち向かわなければ意味ないかもね」
「誰もが皆諦めずに戦っている。ここまで来たとなると、後には引けないよね?」
「ええ。零夜達もこうやって強くなり、今の姿がある。彼等が地球にいる間は、私達でハルヴァスを守らないと!」
キリカの宣言にルミナールも笑顔で頷き、彼女達は素早いスピードを上げてトレント達に襲い掛かる。トレント達はあっという間に倒されていき、全て素材と金貨に変えられてしまったのだ。
「よし! トレントについては大丈夫ね。早く先に進まないと!」
「ええ! 早くゴールドブルを見つけておかないと!」
キリカとルミナールが先に進もうとする中、クレアは首を傾げながら彼女達に質問してきた。零夜達と言えば伝説の八犬士の事なので、彼等と知り合いなのか聞く必要があったのだ。
「零夜達と言えば八犬士の英雄と聞いていますが……知り合いなのですか?」
クレアの質問に対し、キリカとルミナールは笑顔で頷く。
「ええ。彼等は私達の友人」
「そして目標でもあるからね」
キリカとルミナールはクレアに対し、笑顔で零夜達について説明をしたのだ。
※
「へっくし!」
地球にある東京のお台場。零夜は屋敷の中のリビングでくしゃみをしていた。恐らく誰かが噂をしていたらしく、くしゃみしてしまうのも無理なかった。
「零夜君、大丈夫?」
「もしかして風邪なの?」
倫子とエヴァが心配そうな表情で声をかけるが、彼は首を横に振りながら否定している。
「誰かが俺の噂をしていまして……もしかすると……俺の事に関して噂しているんじゃ……」
零夜が鼻をすすりながら、自分に噂がある事を予感する。それを聞いた倫子はある事を思い出し、ジト目で彼に顔を近づけてきたのだ。
「もしかすると……零夜君を好きになる人が続出したと思うんだけどな……最近、女性から声を掛けられる日が多いし」
「ええっ!? 確かにそうですが……」
倫子のジト目に対し、零夜は冷や汗を流しながら応えるしかなかった。
大晦日の戦いによって女性達から声を掛けられる日が多く、更にはプレゼントまで貰う事まで。サラリーマンからヒーローになった事で人生が変わったが、それによって恋愛関係は大変な事になっているのだ。
「それが原因で私達の間では不満になっているからね。それを解決するには、早くいい加減に花嫁を選んで結婚しなさいよ! 私か倫子のどっちかで!」
「マジか! 今すぐには決められませーん!」
エヴァからもジト目で結婚しろと零夜に迫り始め、彼は冷や汗を流しながら叫ぶしかなかった。彼の花嫁は誰になるのやら……。