零夜達はスパイダーの案内で、リトルペガサスがいる場所へと向かっていた。道中においてモンスターは現れず、無事に目的地へと向かう事ができているのだ。
「モンスター達はあまり出ないみたいで、取り敢えずは一安心ね」
「ええ。このまま何事もなく、リトルペガサスに会えて仲間にすればバッチリですね」
「そうそう。リトルペガサスは進化するとペガサスになるからね。早く会えるのが楽しみになってきたわ!」
倫子達は早くリトルペガサスに会う気持ちが強く、三人で談笑をしていた。その様子に零夜とヤツフサは呆れた表情をするのも無理はない。
「女性は可愛い物が好きだと聞きますが、リトルペガサスもその部類に入るのでしょうか?」
「ああ。しかしリトルペガサスを狙う者もいるからな。その時はきっちり始末を頼むぞ」
「任せてください。必ず使命を果たします」
ヤツフサからの忠告を聞いた零夜は、真剣な表情で頷きながら応える。クエストの邪魔をする輩がいれば、その時は容赦なく倒す事を心から決意しているのだ。それにヤツフサが感心するのも当然である。
するとスパイダーが突然止まり、リトルペガサスがいる場所が近い事を確認する。
「もう少しです。この先にリトルペガサスがいます!」
スパイダーは皆に説明したと同時に、素早く走りながらリトルペガサスのいる場所を目指す。それに倫子達も走り始め、彼の後を追いかけ始めた。
しかし、零夜とヤツフサは立ち止まっていた。何か理由があるのだろう。
「さて……そこにいるのは分かっている! 出てこい!」
零夜は後ろを向いたと同時に、すぐに敵の気配を察し始める。すると隠れていた女性二人が姿を現し、観念しながら戦闘態勢に入ろうとしていた。
しかも彼女達は護衛を放って逃げた二人で、ヘソ出しミニスカートの女性とビショップの女性であるのだ。
「まさかバレるとはね。私達もリトルペガサスを狙っていたのよ。売れば大儲けできるから」
「お金も少なくなって困っていたからね。護衛を逃げ出してから仕事が全く来ないし」
二人の女性の話を聞いた零夜は、その女性が護衛を放って逃げた生き残りだと知る。バンダナの男とスキンヘッドの男は始末された事は、数日前にギルドから聞いているのだ。
零夜は二人の女性に対して真剣な表情で睨みつけ、背中のオーラからは殺気が溢れ出ていた。
「アンタ等が護衛を放り出して逃げた奴等か。しかもその理由でリトルペガサスを狙うとは……どうやらお仕置きが必要だな!」
零夜は真剣な表情をしながら二人を睨みつけ、今でも倒そうと意気込み始める。それを見た二人の女性はビビってしまうが、気を取り直して戦闘態勢に入り始めた。相手が手強い人でも、目的を果たす為なら覚悟は出来ているのだ。
「ルミナール、準備は良い?」
「ええ。キリカ、あまり無理はしないでよね!」
ルミナールと呼ばれたビショップと、キリカと呼ばれたミニスカートの女性は戦闘態勢に入る。額には零夜に対する恐怖心と緊張感により、冷や汗まで流しているのだ。
キリカとルミナールはそのまま零夜に立ち向かい、森の中での戦いが始まりを告げられた。
「そこだ!」
「がはっ!」
まずは零夜がルミナールの顔面にドロップキックを放ち、彼女はそのまま仰向けにダウンしてしまう。ルミナールは当然格闘を習ってないのも無理なく、彼女は目を回しながら失神していた。
「そんな! 一撃でやられるなんて……」
キリカはルミナールがやられた姿に冷や汗を流していて、自身もやられるのではないかと不安になる。すると零夜がキリカにも襲い掛かり、彼女を押し倒して絞め技に入ろうとしていた。
「すぐに終わらせる!」
零夜はすかさずキリカの右腕を掴み、両ももで上腕をはさみ込む。同時に彼女の腕を引いたまま、ひじ関節を逆に伸ばした。これこそ絞め技の基本である十字固めだ。
「痛い痛い! 降参します!」
キリカは涙目で我慢できずにタップアウトしながら降参してしまい、一分以内であっという間に決着が着いてしまった。零夜とキリカ達にとっては月とスッポンの差があるので、この様な結末になるのは当然と言えるだろう。
(零夜を甘く見ていた彼女達は、あっという間にやられた。当然の結果だな)
この様子を見ていたヤツフサはうんうんと頷きながら、心から思っていた。同時にキリカは腕を押さえながら苦しい表情をしていて、ルミナールは失神したまま。零夜とヤツフサは彼女達が痛みと失神から解放されるまで、その場で待機する事にしたのだった。
※
「本当にすみません……」
「私達が悪かったです……」
その後、失神から回復したルミナール、腕の痛みから解放されたキリカは、零夜の前で土下座しながら謝罪していた。彼の強さと痛みを思い知ったからこそ、この様になるのも無理はない。
「まったく……そもそもなんで商人の護衛なんて引き受けたんだ?」
零夜はため息をついたと同時に、二人に対してどうして護衛の仕事を引き受けたのかを質問する。何か理由があるのなら、正直に話すべきだと感じているのだ。
「うちのリーダーだったユクタ、金の使い方が荒くて夜遊びばかりしていたの。護衛の任務を受けたのも、夜遊びのお金を準備する為に挑んだからね」
キリカの説明を聞いた零夜とヤツフサは、彼女が護衛の仕事を引き受けた理由に納得する。しかしユクタは女好きのせいで夜遊びばかり考えていて、訓練もろくにせずサボってばかり。マキシに殺されてしまったのも当然の結末で、今頃魂は地獄に落ちて裁きを受けているだろう。
「その結果、ユクタとスキンヘッドの男であるロヴァは殺されてしまい、任務は失敗。パーティーも解散してしまい、今に至るというわけよ」
ルミナールも補足しながらこれまでの事を説明し、この元凶はユクタであると判明する。彼が夜遊びせずに真面目に行動すれば、この結末は避けられていた。それによって彼とロヴァは殺されてしまい、今に至るのも無理はないだろう。
「そうだったのか。となると、全面的に悪いのはユクタのせいで、アンタ等は巻き込まれてしまったという事だな」
「だが、悪いのはお前達にも責任がある。罪を償って、一からやり直せ。それが我々からの願いだ」
零夜は納得の表情をしながら頷き、ヤツフサは厳しい意見をキリカとルミナールに述べる。護衛の任務を放り出したのは非情に許されない罪であり、零夜達が来なかったら殺された可能性もあり得るのだ。
「そうね……私達は間違っていたみたいだし。ここからやり直して精一杯頑張るわ」
「あなた達と話して本当に良かったわ。今度会う時は、まともな人間として戻ってくるから。その時は色々とお話しましょう」
キリカとルミナールは一礼したと同時に、走りながらその場から立ち去る。彼女達は自身の間違いを認めたと同時に、ここからやり直して精一杯頑張るとの事。零夜とヤツフサは彼女達の後ろ姿を見つめていた。
「彼女達なら、きっと良い冒険者になれるだろうな」
「ああ。人は間違いをする時だってあるし、ミスを今後に繋げていけば大丈夫だ」
零夜とヤツフサは微笑みながら、キリカとルミナールなら大丈夫だと信じていく。すると倫子がリトルペガサスを抱っこしながら、仲間達と共に戻ってきたのだ。その様子だと契約に成功したみたいだ。
「お待たせ! 無事に契約できたよ!」
「良かったですね。じゃあ、戻りましょうか」
倫子の笑顔に零夜は微笑んだ後、仲間達と共にギルドへと戻り始める。リトルペガサスとスパイダーはスピリットとなって、倫子のバングルの中に入ったのだ。
(彼奴等なら大丈夫だ。たとえ困難があろうとも、二人ならきっと……)
零夜は心からキリカとルミナールの事を思い浮かべ、彼女達なら大丈夫だと信じていた。また何処かで会える日を願いながら。