ランク決めの昇級試験から4日後、零夜達はクエストでサーリセルカの森の中を歩いていた。ここは虫やスライムなどが多く住んでいる為、自然豊かな場所となっているのだ。
「結局、零夜と日和のランクはCランクと決まったわね。まあ、ワイバーンの足止めと戦闘員を速攻で倒したのが、評価のポイントに繋がっているからね」
アイリンは4日前の事を振り返り、零夜達の今のランク結果に納得していた。因みに倫子はゴーレムを仲間にした奇跡を起こしたので、Sランクとなっているのだ。
「私達は藍原さんみたいにモンスターを仲間にできないけどね。その分精一杯頑張って、藍原さんに追いつかないと!」
「俺も勿論そのつもりです。今回のクエストはリトルペガサスの捜索だが、この森の中にいるのだろうか……」
日和と零夜はSランクを目指す事を決意する中、彼は今回のクエストの内容が気になっていた。
クエストの内容は森の中に住むリトルペガサスを探す事。勿論どうするかは任せるとの事で、その子を仲間にする事を決めている。しかし何処を探しても見つからないのが現状であり、出てくるのはスライムばかりだ。
「森の中にいるのは間違いないが、そう簡単には見つからない。気を付けて行動しておくぞ」
「了解。ん?」
ヤツフサの指示に全員が真剣に頷いたその時、彼等の前にモンスターが姿を現す。しかもそのモンスターはまさかの蜘蛛で、大きめのスパイダーだ。
「「「キャーッ!!」」」
当然倫子達女性陣は悲鳴を上げて逃げ出し、倫子は零夜に抱き着き、日和とアイリンは茂みの中に隠れてガタガタ震えていた。因みに零夜は戦いやクエストの時は平然としているが、それ以外は真っ赤になって倒れそうになるのだ。
「何逃げているんですか……スパイダーは役に立ちますし、仲間にすれば大丈夫ですよ」
「虫は嫌なの! 特に蜘蛛は嫌!」
零夜の提案を聞いた倫子は、涙を流しながら拒絶する。虫嫌いなのは確かだが、ここまで怯えるのは流石にどうかと言えるだろう。日和とアイリンも虫が嫌いなので、倫子同様に怯えているのだ。
「仕方がない……俺だけでも倒しに行くか。倫子さん、危ないから離れてください」
「や! 離れたくない!」
倫子は零夜にしがみついたまま離れず、まだスパイダーに対して恐怖心がある。こうなると中々離れないのも無理ないだろう。
それを見たヤツフサは呆れながらため息をついた後、すぐに倫子に近付き始める。八犬士の戦士として情けないと思った以上、心を鬼にするしかないのだ。
「仕方がない。本当はしたくなかったが、ここは荒療治をするしかないな」
「荒療治? どんな方法でしょうか?」
ヤツフサはスパイダー怖がる倫子に対し、荒療治をする事を決断。それに零夜は疑問に感じるのは当然である。
倫子がこのままの状態であれば戦いどころではないので、ヤツフサはそれを脱する為にもある行動を取ろうとしているのだ。
「行くぞ!」
ヤツフサがスピードを上げて駆け出し、倫子の元に向かったその時だった。
「あのー……僕、敵じゃないんですけど」
「「「へ?」」」
なんとスパイダーが自ら敵ではない事を喋り、その場にいる全員がポカンとしてしまう。日和とアイリンも茂みの中から飛び出し、零夜達の元にゆっくりと駆け寄ろうとする。
「お前、敵じゃなかったのか!?」
「はい。八犬士の活躍は耳にしていますし、僕も皆さんの役に立ちたいのです。それに他の皆さんも一緒です」
スパイダーが向こうに視線を移すと、様々なモンスターが姿を現す。ハチのモンスターのミツビー、クワガタ系のモンスターのスタビーマン、カブト虫モンスターのビートルマン、テントウムシモンスターのレディアス、蝶々モンスターのバタフライだ。
しかも数は各種類10匹。これは頼もしい戦力となりそうだ。
「凄いメンバーばかりだが、昆虫モンスターにも色んなのがいるんだな」
「ええ。後一人はこの人です」
スパイダーが向こうを指差すと、サソリのモンスターであるスコピオが姿を現した。
いわゆる普通のサソリだが、その大きさはスパイダーと同じである。しかしスコピオは一匹しかいないみたいだが、貴重な戦力になるだろう。
「お前さん達の噂は聞いている。俺も力を貸してやるぜ」
「感謝する。後はモンスター召喚が可能な彼女に、契約してもらわないとな……」
スコピオも力を貸す事を決意し、ヤツフサは一礼しながら礼を言う。そのまま彼は倫子の方を見ると、彼女は怯えながらもスパイダー達に視線を移していた。
敵ではない事に安堵するが、それでも虫嫌いである事に変わりはない。契約しようとしても、彼女のやる気次第で時間が掛かりそうだ。
「本当に……大丈夫なん?」
「ええ。我々はあなたをお守りしますので。それにリトルペガサスの行方を知っています」
「へ? ほんまなん?」
「知っているの?」
「早く教えなさいよ」
倫子は心配そうな表情でスパイダーに視線を移し、彼は笑顔で応えながらリトルペガサスの事も知っているとの事。それを聞いた倫子達は思わず反応し、素早くスパイダーに近づいて来た。目的の物を知る人がいるのなら、是非とも聞かなければ損だろう。
「ええ。慌てなくても僕が案内します。付いてきてください」
スパイダーの笑顔に倫子達も笑顔で頷き、彼の案内でリトルペガサスがいる場所へと向かい出す。すると零夜がある事に気付き、倫子達に視線を移した。
「あれ? もう虫モンスターについては大丈夫なのですか?」
零夜は気になった事を倫子達に質問した途端、彼女達はギクッと背筋を伸ばしてしまう。その様子だとまだ強さが残っていて、冷や汗まで大量に流れてきたのだ。
「その様子だとまだ怖がっているみたいだな……早く契約すれば良いのだが……」
「けど、心の準備が……」
ヤツフサはジト目で倫子達を見ていて、彼女は涙目で契約しようかどうか悩んでいた。まだ彼女は虫に対する苦手意識がある為、契約したくない気持ちが心の中にあるのだ。
それを見た零夜は倫子に近付き、彼女の手を取る。そのまま優しくニッコリと微笑んだ。
「大丈夫です。俺が付いていますから!」
「零夜君……うん! やってみる!」
零夜の笑顔を見た倫子は、すぐに前を向いて契約をする事を決意。それを聞いたスパイダー達は彼女に視線を移し、一礼しながら仲間になる事を心から誓った。
「契約開始! はっ!」
倫子は右手から光のオーラを放ち、スパイダー達は彼女と契約を結ぶ事になった。するとスパイダー以外はスピリットに変化し、次々と彼女のバングルの中に入ったのだ。
「上手くできるか分からなかったけど、零夜君がいたからこそ成功する事ができた。ありがとう」
倫子は零夜にお礼を言った後、彼をギュッと抱き締めて頭をポンポンと撫でる。この様子だと姉弟のスキンシップ関係に見えるが、いずれは恋人関係になる日が来るのか気になるところだ。
「よし。スキンシップはそこまでにして、リトルペガサスを探すぞ」
「そうやね。早く見つけて仲間にしないと!」
ヤツフサの合図に倫子は零夜から離れ、リトルペガサスを見つけようと意気込み始める。彼女達が先に進む中、この様子を二人の女性が見ていた事は、誰も気付いていなかった。