盗賊団との戦いから翌日、零夜達はギルドでメリアと話をしていた。内容については昨日話した零夜達の昇級試験で、今から行われるクエストの結果によってランクが決まるという事だ。
「今回のクエストですが、中型モンスター討伐です。討伐せずに仲間にするのもOKとなります」
「そのモンスターはどんなのですか?」
メリアの説明を聞いた零夜が質問した直後、彼女はウインドウの画面に討伐モンスターの画像を映し出す。それは岩でできたモンスターであるが、それを見た零夜はモンスターの正体をすぐに明かす。
「ゴーレムですね」
「そうです。彼は腕力が強く、とても大きいのが特徴です。殆どの冒険者達が昇格試験に挑んでいるモンスターこそ、このゴーレムなのです」
メリアの正確な説明を聞いた零夜達は、納得の表情をする。この昇級試験によって多くの冒険者が挑み、そこからS級パーティーや勇者としての一歩を踏み出すのだ。だが、ゴーレムを甘く見てしまうと、痛い目に遭うのはお約束と言える。彼によってやられた冒険者達は死んでしまったり、昇級できずにギルドを辞めてしまう者も少なくないのだ。
つまりこの昇級試験を真剣に取り組まなければ、死んでしまう事もあり得るという事だ。
「ゴーレムは手強いかも知れないけど、上手くできれば仲間にする事も可能かもね」
「そうなると心強くなりますし、今後のクエストにも役立つと思います」
倫子はゴーレムを仲間にすれば心強くなると感じていて、日和もそれに同意する。ゴーレムのパワーがあれば戦闘でも役に立つだけでなく、力仕事でも大助かりとなるだろう。
倫子の他にもゴーレムを仲間にしようとした人もいたが、それに成功した人は未だにいない。殆どが投げ飛ばされて酷い目に遭ったり、先にゴーレムを倒してしまった事態も多くある。それ程ゴーレムを仲間に出来るのは困難と言えるだろう。
「ともかく、クエストをクリアする事に集中しましょう。ゴーレムを仲間にするにはそれからです」
「そうやね。では、お願いします!」
零夜達はメリアからの昇級試験となるクエストを受諾し、すぐに身支度を整える。そのまま彼等は扉の先へ向かおうとした直後、メリアがカウンターから移動して声をかけてきた。
「言い忘れましたが、今回は私も同行します。試験の監査員として行動しますので」
「は、はあ……」
メリアも監査員として自ら同行する事を告げ、零夜達は苦笑いをしながら応えるしかなかった。彼等はそのまま扉を開いたと同時に、目的地となる場所へと向かい出したのだ。
※
零夜達は試験の場所であるロックマウンテンに辿り着き、初めて見る景色に視線を移していた。そこは岩山がとても多く、モンスターはファルコスやゴブリン、ウルフなどが多くいる。場所によってモンスターの生息地も違うので、ファンタジー世界の醍醐味でもあるのだ。
「ここがロックマウンテンか……凄く危険なところだな……」
零夜はロックマウンテンの全景を見ながら、真剣な表情で確認をしていた。岩山と言えども通り道はあるが、道は狭いのがほとんどだ。更に落石や崖崩れもあるので、要注意と言えるエリアだ。
「ええ。崖から落ちて死んだ冒険者の数も、そんなに少なくありませんからね」
メリアは真剣な表情をしながら、ロックマウンテンの恐ろしさを正確に伝える。それを聞いた倫子と日和は顔を真っ青にしてしまい、ゾッとしながら抱き合っていた。ロックマウンテンの恐怖を真剣に聞いたら、そうなるのも無理ないだろう。
「となると……ファルコス、出てきて!」
倫子はすぐに気を切り替えたと同時に、バングルを上に掲げて十個のスピリットを放出する。するとスピリットは次第に変化し、十羽のファルコスへと姿を変えたのだ。
「ウチ等が落ちそうになったら、しっかり支えてね! アンタ等が頼りなんやから!」
倫子からの頼みにファルコス達はコクリと頷き、彼女達と同行する事になった。大切な主を死なせる理由にはいかず、自身の役目を果たす覚悟があるのだ。
「これで崖から落下する心配は無いみたいね」
「うん。でもファルコスだけじゃ心配だから、他のモンスターも付けた方が良いかもね……」
アイリンはファルコスを呼び出した倫子を褒めるが、彼女は現在の状況を見て苦笑いしてしまう。
ファルコスはある程度物を持って運ぶ力があるが、重さによって限度がある。だからこそ空が飛べる他のモンスターを探し出し、彼等の負担を少しでも軽くしたいのだ。
「俺は空も飛べるし、元の大きさになれば人を乗せる事ができるが」
「俺も変化の術で様々な姿に変化できます!」
「じゃあ、その時はサポートお願いね」
ヤツフサは巨大化で空を飛ぶ事が可能で、零夜は変化の術でサポートする事ができる。それに倫子が笑顔でお願いしたその時、彼女達の目の前にモンスターが姿を現した。
「あれはウルフだ。しかも数は5匹いるぞ」
「彼等は攻めてくるみたいだし、ここは私が行くわ!」
ヤツフサの説明を聞いた日和は前に出たと同時に、銃を構えながら戦闘態勢に入る。ウルフ達もグルルと威嚇したと同時に、彼女に向かって襲い掛かってきた。
「そうはさせない! バレットショット!」
日和はウルフ達に向けて次々と発砲し、彼等を死なない程度にダメージを与えていく。そのまま日和が倫子に視線を合わせた直後、彼女は両手でマジカルハートの態勢に入った。
「後はお願いします!」
「任せて! マジカルハート!」
両手から放たれたハートの光線は、ウルフ達に見事命中。彼等はそのまま倫子に服従する事になり、伏せの状態で忠誠を誓ったのだ。
「アイリン、日和ちゃん。彼等の治療をお願い」
「任せて!」
「はい!」
アイリンと日和はダメージを受けたウルフ達の傷を回復させ、彼等はスピリットとなって倫子のバングルの中に入った。同時に零夜達のレベルも13に上がった途端、倫子に新たなスキルが追加されたのだ。
「あっ、モンスターを融合させるスキルが追加されたみたい。けど、どうやってやるのかな?」
倫子は新たなスキルであるモンスターの融合を取得していて、彼女はウインドウにあるステータス画面を確認する。そこにはモンスターの融合方法が書かれていて、内容を理解した倫子はすぐにある事を閃いた。
「今いるモンスターの融合が可能なら……早速試してみる価値があるかもね」
倫子はすぐにウインドウの画面を、モンスターの融合に切り替える。そこには可能な融合モンスターの組み合わせが掲載されていて、それを見た彼女はすぐに融合を開始させる。
「ファルコスとウルフ、ゴブリンとウルフを融合開始! スタート!」
倫子がスイッチを押した途端、ウルフ二匹とゴブリン一匹がこの場に召喚。さらにこの場にいるファルコス一匹がウルフ達の元に移動した途端、彼等が光り輝いたと同時に融合が始まった。
「融合が始まります! どんな姿になるのでしょうか?」
「役に立つモンスターなら良いけど……大丈夫かしら?」
メリアが興味津々で融合する姿を見つめる中、アイリンは心配の表情をしながら見届けていた。すると融合の光が収まり、そこにはハヤブサの羽が背中に生えた大きい白狼と、黒狼に乗ったゴブリンが姿を現したのだ。
「空飛ぶ狼のシルバーファルコン、狼に乗るゴブリンのゴブリンライダーです! 彼等は戦闘でとても役に立ちます!」
「そうなんだ! これからも宜しくね、二人共!」
「了解ですぜ、姐さん! 新たな力でサポートしやす!」
「任せて下さい! あなたを必ず守ります!」
メリアの説明を聞いた倫子は納得したと同時に、笑顔でシルバーファルコンとゴブリンライダーに呼びかける。彼等も笑顔で応え、倫子に対して改めて忠誠を誓ったのだ。
「では、先に進みましょう! クエストは始まったばかりですからね」
零夜の合図と同時に、彼等は目的地であるゴーレムのいる場所に向けて歩き出す。昇級試験のクエストはまだまだ始まったばかりなのだ。