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第16話 本格的な戦いへの道

「アジトを1つ討伐成功の度に、ランクアップ……本当なのですか!?」


 アイリン達からの提案を聞いた零夜は驚きを隠せず、メリアに対してそのままの表情で質問する。自分達が八犬士である事は確かだが、本当にそれで大丈夫なのかと疑問に感じるのも無理ないだろう。


「ええ。貴方方がタマズサを倒せる最後の希望となるのなら、私達もできる限りサポートします。死んでしまったケンジさん達やギルドのメンバーの仇を討つ為にも、あなた達には期待を寄せているのです」


 メリアは真剣な表情をしながら説明し、心から零夜達に期待を寄せている。実は零夜達がこの世界に来るまでは、ギルド内で大変な事が起きていたのだ。

 勇者であるケンジ達のパーティーが壊滅してから、ギルド内ではタマズサに対する不安が益々広まるばかり。勇気あるパーティーが仲間達と共に彼女を倒そうとしても、返り討ちに遭って一部が死んでしまう事態に。この事をアイリンに説明した後に相談した結果、この様な決断に至ったのだ。


「ギルドメンバーもタマズサの軍勢と戦っていたのですか?」

「ええ。他のギルドも同じ行為をしていましたが、結果は同様。中にはギルドを解散させたところも……」


 日和の質問を聞いたメリアは、俯きながら他のギルドも同じ行為をしたと説明する。彼等もまたタマズサと戦う事を決意したが、次々と返り討ちに遭う事態となってしまう。それによって多くの犠牲者も出てしまい、冒険者を辞める者も続出している。

 中には壊滅してから解散したギルドも一部あるので、それを聞いた零夜達は放っておける理由には行かなくなってきたのだ。


「分かりました。では、その特例を受け入れます!」

「本当ですか!?」


 メリアの話を聞いた零夜は、彼女達が提案した特例を受け入れることを決断。それにメリアが驚くのも無理はない。

 零夜は困っている人は放っておけず、最後まで役目を果たす性格である。しかしそれによって酷い目に遭う事もあるが。


「ウチ等だけでなく、他の皆も不幸になっている。この話を聞いたら放っておけへんよ」

「これ以上不幸な目に遭う人を増やしたくないですし、何が何でも倒しに向かいます!」


 倫子と日和もメリア達からの提案を受け入れ、死んだ戦士達の為に戦う事を決断。同時にアジトを1つ討伐成功の度、ランクアップも承認される事になった。敵であるタマズサの軍勢を減らすだけでなく、ランクアップによって強大な敵とのクエストにも挑める事ができる。まさに一石二鳥と言うべきだろう。


「ありがとうございます! では、この件については随時承認すると同時に、タマズサ軍の支部基地等も懸命に探しまくります! 貴方方の活躍を信じています!」

「こちらこそサポートを宜しくお願いします!」


 零夜とメリアは握手を交わし、お互いサポートしながらタマズサ軍を倒す事を決意。更に今回の盗賊退治によって、特例としてランクを決める昇格試験を受ける事になったのだった。


 ※


「やれやれ……騒がしい一日だったが、無事に終わる事ができたな」


 ギルドからの帰り道、ヤツフサは今日一日を振り返りながら零夜達と話をしていた。スライム退治、薬草採取と簡単な仕事を2つこなしたが、盗賊団と戦うのは予想外と言えるだろう。

 更に盗賊退治の功績により、ランクを決める昇級試験も行われる事に。ギルド初日から大変な展開となっていたが、無事に乗り切れただけでも幸いだ。


「そうね。3人共問題なくクエストをこなしていたし、実力からすればCランクでも大丈夫なんじゃない?」

「いや、そうはいかないぜ。現在俺達のレベルは10となっているし、Cランクのレベルは大体30ぐらいが妥当だからな」


 アイリンはCランクでも行けるというが、零夜は首を振りながら否定する。彼等のレベルはまだ10となっているので、Cランクにはまだまだ遠い。少なくともEランクぐらいはいけるぐらいだが、場合によってはDランクに行ける可能性もある。


「ウチももう少しレベルアップしないと、様々なスキルも解放できへんからね。一種類のモンスターを捕らえる数は十ぐらい増えたけど」

「私も様々なスキルを取得しないと、今後の戦いで苦戦するかも知れないし」


 倫子と日和も今のレベルでは満足できず、更に強くなる必要があると実感する。悪鬼の戦闘員達のレベルは、今の自分達よりレベルが高い可能性がある。仮に倒したとしても、次の敵が手強くてやられてしまう事もあり得るのだ。


「そうね。悪鬼との戦いはこれから先となるけど、アジトを見つけ次第動き出しましょう!」

「その通りだ。それまでレベルを上げて更に強くなるのが目標だ。その事を心に刻み込む様に!」

「「「おう!」」」


 ヤツフサの指示に零夜達は一斉に応えた後、帰りに市場へと向かい出した。明日はランクを決める昇格試験もあるので忙しくなりそうだが、今日一日はゆっくりと休もうと決意を固めていたのだった。


 ※


 その頃、とある林の中では四人の男女が話をしていた。彼等こそ商人の護衛を担当していたが、部が悪くなって逃げ出した4人である。


「まさか盗賊団を甘く見ていたとはな……。簡単な仕事だと思ったらレベルが違っていたし……」


 バンダナを付けた男は悔しそうな表情をしながら、拳を震わせている。護衛なんて簡単だと思っていたら、実際の内容は違っていた。盗賊団さえいなければ、こんな事にはならなかっただろう。

 男の隣にいるヘソ出しミニスカートの女性も、不満の表情で同意しながら頷いていた。彼女も男と同様に仕事を甘く見ていて、酷い目に遭ったと実感している。


「まあ、命あれば何とかなるけどね。今頃あの商人、どうなったのかな……」


 女性が空を見上げながらボヤいた途端、何処からか足音が聞こえ始める。恐らく今の話を何者かが聞いていたに違いないだろう。


「なんだ? 何処からか足音が聞こえるぞ!」

「警戒しておかないと!」


 スキンヘッドのハンター男性とビショップの女性が、足音をした者に対して警戒をし始める。すると足音の正体は一人の戦闘員であるが、彼は零夜達の世界を襲撃したリーダーであるのだ。


「護衛を放棄して逃げてしまう。あなた達はクズ其の者ですね」

「テメェ、何者だ!」


 バンダナの男が叫んだ直後、リーダーの男は真っ直ぐにナイフを投げ飛ばし、バンダナの男の心臓部分に突き刺さってしまった。投げたスピードは剛速球の為、貫通してしまうのも無理はない。


「がっ!」


 バンダナの男はそのまま仰向けに倒れてしまい、光の粒となって消滅する。その様子に2人の女性は驚きを隠せず、後ろを向いて走りながら逃げてしまった。


「おい、待て! 俺も逃げるぞ!」


 スキンヘッドの男が後を追いかけようとするが、リーダーの男は彼の前に移動して立ちはだかる。そのまま銃を懐から取り出し、目の前にいる敵の額に銃口を当てた。


「さようなら、愚か者」


 そのまま引き金が引かれたと同時に、銃声が鳴り響き始める。スキンヘッドの男は額を撃ち抜かれ、ゆっくりと仰向けに倒れてしまう。同時に光の粒となって消滅したのだ。

 リーダーの男は自らのバングルを起動し、ウインドウを召喚して通信を始める。するとウインドウの画面には初老の男性が映し出されていたのだ。


「バンドー様。マキシです。護衛を放ったらかしにした者達の始末ですが、2人は始末して2人は逃走となりました」

『うむ。残りの2人に関しては追手を出す必要があるな。取り敢えず今日のところは帰還してくれ』

「かしこまりました」


 マキシと呼ばれた戦闘員のリーダーは通信を切った後、後ろを向いてその場から去り始める。任務が終わった以上、帰還する必要があると判断しているのだ。


「八犬士が盗賊団を壊滅したとは驚いたが、彼等が我々にどう立ち向かうかですね……」


 マキシはクククと笑いながら、森の奥へと消えて行った。彼等と零夜達の戦いは何時になったら訪れるのか。それは誰にも分からないだろう。

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