零夜達とヤツフサの1人と1匹は、盗賊団「マハルダ」のアジトの前に辿り着いていた。そこには二人の見張りが入口を守っていて、そう簡単に入る事は難しさを感じるだろう。
「見張りなら……こいつを使うとするか!」
零夜は懐から白い火薬玉を取り出し、それをアジトの入り口前に投げ飛ばす。そのまま火薬玉は入口前の地面に落ちてしまい、爆発を起こしてしまう。その爆発によって白い煙が充満し始め、見張りは目に涙を浮かべながらパニックになってしまう。
「ゲホッ! ゴホッ! なんだこの爆弾は!」
「前が見えない……どうなっているんだ……」
見張りの二人が咳き込みながら辺りを見回そうとしたその時、零夜がいきなり飛び出して彼等を忍者刀で切り裂いていく。身体を切り裂かれた二人の見張りは仰向けに倒れてしまい、そのまま金貨となって地面に落ちてしまった。
「後は中にいる奴等を倒すだけだ」
「ああ。数については俺が調べてみるとしよう」
ヤツフサは自ら索敵能力を使い、洞穴のアジトの中にいる者達を確認し始める。僅か数分でアジトの中の様子が分かり、ヤツフサは現状を零夜に報告し始める。
「盗賊達は三名が中にいるが、リザードマンも3匹いる事が確認された」
「リザードマンとなると、倫子さんのマジカルハートが必要となるな……」
ヤツフサの報告を聞いた零夜は、真剣な表情でどうするか考え始める。するとアイリンが彼等の元に駆け付け、二人の肩をポンと叩いた。
「アイリン! その様子だと駆けつけに来たのか!」
「ええ。私がしっかりしないといけないからね。倫子と日和もそれぞれの役目に取り掛かった後、すぐに駆けつけるわ」
「そうか。こちらからはこの様になっている」
アイリンの話を聞いたヤツフサは納得した後、アジトの様子を真剣な表情で伝え始める。その内容を聞いた彼女は、真剣な表情で納得しながら頷いた。
「なるほどね。まずは盗賊達を倒す事に専念し、リザードマンは倫子が来てから対処しましょう」
「分かった。まずは盗賊達をどう倒すかだな」
アイリンからの提案を聞いた零夜は頷きながら応えるが、アジトの中にいる盗賊達をどう倒すか考え始める。洞穴の中に入って突撃すれば、奴等の罠によってやられてしまう。外で待機しながら奇襲を仕掛けるとしても、なかなか出てきてはくれないだろう。
「それなら私に任せて! いい策略があるから!」
「策略?」
「何をする気だ?」
アイリンは自らの策略を思いつき、それに零夜とヤツフサは疑問に感じる。すると彼女は懐からアイテムである笛を取り出し、それを演奏し始める。その音色はまさに独特で、現代的に言えばアラビアの音色と同じと言えるだろう。
(アイリンって、中華系の出身だろ? なんでアラビア風の曲を演奏するんだ?)
(俺に言われても分かる筈がないが……)
零夜とヤツフサが小声でヒソヒソと話をする中、アジトの中から何者かが出てきた。恐らく音色を聴いて我慢できずに向かったのだろう。
「来たぞ! 早速戦闘……!?」
なんと出てきたのは盗賊ではなく、3匹のリザードマンだった。予想外の事態に零夜とヤツフサは驚きを隠せず、アイリンも演奏を止めて唖然としてしまう。まさかの作戦が裏目に出てしまい、予想外としか言えないだろう。
「嘘でしょ!? こんな展開あり得ないわよ!」
「俺だって予想外だ。けど、戦うしかない!」
アイリンは驚きを隠せずにパニックとなり、零夜は冷や汗を流しながらどうすればいいのか悩んでしまう。しかし背に腹は代えられないので、戦闘態勢に入ろうとしたその時だった。
「マジカルハート!」
「!? その声は!」
突然の声にアイリンが振り向いた途端、なんと倫子がジャンプしながらマジカルハートをリザードマンに浴びせていたのだ。
「倫子! 商人の護衛を頼まれていた筈じゃ……」
「その事だけど、他の冒険者が引き受けてくれたの。お陰で早く駆け付ける事ができたからね」
倫子の説明を聞いたアイリンは納得の表情をしていて、零夜は倫子が来た事に安堵のため息をついていた。もし彼女が来なかったら、リザードマンとの戦闘は避けられなかったのだろう。
するとマジカルハートを喰らっていたリザードマンは動きを止めたと同時に、地面に着地した倫子の前に移動して片足を跪かせた。どうやら彼女を自身の主と認めたのだろう。
「姐さん。我々はあなたの矛となって戦います。今後ともお願い致します!」
「うん。宜しくね」
リザードマン達はスピリットに変化し、倫子のバングルの中に入っていく。これでリザードマンについては問題なく、残るは盗賊達だけとなった。
「そろそろ彼等が来る頃やね。リザードマンが外に出た事で、パニックになっているし」
倫子は洞穴に視線を移した途端、3人の盗賊達が一斉に姿を現す。それを見た零夜はすぐに手裏剣を構え、彼等に向けて投げ飛ばし始めた。
「お前等が来るとはドンピシャだ。これでも喰らえ!」
「がっ!」
「ぐっ!」
「ごっ!」
零夜が投げた手裏剣を喰らった3人の盗賊は、次々と倒れ込んで戦闘不能になってしまう。同時に日和が10人以上の冒険者達を連れてきて、手を振りながら零夜達に呼びかけていた。
「冒険者の皆を連れてきました!」
「でかしたわ、日和! こっちも終わったわよ!」
アイリンは指を鳴らしながら日和の行動を褒め称え、他の冒険者達は倒れている盗賊達を縄で縛り上げる。これでマハルダの盗賊達は全滅し、組織も壊滅となったのだ。
「やるじゃねえか! マハルダのアジトを見つけ、盗賊団まで壊滅するなんて!」
「大した事無いけどな。取り敢えずは無事に戦い終えただけでも良いとするか!」
冒険者達に褒められた零夜は照れ臭そうに笑い、倫子達もお互いを見合わせながら微笑んでいた。同時に警備隊も到着して盗賊達を連行。これで事件は無事に解決となり、彼等はそのままギルドへと戻り始めた。
※
その後、零夜達はギルドに帰還すると、メリアが笑みを浮かべながら出迎えてくれた。盗賊団壊滅はギルドの間でも噂になっていて、彼女にも既に伝えられていたのだ。
「皆さんが無事で良かったです! まさか盗賊団を倒すとは驚きました!」
「大した事じゃないですけどね……」
メリアの満面の笑みに零夜が苦笑いをする中、彼女はカウンターに移動してある物を持ってきてくれた。それは大量の金貨が入っている袋で、合計600万ハルヴはするだろう。
「まずはこちらです。捕らえられた盗賊達に懸賞金が掛けられていたので、合計600万ハルヴを貴方方にお渡しします!」
「こんなにもですか!? ありがとうございます!」
倫子は大量の金貨入りの袋を受け取り、そのまま胸ポケットの中に入れておく。盗賊達を倒しただけで大金持ちになったのは、想定外の嬉しさと言えるだろう。
「また、アイリンさんから話を聞きましたが、貴方達も彼女と同じ八犬士の戦士達ですね。そこで特例のランクアップとなる提案があります」
「提案ですか?」
メリアが話す提案に零夜達は疑問に感じてしまい、思わず首を傾げてしまう。その様子を見たアイリンは、真剣な表情をしながら3人に説明する。
「その内容だけど……あちこちに散らばっている悪鬼のアジトを1つ討伐する度に、あなた達のランクをワンランク上げるという事よ」
「「「ええっ!?」」」
アイリンからの提案となる説明を聞いた零夜達3人は、予想外の展開に驚いてしまう。特に倫子と日和に至っては、驚きのあまり思わず尻餅をついてしまったのだった。