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第15話 アジトへの突入

 零夜達とヤツフサの1人と1匹は、盗賊団「マハルダ」のアジトの前に辿り着いていた。そこには二人の見張りが入口を守っていて、そう簡単に入る事は難しさを感じるだろう。


「見張りなら……こいつを使うとするか!」


 零夜は懐から白い火薬玉を取り出し、それをアジトの入り口前に投げ飛ばす。そのまま火薬玉は入口前の地面に落ちてしまい、爆発を起こしてしまう。その爆発によって白い煙が充満し始め、見張りは目に涙を浮かべながらパニックになってしまう。


「ゲホッ! ゴホッ! なんだこの爆弾は!」

「前が見えない……どうなっているんだ……」


 見張りの二人が咳き込みながら辺りを見回そうとしたその時、零夜がいきなり飛び出して彼等を忍者刀で切り裂いていく。身体を切り裂かれた二人の見張りは仰向けに倒れてしまい、そのまま金貨となって地面に落ちてしまった。


「後は中にいる奴等を倒すだけだ」

「ああ。数については俺が調べてみるとしよう」


 ヤツフサは自ら索敵能力を使い、洞穴のアジトの中にいる者達を確認し始める。僅か数分でアジトの中の様子が分かり、ヤツフサは現状を零夜に報告し始める。


「盗賊達は三名が中にいるが、リザードマンも3匹いる事が確認された」

「リザードマンとなると、倫子さんのマジカルハートが必要となるな……」


 ヤツフサの報告を聞いた零夜は、真剣な表情でどうするか考え始める。するとアイリンが彼等の元に駆け付け、二人の肩をポンと叩いた。


「アイリン! その様子だと駆けつけに来たのか!」

「ええ。私がしっかりしないといけないからね。倫子と日和もそれぞれの役目に取り掛かった後、すぐに駆けつけるわ」

「そうか。こちらからはこの様になっている」


 アイリンの話を聞いたヤツフサは納得した後、アジトの様子を真剣な表情で伝え始める。その内容を聞いた彼女は、真剣な表情で納得しながら頷いた。


「なるほどね。まずは盗賊達を倒す事に専念し、リザードマンは倫子が来てから対処しましょう」

「分かった。まずは盗賊達をどう倒すかだな」


 アイリンからの提案を聞いた零夜は頷きながら応えるが、アジトの中にいる盗賊達をどう倒すか考え始める。洞穴の中に入って突撃すれば、奴等の罠によってやられてしまう。外で待機しながら奇襲を仕掛けるとしても、なかなか出てきてはくれないだろう。


「それなら私に任せて! いい策略があるから!」

「策略?」

「何をする気だ?」


 アイリンは自らの策略を思いつき、それに零夜とヤツフサは疑問に感じる。すると彼女は懐からアイテムである笛を取り出し、それを演奏し始める。その音色はまさに独特で、現代的に言えばアラビアの音色と同じと言えるだろう。


(アイリンって、中華系の出身だろ? なんでアラビア風の曲を演奏するんだ?)

(俺に言われても分かる筈がないが……)


 零夜とヤツフサが小声でヒソヒソと話をする中、アジトの中から何者かが出てきた。恐らく音色を聴いて我慢できずに向かったのだろう。


「来たぞ! 早速戦闘……!?」


 なんと出てきたのは盗賊ではなく、3匹のリザードマンだった。予想外の事態に零夜とヤツフサは驚きを隠せず、アイリンも演奏を止めて唖然としてしまう。まさかの作戦が裏目に出てしまい、予想外としか言えないだろう。


「嘘でしょ!? こんな展開あり得ないわよ!」

「俺だって予想外だ。けど、戦うしかない!」


 アイリンは驚きを隠せずにパニックとなり、零夜は冷や汗を流しながらどうすればいいのか悩んでしまう。しかし背に腹は代えられないので、戦闘態勢に入ろうとしたその時だった。



「マジカルハート!」

「!? その声は!」



 突然の声にアイリンが振り向いた途端、なんと倫子がジャンプしながらマジカルハートをリザードマンに浴びせていたのだ。


「倫子! 商人の護衛を頼まれていた筈じゃ……」

「その事だけど、他の冒険者が引き受けてくれたの。お陰で早く駆け付ける事ができたからね」


 倫子の説明を聞いたアイリンは納得の表情をしていて、零夜は倫子が来た事に安堵のため息をついていた。もし彼女が来なかったら、リザードマンとの戦闘は避けられなかったのだろう。

 するとマジカルハートを喰らっていたリザードマンは動きを止めたと同時に、地面に着地した倫子の前に移動して片足を跪かせた。どうやら彼女を自身の主と認めたのだろう。


「姐さん。我々はあなたの矛となって戦います。今後ともお願い致します!」

「うん。宜しくね」


 リザードマン達はスピリットに変化し、倫子のバングルの中に入っていく。これでリザードマンについては問題なく、残るは盗賊達だけとなった。


「そろそろ彼等が来る頃やね。リザードマンが外に出た事で、パニックになっているし」


 倫子は洞穴に視線を移した途端、3人の盗賊達が一斉に姿を現す。それを見た零夜はすぐに手裏剣を構え、彼等に向けて投げ飛ばし始めた。


「お前等が来るとはドンピシャだ。これでも喰らえ!」

「がっ!」

「ぐっ!」

「ごっ!」


 零夜が投げた手裏剣を喰らった3人の盗賊は、次々と倒れ込んで戦闘不能になってしまう。同時に日和が10人以上の冒険者達を連れてきて、手を振りながら零夜達に呼びかけていた。


「冒険者の皆を連れてきました!」

「でかしたわ、日和! こっちも終わったわよ!」


 アイリンは指を鳴らしながら日和の行動を褒め称え、他の冒険者達は倒れている盗賊達を縄で縛り上げる。これでマハルダの盗賊達は全滅し、組織も壊滅となったのだ。


「やるじゃねえか! マハルダのアジトを見つけ、盗賊団まで壊滅するなんて!」

「大した事無いけどな。取り敢えずは無事に戦い終えただけでも良いとするか!」


 冒険者達に褒められた零夜は照れ臭そうに笑い、倫子達もお互いを見合わせながら微笑んでいた。同時に警備隊も到着して盗賊達を連行。これで事件は無事に解決となり、彼等はそのままギルドへと戻り始めた。


 ※


 その後、零夜達はギルドに帰還すると、メリアが笑みを浮かべながら出迎えてくれた。盗賊団壊滅はギルドの間でも噂になっていて、彼女にも既に伝えられていたのだ。


「皆さんが無事で良かったです! まさか盗賊団を倒すとは驚きました!」

「大した事じゃないですけどね……」


 メリアの満面の笑みに零夜が苦笑いをする中、彼女はカウンターに移動してある物を持ってきてくれた。それは大量の金貨が入っている袋で、合計600万ハルヴはするだろう。


「まずはこちらです。捕らえられた盗賊達に懸賞金が掛けられていたので、合計600万ハルヴを貴方方にお渡しします!」

「こんなにもですか!? ありがとうございます!」


 倫子は大量の金貨入りの袋を受け取り、そのまま胸ポケットの中に入れておく。盗賊達を倒しただけで大金持ちになったのは、想定外の嬉しさと言えるだろう。


「また、アイリンさんから話を聞きましたが、貴方達も彼女と同じ八犬士の戦士達ですね。そこで特例のランクアップとなる提案があります」

「提案ですか?」


 メリアが話す提案に零夜達は疑問に感じてしまい、思わず首を傾げてしまう。その様子を見たアイリンは、真剣な表情をしながら3人に説明する。


「その内容だけど……あちこちに散らばっている悪鬼のアジトを1つ討伐する度に、あなた達のランクをワンランク上げるという事よ」

「「「ええっ!?」」」


 アイリンからの提案となる説明を聞いた零夜達3人は、予想外の展開に驚いてしまう。特に倫子と日和に至っては、驚きのあまり思わず尻餅をついてしまったのだった。

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