零夜達がハルヴァスに来てから翌日、クローバールの街にあるギルドに来ていた。強くなる為にはクエストを受けるのが効率的なので、積極的に取り組む必要があるのだ。

　まずはどんなクエストがあるのか確認する為、メリアに相談する事に。

「あら、零夜さん。今回はどの様なご要件ですか？」

「ギルドクエストを受けたいのですが……」

「こちらになります」

　メリアは左の方向に視線を移し、壁に貼り付けられているクエストボードを指差す。そこにはスライム退治や配達のお届け、ゴブリン退治などの簡単なクエストが多くあるが、ドラゴン退治や山賊退治などの上級クエストもある。

　其の為、クエストボードはFからSに分かれていて、上級を受けるにはランクを上げる必要があるのだ。

「零夜さん、倫子さん、日和さんは最底辺のFランクとなっていて、そこからスタートとなります。なお、功績を上げる事にランクが上がりますが、昇級試験もあるので覚えてください」

　メリアからの説明を聞いた零夜達三人は、真剣な表情をしながら頷く。タマズサを倒すにはレベルを最大限に上げなければならないので、最低でもSクラスにまで上げる必要があるのだ。

　零夜達はそのままクエストボードに向かい、Fランクのクエスト一覧を確認する。因みにアイリンはSクラスだが、零夜達のサポートの為に同行する事になっている。

「色々あるんだ……どれがオススメなの？」

　日和はクエスト一覧をじーっと確認するが、どれにすれば良いのか悩んでしまう。そこでアイリンに相談してみると、彼女はとあるクエストを選択する。

「まずはスライム退治からね。初心者にもお勧めのクエストだけど、スライムと言えども油断は禁物よ」

「舐めてかかると痛い目に遭うしね」

　アイリンの説明を聞いた日和は、真剣な表情をしながら同意する。いくら簡単なクエストでも、間違えた行動をすれば死んでしまう確率がある。

　この事についてはギルドだけでなく、どの職場でも安全第一が基本となっている。それはどの世界でも同じと言えるだろう。

「そう言う事になるな。では、早速受け付けておこう」

「ええ」

　倫子はクエストボードからスライム退治のクエスト用紙を手に持ち、そのままメリアに渡しておく。彼女はパソコンを操作しながらテキパキと受注処理を行い、僅か一分で終わらせたのだ。

「はい！　スライム退治受理しました！」

　メリアが笑顔で応えながら、カウンターにあるクエスト受注掲示板のウインドウを指差す。すると零夜達が受けるクエストがウインドウ画面に映し出され、出発準備中の表示となっているのだ。

　因みに他の冒険者達もクエスト受注していて、進行中の者もいれば、帰還中の者もいるのだ。

「ここからクエストがスタートします。アイテム等を各自準備してから向かってください！」

　メリアのアドバイスにアイリンは冷静にコクリと頷き、零夜達を連れてアイテムショップに移動する。そこには魔力・体力を回復するポーションや、秘薬、状態異常を治すアイテムがズラリと並んでいるのだ。

「アイテムについては各自多く買った方が良いわ。スライムといえども、毒がある奴もいるからね」

「えっ？　スライムにも毒があるのん？」

　アイリンからの説明を聞いた倫子達は、疑問の表情で首を傾げてしまう。スライムと言えども毒があるのは初耳であるが、ヤツフサは事前にモンスターの種類を確認しているのだ。

「ポイズンスライムだ。奴に攻撃されると毒状態になる可能性がある。下手に近接攻撃をするのは無謀であり、危険な行為と言えるだろう」

　ヤツフサからの真剣な説明を聞いた倫子と日和は、ポイズンスライムの恐怖にゴクリと息を飲んでしまう。スライムにも危険な奴がいると分かった以上、油断してしまうと大変な事になると感じてしまったのだろう。

「今回のクエストにもポイズンスライムがいるとすれば、遠距離攻撃も考える必要があるかもな」

「そうね。さっさと買い物を済ませて、早くクエストに向かいましょう！」

　零夜の意見にアイリンも賛同し、彼女の指示と同時にすぐに買い物を始める。ここでのんびりしている場合ではないので、素早く動いて行動する事が大切なのだ。

「道具も買い終えたし、早速クエストに向かいましょう！」

　倫子の合図に皆が一斉に頷き、そのままギルドから出発し始める。彼女達の後ろ姿を見たメリアは、手を振りながら見送っていたのだった。

　※

　クエストの舞台であるフルーダス平原に着いた零夜達は、辺りを見回しながらスライムを探し始める。ここにあるのは草原と少ない木、そして中ぐらいの岩だけ。モンスター達が出てくるとしたらそこしか無いだろう。

「モンスターは大体草原とかに出ている。何時飛び出してくるか分からないからな」

「ええ。出るとしたら……そこか！」

　零夜が草原に向かって苦無を投げた途端、苦無は何者かに当たって風船が破裂する様な音をした。零夜とヤツフサは苦無が当たった場所に近づいた途端、そこにはスライムの粘液、金貨、苦無が落ちていた。恐らくスライムに当たっていたに違いないだろう。

「見事だ。敵の動きを察し、一撃で倒すとは」

「大した事じゃないですよ。今回のスライム討伐数は30匹。油断せずに倒しておきましょう！」

　零夜はすぐに苦無を拾い、他に敵がいないか探し始める。すると草むらの中から次々とスライムが飛び出してきたのだ。その数は10匹ぐらい。

「もう少しスライムがいれば、目標値まで倒す事ができたけどな……」

「まあ、思い通りにはいかないからね。それじゃ、早速攻めていくわよ！」

　零夜は複雑な表情でスライムの数に不満を持ったが、倫子は苦笑いしながら彼を落ち着かせる。同時に四人は一斉に駆け出し、スライム達に襲い掛かった。

「最初から攻めないとね！　フレイムショット！」

　日和は拳銃から炎の弾丸を次々と発射し、３匹のスライムの身体に激突する。弾丸を喰らったスライムは風船の様に破裂してしまい、金貨とスライムの粘液となって地面に落ちていく。

「私も負けられない！　そこ！」

　倫子は両手にリングブレードを召喚させ、素早い連続斬撃で５匹のスライムにダメージを与えていく。しかもスライムのコアを切り裂いて破壊しているので、一撃で倒す事に成功したのだ。

「じゃあ、残りの２匹は私が！　炎帝拳！」

　アイリンは自らの拳に炎を纏い、強烈な打撃で二匹のスライムを倒していく。これで飛び出した十匹のスライムは全員倒され、残る十九匹を探しに向かい出す。

「先程の様に集団で襲う事もあり得るが、もしかすると大きいスライムも出てくる可能性もあり得るだろう」

「確かに一理あるわね。さて、何処にいるのか……」

　ヤツフサの説明を聞いた倫子は、キョロキョロ見回しながらスライムを探し始める。すると日和が突然立ち止まり、敵の気配を感じ取っていた。

「藍原さん。前方に敵が来ます！　スライムなのは確かですが……」

「ん？」

　日和が指差す方をよく見ると、スライムの群れが彼女達の前に姿を現した。その中には大きいスライムにポイズンスライム、更にはピンクのスライムまでいたのだ。

「ゲッ！　変態スライムまでいるなんて……」

　アイリンはピンクのスライムを見た途端、思わず大量の冷や汗を流してしまう。この様子を見た倫子と日和は疑問に感じ、彼女に近寄りながら質問し始める。

「アイリン。あのスライム、知っているの？」

「ええ……あのスライムはパーバートスライム！　女性に対して痴漢行為をする厄介な奴よ！」

「「ええっ!?」」

　アイリンの説明を聞いた倫子と日和は驚きを隠せず、零夜とヤツフサは真剣な表情でスライムの群れを睨みつける。パーバートスライムという厄介な敵が出てしまった事で、このクエストは一筋縄では行かなくなってしまったのだった。