零夜達はようやくクローバールに到着し、辺りを見回しながら確認していた。この街は人々が多くいて、商売も盛んで賑わっていた。
クローバールの基本的なところは、西洋風のファンタジーと変わってない。しかしモンスターと共同で生活したりする人もいれば、ロボットまで歩いているのが見える。おまけにコンビニみたいなお店やアイドルも存在しているので、地球と変わってないと感じてしまうだろう。
「クローバールは地球と変わっていないけど、この世界にしかない物まであるからね。因みにこの世界の通貨はハルヴと呼ばれているわ」
アイリンの説明に零夜達が納得する中、倫子はオーバーオールの胸ポケットの中から財布を取り出す。彼女のオーバーオールの胸ポケットは、多くのアイテムを収められるマジカルポケットとなっている。其の為、どんなアイテムもポケット一つで収納できる為、楽に持ち運びが出来るのだ。
「じゃあ、ウチ等の財布のお金もハルヴに変わっているんじゃ……」
「もしかして……」
「中を調べてみます!」
倫子の推測に日和と零夜もハッと気づき、それぞれの懐から財布を取り出して中身を確認する。よく見ると財布の中のお金は既に変わっていて、ハルヴのお札と金貨などに変わっていたのだ。
「この世界に来てから既に変わっているのか……便利だな、本当に……」
零夜達は通貨が変わっている事に安堵し、すぐに財布を懐に収める。因みに倫子は胸ポケットの中に大事に入れていた。
「因みにハルヴは1ハルヴ=1円となっているわ。あなた達の国の通貨と同じだからね」
「なるほど! それならお金の問題はないみたいね。早速ギルドに向かいましょう!」
アイリンのアドバイスを聞いた倫子は安堵の表情をしていて、すぐにギルドに向かう事を提案。零夜達も頷きながら同意し、彼等はそのままクローバールにあるギルドへと向かい出した。
※
零夜達は目的地であるギルドに辿り着くと、西洋風で二階建ての建物が建てられていた。ギルドは場所や地域によって外観や所属する人々が違うのが特色で、中には闇ギルドやヘンテコなギルドもあるのだ。
「ギルドとしては普通だな。じゃあ、入るとするか」
零夜達はそのままギルドの中に入ると、多くの冒険者達で賑わっていて、獣人族やエルフなど様々な種族が存在していた。更に内装も西洋風の雰囲気が漂っていて、提灯型の電気ランプなどが吊るされているのだ。
「ここがギルド……凄く賑やかね……」
「ええ。じゃあ、受付の方に挨拶に行きましょう」
倫子達はギルドの中を見渡しながら、驚きの表情をしていた。ギルド内の景色は勿論、地球にはいない様々な種族も初めて見たのだ。その様子を見たアイリンが彼女達を案内し始めたその時、冒険者達が一斉にアイリンに視線を移してきたのだ。
「お、おい! アイリンじゃないのか!?」
「行方不明と聞いたけど、今ここにいるという事は……」
「無事に帰ってきたのですね!」
冒険者達はアイリンの姿に驚きを隠せなかったが、無事である事を確認すると一斉に彼女達の元に駆け寄ってくる。彼等はアイリンが行方不明になった事を心配していたので、無事である事を心から喜んでいたのだ。
「行方不明になった時には心配しましたよ!」
「皆、ごめんね。心配掛けちゃって」
「で、そちらの方は?」
冒険者達がアイリンとの再会を喜んでいる中、その一人である女性冒険者が零夜達に視線を移す。初めて見る人達なので、気になってしまうのは当然と言えるだろう。
「私が異世界に飛ばされた時にできた仲間よ」
「東零夜です。宜しくお願い致します」
「私は藍原倫子!」
「有原日和です!」
「ヤツフサだ。アイリン達のサポートを担当している」
アイリンは零夜達を指差しながら説明し、彼等は冒険者達に自己紹介をする。冒険者達も零夜達に興味を示し、彼等に話しかけてきた。
「忍者は初めて見たが、なかなか似合うじゃないか」
「大した事ないですよ」
「裸オーバーオールとは考えたわね」
「本当はこんな衣装、嫌だけどね……」
「カウガールか! とても似合うぜ!」
「えへへ……」
零夜達は冒険者達達と楽しく話をしていて、それにヤツフサとアイリンは微笑んでいた。初めて冒険者達と出会う時はどうなるのか不安だったが、その必要は無いみたいで大丈夫だ。
すると受付担当の女性がアイリンの元に駆け寄り、彼女に抱き着いてきた。三つ編みのポニーテールをしていて、白いシャツと黒いベスト、黒いスーツパンツを着用しているのだ。
「アイリンさん、無事で良かったです!」
「心配かけてすみません、メリアさん」
メリアと呼ばれた女性はアイリンに抱き着きながら再会を喜び、目には涙が浮かべられていた。アイリンは苦笑いしながらも謝罪の言葉を述べていて、メリアの頭を優しく撫でているのだ。
「アイリン、知り合いなのか?」
「ええ。彼女はメリア。このギルドの受付嬢を担当しているの。私、ベティ、メディは彼女と親友関係だからね」
ヤツフサの質問に対し、アイリンは笑顔でメリアを説明する。彼女とは古い付き合いなので、交流も盛んとなっている。アイリンがいなくなった時には落ち込んでいたが、再び会えた事に喜びを爆発させているのだ。
すると零夜達がいる事にようやく気付き、メリアはアイリンから慌てて離れて一礼をした。今のを見られてしまって恥ずかしさを感じているのだろう。
「すいません。再び会えたのが嬉しくて……」
「気にしないでください。それよりもギルドに登録したいのですが……」
「はい! でしたら、貴方方のデータを取らせてもらいます! ちょっとお待ちください」
メリアは受付カウンターに移動し、とあるハンドサイズの機械を取り出す。それはバーコード読み取り機械に似ているが、この機械でデータを読み取るつもりだろう。
「では、このマジカルスキャンで、貴方方のデータを読み取らせて貰います!」
メリアはマジカルスキャンのスイッチを押して、零夜、倫子、日和のデータを入手し始める。するとそのデータが壁に取り付けられているウインドウに表示され、同時にギルド登録も完了されたのだ。
「これで貴方方はギルドの一員です。これから共に頑張りましょう!」
「はい! 宜しくお願い致します!」
メリアの笑顔に零夜達は一礼しながら答え、冒険者達は拍手をしながら迎え入れてくれた。今後零夜達はギルドに所属しながら、タマズサ率いる魔王軍「悪鬼」と戦う事になるのだ。
「ギルドにも登録したし、後は私達の家に帰るのみね」
「家? アイリン達が住んでいる家があるのか?」
アイリンは零夜達のギルド登録が終わったのを確認し、家に戻る事を決断。それに零夜達が疑問に感じるのも無理はない。
「ええ。ギルド登録も済ませたし、今日はゆっくり休まないとね。今から案内するわ!」
アイリンはウインクしながら零夜達を連れて、ギルドを出て自身の家に案内し始める。道中お店に寄って今日の夕食の買い物も行い、後は家へとまっすぐに向かったのだった。