零夜達は目的地となるクローバールに向けて歩き始め、その数分後には既に林の中に入っていた。そこは普通の場所であり、特に目立つところはない。それどころかモンスター達もあまり出てこないのだ。
「この辺りは普通だから大丈夫みたいね」
「そうですね。この様な場所は初めてですし、空気も美味しいです!」
「でしょ? まだ他にも知らない場所があるから、後で案内するわ!」
倫子達は辺りを見回しながら確認しているだけでなく、周囲の景色も楽しみながら歩いていた。地球にも同じ様な景色はあるが、空気の美味しさを考えればこの世界の方が良いだろう。
三人が楽しく話をしている中、零夜は真剣な表情をしながら考えていた。その様子からすればどうやら深刻な事を考えていたのだろう。
(ここから旅が始まったが、仲間達はあと四人必要となるな。このハルヴァスにいるのは確認しているが、何処にいるのやら……)
零夜が心の中で真剣な表情をしつつ、正確に仲間の行方を考えながら歩いていく。その途端、西側の茂みの中からガサガサと音がする。
「この気配……敵が近づいてくるぞ!」
零夜が叫んだと同時に、茂みの中から一斉にモンスター達が姿を現す。その数についてはなんと百匹以上で、普通ではありえないぐらいの数となっている。
「モンスターが出たか! レベルアップには丁度いいが、種類に関してはどうなっている?」
零夜達はいきなり出た事に驚いていたが、すぐに冷静に対応して戦う構えに入る。ヤツフサはモンスター達を見ながら冷静に確認し、皆に説明を始める。
「種類は水色のスライム、角が生えている白ウサギのツノラビ、後はハヤブサの種類であるファルコスだ」
「それなら私がモンスターを仲間にできるわ! けど、どうやって仲間にするのか分からないけど……」
ヤツフサの説明を聞いた倫子はすぐに反応し、モンスターを仲間にできる事を宣言。しかし、どう仲間にすれば良いのかは分からない状態となっている。
ある世界では道具を使ってモンスターを捕獲する方法があるが、この世界ではどう仲間にするのか気になるところだ。その様子を見たアイリンは、倫子に視線を合わせてアドバイスを始める。
「この場合はマジカルハートがオススメよ。両手でハートの形を作り、笑顔で呪文を唱えるの。女性専用の技だけど、必ず成功するわ」
「そうなんだ。せっかくだからやってみないとね!」
アイリンからのアドバイスにヒカリは納得の表情をした後、両手でハートの形を作り、笑顔の表情で技を発動する。
「マジカルハート!」
倫子の両手からハートの光線が発射され、一匹のスライムに直撃する事に成功。すると、スライムはピョコピョコと倫子に近付き、地面を平行にしながら一礼をした。この様子を見ると、彼は仲間になる事を決断しているに違いない。
「まさか成功するとは驚いたわ。これから宜しくね」
倫子が満面の笑顔でスライムに応えた直後、彼はスピリットとなって彼女のバングルの中に入った。これで一匹のスライムが仲間になる事に成功したのだ。
「上手く成功しましたね」
「うん。けど、もう少し欲しいかな? なるべく多く仲間にしておけば、楽になりそうだし」
日和の笑顔に倫子も笑顔で返すが、彼女はこれだけでは物足りなさを感じる。なるべく多くのモンスターを仲間にすれば、今後の戦いも役に立つと思っているだろう。
「それなら広範囲に及ぶハートベールがあるけど、今のレベルではマジカルハートが限界みたいね」
「なるほどね。じゃあ、ここは工夫して……マジカルハート!」
アイリンの説明を聞いた倫子は、今のレベルでは限界がある事にため息をついてしまう。しかし気を切り替えたと同時に、ハートの形の両手を動かしながらマジカルハートを放ち始めた。
するとスライムだけでなく、ファルコス、ツノラビにも直撃する事に成功し、スライム9匹、ファルコス6匹、ツノラビ7匹が仲間になった。そのまま彼等はスピリットとなり、倫子のバングルの中へと入ったのだ。
「まあ、このぐらいかな」
「それじゃ、後は倒しておきましょう!」
倫子は手に入れたモンスターの数を確認し、十分だと判断する。それを聞いた零夜達は一斉に戦闘態勢に入り、モンスター達に襲い掛かり始めた。
「手裏剣連続投げ!」
零夜は手裏剣を懐から次々と取り出し、スライムの群れに向かって投げ飛ばす。手裏剣はスライム達に百発百中で命中し、彼等は風船の様に破裂してしまう。その直後に素材であるスライムの粘液と金貨に変化し、地面に次々と落ちていく。
「この世界ではモンスターを倒すと、素材と金貨に変化するのね。これなら安心して戦えるわ!」
日和はこの戦いを見て、血やモンスターの死体を見ずに安堵の表情をする。更に自分も負けられないと意気込み、二丁拳銃を構えながらツノラビの群れに狙いを定める。
「このまま狙いを定めて、バレットショット!」
日和は銃から弾丸を次々と発射させ、ツノラビ達に次々と直撃させて倒していく。ツノラビ達は倒れたと同時に金貨へと変化していくが、素材としてウサギの皮、ウサギの肉、ツノラビの角も出てきたのだ。
「ウサギの肉は流石に勘弁かな……」
日和は地面に落ちているウサギの肉を拾い、思わず冷や汗を流しながら苦笑いをしてしまう。まさかこの世界でウサギの肉を見るのは初めてだが、流石に可哀想だと判断するのも無理ないだろう。
「空中の敵は私に任せて! フレイムキック!」
アイリンは空高く跳躍したと同時に、両足に炎を纏った蹴りを次々とファルコス達に激突させる。すると彼等は何故か鳥の丸焼きに変化してしまい、そのまま地面に落ちてしまった。
「なんで鳥の丸焼き!?」
「いくら何でもおかしいでしょ!」
倫子と日和がこの光景に驚きを隠せずにいたが、アイリンは地面に着地したと同時に、冷静な表情で素早く鳥の丸焼きを回収する。
「ハルヴァスでは炎の攻撃で動物系モンスターを倒すと、何故か丸焼き姿となってしまうの。目の前にあるのが証拠だから」
「それを早く言ってよ!」
アイリンの冷静な説明に倫子がツッコみながら叫び、日和も頷きながら同意する。初めてこの世界に来た人にとっては、カルチャーショックを受けるのも無理ないだろう。
「油断しないでください! モンスターはまだ残っています! それっ!」
零夜は倫子達に対して油断するなと伝えたと同時に、火薬玉を次々と投げ飛ばしていく。火薬玉の爆発にツノラビ達は巻き込まれ、金貨とウサギの丸焼きに姿を変えてしまったのだ。
「ウサギの丸焼きも悪くないかもな」
(す、凄い……零夜君、こういうのは慣れているんだ……)
(明らかに凄いとしか言えませんね……)
零夜は問題なくウサギの丸焼きを次々と回収し、それに倫子と日和は驚きを隠せないのも無理はなかった。ウサギの丸焼きを初めて見たにも関わらず、次々と回収していくのは凄いとしか言えないだろう。
「おっと! 残りは倒しておかないとね!」
倫子はモンスターに視線を合わせながら気を切り替えたと同時に、彼女の手元に2本のナイフを召喚する。そのまま強くナイフの柄を構えたと同時に、残りのモンスター達に襲い掛かり始めた。
「ダンス・イン・ザ・ダーク!」
倫子がナイフを構えながらの舞を披露し、次々とスライム、ツノラビ、ファルコスの群れを倒していく。そのまま彼等は素材と金貨になって地面に落下し、これで全て倒したのだ。
「全員無事みたいね。あなた達のレベルも上がっているわ」
「レベルが上がった? どれどれ……」
アイリンは全員無事である事を確認したと同時に、ウインドウの画面を見ながら零夜達のレベルが上がった事を伝える。彼等もバングルからウインドウを召喚し、ステータス画面のレベルを確認し始めた。
零夜
レベル1→3
取得スキル:属性忍法
倫子
レベル1→3
取得スキル:料理
日和
レベル1→3
取得スキル:裁縫
「俺は属性忍法で、倫子さんは料理、日和さんは裁縫スキルを取得したのか」
「私達のスキルは戦闘用ではないけど、日常とかで役に立ちそうかもね」
「ええ。レベルアップすれば様々なスキルも取得できますし、色々経験を積みましょう!」
零夜達は各自のウインドウに映るステータスを確認し、今後は経験を積みながら強くなる事を決意する。初めての戦闘でレベルが上がった事を実感したからこそ、まだまだ強くなれると感じたのだろう。
「彼等の冒険は始まったばかり。我々もできる限りサポートしておく必要があるな」
「そうね。さっ、先を急ぎましょう!」
ヤツフサとアイリンはこの光景に微笑んだ後、零夜達と共に先に進み始める。彼等の冒険はまだまだ始まったばかりだ。