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第2話 大量虐殺の悲劇

 後楽園ホール内で戦闘員達による虐殺の始まりが告げられ、観客達は一斉に席から離れて逃げ出そうとする。ここで死にたくない気持ちが強い為、出口に向かって一斉に駆け出し始めた。


「そうはさせるか! 血を流さないプロレス技で倒してやる!」

「まさか奴等もプロレス技を持っているのか!?」


 戦闘員Bの宣言に対し、それを聞いた零夜が驚いてしまう。すると彼は出口に向かう客達の前に立ちはだかり、強烈な張り手で殴り飛ばそうとしていた。


「一般人にはキツいかもしれないけどな! どすこい張り手!」

「「「がはっ!」」」


 戦闘員Bが前にいる観客の胸に張り手をぶちかまし、観客達は戦闘員の張り手によって勢いよく弾き飛ばされてしまった。

 今の威力はプロレスラーなら普通と思うが、一般人となると一撃の威力で弾き飛ばされてしまう危険があるのだ。

 観客達は後楽園ホール内で宙を舞いながら落下していく。彼等はそのまま床や椅子などに不時着してしまい、多くが失神しながら倒れて動かなくなってしまった。


「なんて威力だ! アイツを相手にすれば、絶対に死ぬぞ!」

「こうなったら反対側に行くしかない!」


 それを見た残りの客は、急いで反対側の出口に向かおうとした。しかし戦闘員Aが彼等の前に立ちはだかり、そのまま駆け出しながら突っ込んできた。


「スパイラルドロップキック!」

「「「あべら!」」」


 戦闘員Aの放ったドロップキックは、先頭の観客に激突。その威力の強さで他の観客達を巻き込み、彼等も弾き飛ばされて宙を舞ってしまった。

 今の2つの攻撃によって、あっという間に半数が倒れてしまった。


「出口が塞がれた! どうすりゃ良いんだ!」

「簡単な事です。プロレスラーは殺さず、観客達だけ殺す。それが我々の役目です!」

「くそっ! この野郎共!」


 戦闘員のリーダーが宣言した直後、残りの2人の戦闘員が観客達に襲い掛かる。すると観客の1人が戦闘員Cを倒そうと動き出し、強烈なパンチを浴びせようとしていたのだ。


「お前等の好き勝手にさせるかよ! 喰らいやがれ!」


 観客のパンチが戦闘員Cに襲い掛かるが、彼のパンチは回避されて空振りに終わってしまう。勢いよく飛び出したのが仇となっていただろう。


「お仕置きだな!」


 戦闘員Cは襲い掛かってきた観客を捕まえ、背後から両腕を回して腰をクラッチ。そのまま観客を後方へと反り投げてホールドした。これこそジャーマン・スープレックスであり、観客は脳天を床に直撃して大ダメージを喰らってしまった。


「が……!」


 観客はそのまま失神して倒れてしまい、動かなくなってしまった。この光景に観客達は怯えてしまうのも無理なく、一斉にそれぞれの出口に向かって駆け出してしまった。


「逃すか!」


 ところが戦闘員Dが超能力を発動させ、逃げ出そうとした観客達を宙に浮かせ始める。その直後にリーダーの男が指を鳴らした途端、観客達は糸の切れた人形のように動かなくなってしまった。


「ど、どうなったの?」

「さあ……」


 倫子達が冷や汗を流しつつ、動かなくなった観客達に視線を移している。もしかすると死んでしまった可能性もある為、不安な表情になってしまうのも無理ないだろう。

 すると観客達は、頭からそのまま地面に墜落してしまう。零夜は倒れている観客に近付き、冷静な表情で状態を判断し始める。その様子を確認したと同時に、不安な表情をしている倫子と日和に視線を移した。


「全員失神していますが、中には死んだ者もいます。これで残りの観客は俺だけになりました……」

「そんな……!」

「こんな事って……信じたくない……」


 零夜からの報告に対し、倫子と日和は目に涙を浮かべながらショックを隠せずにいた。異世界から来たたった五人の戦闘員によって、多くの観客達が倒れてしまう事態に。誰もがこの光景を見て信じられない気持ちもあるが、これがまさに現実と言えるのだ。

 観客に対しては圧倒的な強さを誇るが、プロレスラーに対しては普通のダメージしか与えられない。変わった強さを持つ戦闘員達に対し、零夜は真剣な表情で彼を睨みつけているのだ。


「さて、残りは一人か……む? このバングル……まさか!?」


 戦闘員Aは零夜に対して視線を移した途端、彼の右手首にあるバングルを見て驚きを隠せずにいた。更に倫子と日和の手首にも同じバングルが着用されていて、戦闘員達は警戒しながら後ずさり始める。


「まさか我々に対抗できる者が、この世界にいたとはな……」

「下手に動けば返り討ちにされるだけでなく、死ぬ事もあり得る。ここで命を散らす理由にはいかないだろう」

「ええ。ここは撤退しかありませんね。我々の恐怖を覚えさせた以上、長居は無用です。すぐにワープホールを!」


 リーダーの合図と同時に、戦闘員Dがワープホールを出現させる。彼等は零夜達に対して後ろを向いたと同時に、ワープホールへと向かい出す。

 目的は果たせた以上長居は無用であり、バングルを着用している者が三人いるとなれば報告しなければならないと考えているだろう。


「おい、待て! 逃げるつもりか!」

「我々はハルヴァスへと戻ります。もし、貴方達がこの世界に赴くとなれば……その時は全力でお相手しましょう」


 リーダーは零夜の叫びに対してそう告げた後、仲間達と共にワープホールの中に飛び込む。そのままワープホールは消えてしまい、残ったのは零夜達だけとなったのだ。


「まさかこのバングルで戦闘員達が帰るとはな。その御蔭で俺は助かったが……他の皆は……耐え切れずにやられてしまった……」


 零夜は自身のバングルに視線を移した後、真剣な表情で周囲を見渡し始める。多くの観客が血を流さずに倒れていて、中には死んだ者までいた。この件に関しては重大事件になるのは勿論であり、大会も中止にせざるを得ないだろう。


「せっかく皆が楽しみにしていたのに、まさか戦闘員達によってぶち壊しになるなんて……こんなの……許さへん……うう……」

「藍原さん……ヒック……うえーん……」


 倫子は目の前の光景に怒りを感じながら、我慢できずに悔し涙を流してしまう。せっかくお客さんに楽しもうと思っていたのに、戦闘員達のせいで全てぶち壊されてしまったのだ。

 日和も倫子にムギュッと抱き着きながら、悔し涙を流し始める。彼女も目の前の光景が信じられず、涙を流すのも無理ないだろう。


(あいつ等……折角の大会をぶち壊しやがって……絶対に許さないぜ……!)


 零夜は拳を強く握りながら、襲撃してきた戦闘員達に怒りを抱いていた。彼等は大会をぶち壊しにしただけでなく、観客を次々と血を流さぬまま殺しまくった。人としても許されず、外道以上のやり方にしか過ぎないだろう。

 零夜はすぐに決意を固めたと同時に、抱き合いながら泣いている倫子と日和に視線を移した。


「倫子さん、日和さん。悔しい気持ちは分かります。ですが、ここで立ち止まっていくばかりでは何も変わりません。すぐに奴等を倒しに向かいましょう!」

「倒しに向かうって……どうやったら倒せるのん? ウチ等がやっても返り討ちに遭うだけやと思うけど……」


 零夜の決意を聞いた倫子が涙を拭きながら、襲い掛かってきた戦闘員をどう倒すのか質問してきた。彼等によって返り討ちにされてしまい、観客達の二の舞になってしまうと判断したのだろう。


「俺達の手首に装着されているバングルが、奴等を倒すカギとなります。奴等はこれを見て後ずさって逃げ出しましたし、倫子さんと日和さんにも装着されているじゃないですか」

「そう言えばそうだった……私達も零夜君と同じバングルが装着されているけど、もしかすると何かの縁があるのかな?」


 零夜の説明を聞いた日和と倫子は、自身の左手首に巻かれているバングルを見ながら納得の表情をする。しかし同じバングルがそれぞれの手首に巻かれているという事は、きっと自分達に何かの縁があるのだろうと判断しているだろう。


「そこまでは分かりません。ともかく、準備が出来次第ハルヴァスに行く方法を探しましょう! きっと何かが見つかる筈です!」

「そうやね。ウチ等の手でお客さんの仇を取るしかあらへん! これ以上奴等の好き勝手にさせへん為にも!」


 零夜のアドバイスを聞いた倫子は納得の表情をした後、倒れている観客達の敵を討つことを決意する。日和と零夜もその意見に同意しながら、コクリと頷いた。

 後楽園ホールでの襲撃事件で、観客の多くが亡くなってしまう事態に。零夜、倫子、日和の三人は観客達の敵を取る事を決断し、ここから冒険の旅が始まろうとしていたのだった。

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