地球という世界には日本という国があり、その首都は東京という。
東京にある後楽園ホールでは、プロレス団体「
※
「ここで増山のドロップキックが炸裂! 藤重が吹っ飛んだ!」
リング上では6人タッグマッチが行われており、会場は大盛況だった。DBW所属レスラーである
すかさず増山がフォール態勢に入り、レフェリーがカウントを数える。しかし2で返されてしまい、増山は追い打ちをかけるために攻撃を再開した。
(あんな単発の攻撃だけで、スリーカウントを奪うことは不可能だ)
南側の最前列にいる男性は心の中で呟いた。その男は試合の展開をイメージしながら、真剣に観戦していた。
彼の名は
(こうなるとブレーンバスター、ムーンサルトプレスあたりか。打撃技も威力のある技を出す必要があるな……)
その時、リングで動きがあった。増山の仲間である
「常磐と原口が、増山を援護! 止めを刺すのか!?」
増山は、藤重を逆さまに抱え上げて後方に投げ、彼の背面をマットに叩き付けた。
「ブレーンバスターッ! 今のは確実だ!」
実況の叫びと同時にカウントが始まり、見事スリーカウント。増山、常磐、斎藤の3人が勝利を収めた。現6人タッグ王者である彼らは、「アイアンハート」というプロレスユニットで活動している。
(さすがは王者……実に見事としか言えないな。だが、俺の目的は次の試合だ。あの2人が出てくるのだから……)
そう、彼がこの大会を観戦しているのは、件のレスラーが参戦しているからだった。
前の試合の興奮を残す会場に音楽が鳴り響き、青コーナーの入場口から2人の女性が姿を現した。彼女らが、零夜を変えた2人の女性レスラーである。
(ついに来たか! この時を待っていたぜ!)
2人の登場をガッツポーズで迎えた零夜の目は、彼女たちに釘付けだった。
1人は
もう1人は
「青コーナー。ダブルエース、WDG48。有原日和!」
リングコールが響き渡り、日和は笑顔を見せながら観客の声援に応える。彼女はアイドルとしての人気がとても高く、今大会の客は満員御礼だ。
「ダブルエース、京国のジャンヌ・ダルク。藍原倫子!」
倫子はコーナーに登り、両腕を上げながら観客の声援に応える。まさに女神そのものであるが、本人はそんなことはないと否定するだろう。
そのまま2人はリング中央に移動し、両手でAの文字を作った。これこそダブルエースの決めポーズであるが、零夜は彼女らの姿に違和感を覚えた。
(ん? 2人の左手首にバングルが付いているぞ。この前のXの写真では付けていなかったのに……)
2人の左手首には、虹色のバングルが付いていた。バングルの真ん中には珠のような物が半分浮き出ていて、倫子は青色、日和は黄色の珠だった。
(ひょっとして俺と同じ……?)
零夜の右手首には、倫子たちと似たバングルが装着されていた。珠の色は黒だった。
朝起きると、いつの間にかこのバングルが右手首に巻かれていて、いろいろ試したが結局取れず、そのままにしていた。バングルにはなんの心当たりもなかった。
(いや、今は試合に集中だ! 相手はあの変態共だからな。波乱の試合になるだろうから、しっかり観ておかないと!)
零夜は気持ちを切り替え、リングの上にいる倫子たちに視線を戻した。直後、リング上にワープホールが突如出現し、会場全体が混乱に陥った。
「何だあれは?」
会場はざわつき、誰もがワープホールに注目していた。零夜は危険を察してリングに駆け寄り、倫子と日和に向かって叫んだ。
「倫子さん! 日和さん! 危険です! すぐにリングから降りてください!」
「えっ? なに?」
「降りましょう! 嫌な予感がします!」
倫子と日和が慌ててリングから降りると、ワープホールから5人の男が姿を現し、横一列に並んで一礼した。
彼らは獲物を狩る目をしていて、いきなり武器を構え戦闘態勢に入った。
「皆様。我々はハルヴァスから来た魔王軍『悪鬼』と申します。この世界を侵略しにきました」
悪鬼は観客を睨みつける。観客は皆、突然の事態に戸惑っていた。
「さて、計画を実行しますか」
「まずは地球人への見せしめとして、ここにいる全員を殺すとしましょう。皆様方、覚悟!」
悪鬼が一斉に観客に襲い掛かり、後楽園ホールの虐殺が始まった。