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第1話 プロレス会場のハプニング

 地球という世界には日本という国があり、その首都は東京という。

 東京にある後楽園ホールでは、プロレス団体「DBWドリームバトルレスリング」の大会が開かれていた。


 ※


「ここで増山のドロップキックが炸裂! 藤重が吹っ飛んだ!」


 リング上では6人タッグマッチが行われており、会場は大盛況だった。DBW所属レスラーである増山信雄ますやまのぶおが、フリーレスラーの藤重元彦ふじしげもとひこに対してドロップキックを放つ。そのキックは藤重の胸に直撃し、彼は受け身を取りながら仰向けに倒れてしまった。

 すかさず増山がフォール態勢に入り、レフェリーがカウントを数える。しかし2で返されてしまい、増山は追い打ちをかけるために攻撃を再開した。


(あんな単発の攻撃だけで、スリーカウントを奪うことは不可能だ)


 南側の最前列にいる男性は心の中で呟いた。その男は試合の展開をイメージしながら、真剣に観戦していた。

 彼の名は東零夜あずまれいや。山口県出身のサラリーマンだが、プロレスラーを目指して奮闘中である。昨年、あるプロレスラーの活躍を目の前で見たのがきっかけで、自身もプロレスラーを目指すことを決意した。


(こうなるとブレーンバスター、ムーンサルトプレスあたりか。打撃技も威力のある技を出す必要があるな……)


 その時、リングで動きがあった。増山の仲間である常磐圭吾ときわけいごが、敵のグロリア斎藤を空中ダイブで攻撃。さらにもう1人の仲間、ジェット原口が敵の墨田浩一すみだこういちをボディスラムで叩きのめしたのだ。


「常磐と原口が、増山を援護! 止めを刺すのか!?」


 増山は、藤重を逆さまに抱え上げて後方に投げ、彼の背面をマットに叩き付けた。


「ブレーンバスターッ! 今のは確実だ!」


 実況の叫びと同時にカウントが始まり、見事スリーカウント。増山、常磐、斎藤の3人が勝利を収めた。現6人タッグ王者である彼らは、「アイアンハート」というプロレスユニットで活動している。


(さすがは王者……実に見事としか言えないな。だが、俺の目的は次の試合だ。あの2人が出てくるのだから……)


 そう、彼がこの大会を観戦しているのは、件のレスラーが参戦しているからだった。

 前の試合の興奮を残す会場に音楽が鳴り響き、青コーナーの入場口から2人の女性が姿を現した。彼女らが、零夜を変えた2人の女性レスラーである。


(ついに来たか! この時を待っていたぜ!)


 2人の登場をガッツポーズで迎えた零夜の目は、彼女たちに釘付けだった。

 1人は藍原倫子あいはらりんこ。DBWでただ一人の女子レスラーで、零夜の憧れの人物である。彼女は先日、プロレスユニット「ダイナマイツ」を脱退したばかりだ。

 もう1人は有原日和ありはらひより。彼女はアイドルグループ「WDGワールドドリームガールズ48」所属の現役アイドルで、東京BGPとうきょうバトルガールプロレス所属のアイドルレスラーとしても活躍している。倫子とはパートナーでもあり、「ダブルエース」というタッグチームを組んでいる。


「青コーナー。ダブルエース、WDG48。有原日和!」


 リングコールが響き渡り、日和は笑顔を見せながら観客の声援に応える。彼女はアイドルとしての人気がとても高く、今大会の客は満員御礼だ。


「ダブルエース、京国のジャンヌ・ダルク。藍原倫子!」


 倫子はコーナーに登り、両腕を上げながら観客の声援に応える。まさに女神そのものであるが、本人はそんなことはないと否定するだろう。

 そのまま2人はリング中央に移動し、両手でAの文字を作った。これこそダブルエースの決めポーズであるが、零夜は彼女らの姿に違和感を覚えた。


(ん? 2人の左手首にバングルが付いているぞ。この前のXの写真では付けていなかったのに……)


 2人の左手首には、虹色のバングルが付いていた。バングルの真ん中には珠のような物が半分浮き出ていて、倫子は青色、日和は黄色の珠だった。


(ひょっとして俺と同じ……?)


 零夜の右手首には、倫子たちと似たバングルが装着されていた。珠の色は黒だった。

 朝起きると、いつの間にかこのバングルが右手首に巻かれていて、いろいろ試したが結局取れず、そのままにしていた。バングルにはなんの心当たりもなかった。


(いや、今は試合に集中だ! 相手はあの変態共だからな。波乱の試合になるだろうから、しっかり観ておかないと!)


 零夜は気持ちを切り替え、リングの上にいる倫子たちに視線を戻した。直後、リング上にワープホールが突如出現し、会場全体が混乱に陥った。


「何だあれは?」


 会場はざわつき、誰もがワープホールに注目していた。零夜は危険を察してリングに駆け寄り、倫子と日和に向かって叫んだ。


「倫子さん! 日和さん! 危険です! すぐにリングから降りてください!」

「えっ? なに?」

「降りましょう! 嫌な予感がします!」


 倫子と日和が慌ててリングから降りると、ワープホールから5人の男が姿を現し、横一列に並んで一礼した。

 彼らは獲物を狩る目をしていて、いきなり武器を構え戦闘態勢に入った。


「皆様。我々はハルヴァスから来た魔王軍『悪鬼』と申します。この世界を侵略しにきました」


 悪鬼は観客を睨みつける。観客は皆、突然の事態に戸惑っていた。


「さて、計画を実行しますか」

「まずは地球人への見せしめとして、ここにいる全員を殺すとしましょう。皆様方、覚悟!」


 悪鬼が一斉に観客に襲い掛かり、後楽園ホールの虐殺が始まった。

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