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プロローグ3 敗走からの全滅

 ゴドムまでもがやられてしまった。しかも、タマズサの部下によって致命的な攻撃を加えられるのは想定外で、この絶望的な状況にアイリンたちは言葉を失った。


「お前ら! こいつをなぶり殺せ! 手加減は無用だ!」

「「「あいよ!」」」


 ゴブゾウの命令でインプたちが動き出し、心臓を貫かれていたゴドムを小突き回した。ゴドムは抵抗できず、ついには光の粒となって消滅した。


「なんて……ひどい……」

「悔しいけど、ここは逃げるしかないわ! ……急ぐわよ!」

「ええ! そうするしかないわね!」


 ベティは茫然自失のメディの手を引き、アイリンと共に逃げ出した。

 相手の戦力を見誤ったことで2人の犠牲者が出てしまった。パーティーの立て直しを図るためにも、ここは撤退する必要があった。


「逃がすな! 奴らを追いかけろ!」

「「「おう!」」」


 タマズサの命令でインプの弓矢部隊が次々と矢を放つ。それに対し、メディは背後に防御バリアを展開して応戦する。

 しかし、そのバリアも長くは持ちそうになかった。そこでベティはアイリンに視線を合わせ、一つの提案をする。


「アイリン! あなたは先に逃げて! そしてこの事を……騎士団の皆に伝えて!」

「ええっ!? 2人はどうなるの!?」


 アイリンはベティから提案されるも、仲間を置いて逃げるわけにはいかなかった。


「大丈夫! 私の魔術なら奴らを追い払える! だから今は逃げて!」

「私たちも後で追いかけます! 心配はいりません!」

「……分かったわ! あなたたちも無事でいてね!」


 アイリンはベティとメディの説得に頷き、走る速度を上げた。2人の思いを無駄にはできず、自分の使命を果たすため逃げることを選んだ。


(私がやらなければいけないんだ……騎士団に……伝えるためにも……絶対に逃げ切ってみせる!)


 アイリンが決意を固めていると、突然、彼女の前にワープホールが出現した。逃げることに必死なアイリンは、無我夢中でその中に飛び込んだ。


「アイリン! 駄目!」


 ベティが叫ぶが既に遅し。アイリンを飲み込んだワープホールはそのまま消えてしまった。

 その光景にベティやメディだけでなく、タマズサたちも一瞬唖然としてしまう。自らの危険を顧みずに飛び込む姿は見事と言えるが、ここまで思い切った行動をとるとは思っていなかったのだろう。

 残ったベティとメディは、再び全速力で逃げ始める。 アイリンの行方がわからなくなった以上、この敗北を騎士団に伝えられるのは自分たちだけだった。敵に捕まるわけにはいかない。


「……こうなったら速度魔術! スピーディア!」


 ベティは速度魔術を自身とメディに浴びせ、最大出力のスピードで駆け出した。インプもこの速度には流石に追い付けず、次々と脱落していった。

 インプたちは追いかけるのを諦めたが、タマズサは違った。右手をかざし、逃げる2人に対して魔術を唱え始める。


「妾は敵を逃がさぬ! 魔界の茨、召喚!」

「「!?」」


 タマズサが召喚魔術を繰り出したと同時に、ベティとメディの足元に黒い茨が出現し、2人を捕らえた。


「何よ、この茨! 真っ黒じゃない!」

「棘が無いのは幸いですが、身動きが取れません!」


 ベティとメディは茨から逃れようとするが、締め付けが強くそれは叶わなかった。


「こうなったら魔術を……あっ!」

「私の杖まで!」


 ベティが茨を燃やそうと杖を構えるが、茨が鞭のように動いて二人の杖を取り上げた。これでは魔術を使えない。

 茨の締め付けは動けば動くほど強くなっていく。


「これで分かったか? 貴様らは妾に勝てぬ。まあ……八犬士なら互角に戦えるかも知れぬがな」

「うぐ……」


 タマズサの挑発にベティとメディは何も返せず、ガックリと項垂れた。

 この戦いで仲間2名が死亡、1名は行方不明となり、残った自分たちは囚われの身。

 2人は降伏せざるを得なかった。


「ゴブゾウよ、奴らを牢獄へと連れて行くが、その前に見せしめとして、この有り様をハルヴァスの民に伝えたい」

「ハルヴァス全土に勇者一行がやられたことを知らせるのですね。すぐに配信用の水晶玉を用意します!」

「水晶玉でできるのか?」


 ゴブゾウは、水晶玉で映像の配信ができることを説明した。タマズサはこの世界についてまだまだ知らないことが多く、ゴブゾウは頼りになった。

 ゴブゾウは鞄から水晶玉を取り出し、それをタマズサに見せる。それはタマズサの知る水晶玉そのものであり、大きさはバスケットボールぐらいだった。


「ほう。これは見事だ。大き過ぎるのが気になるが……」

「配信用はこれが基本ですからね……よし、お前ら! 配置につけ!」

「「「はっ!」」」


 ゴブゾウとインプはキビキビと配置につく。世界配信で無様な姿を晒すわけにはいかなかった。


「さて、民草はどう反応するかな」


 タマズサは邪悪な笑みを浮かべながら、水晶玉の前に移動する。この世界は絶望に包まれようとしていた。

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