目次
ブックマーク
応援する
20
コメント
シェア
通報
プロローグ2 勇者一行の敗北

 魔王軍による本格的な侵攻が開始され、多くの町や村が魔物の襲撃に遭った。魔王軍に対処するため騎士団が動き出したが、侵攻を食い止めることはできず、被害は拡大していく。

 騎士団は勇者を頼るため、彼らの家に赴いて事情を説明する。事情を知った勇者は魔王タマズサを倒すために立ち上がった。


「俺たちに任せてください! これは見過ごせません!」


 黒髪の少年は勇者のケンジで、本名は三杉健二みすぎけんじ。地球から転生してきた男子高校生で、彼は剣士から勇者にまで成長した。お調子者なのが玉に瑕だが、勇者に相応しい実力を持っているのは間違いない。


「へっ! 相手が誰であろうとも、俺たちの敵じゃないからな!」


 金髪で鎧を纏っている男性は、重戦士のゴドム。彼は大剣を扱う怪力の持ち主で、多くの強敵を倒した実績を持つ。口は悪いが仲間思いの心優しき戦士であり、パーティーには欠かせない存在だった。


「甘く見ると痛い目に遭うことを教えてやるわ!」


 赤いミディアムヘアで、黒い魔術帽子、赤いマント、緑のチューブミニドレスを身につけた女性は魔導士のベティ。彼女は魔法学院を首席で卒業し、魔術を全て取得している。素直じゃない部分もあるが、心から仲間を思う気持ちは本物である。


「回復術は私に任せてください! 誰も死なせません!」


 緑色の髪に、白を基調とした長袖のシンプルな僧侶服を身に纏っている女性は、僧侶のメディ。彼女は教会で育ち、シスターを経て僧侶となった。回復や防御術はトップクラスで、心優しき性格だ。


「私も格闘術でサポートするわ。皆のカバーができる自信があるからね」


 ピンクのロングヘアで、青いデニムジーンズと赤の袖無しチャイナドレスを着用している女性はアイリン。彼女は父親から教わった武術を駆使して戦い、回復術も使える攻守一体の格闘家だ。


「魔王タマズサは今までの魔王とは桁違いに強いとのことです! お気を付けて!」

「任せてください。俺たちの手で終わらせましょう! 行くぞ!」

「「「おう!」」」


 彼らはすぐにタマズサ討伐のための準備を始める。相手がどんなに手強い敵であっても、自分たちの手でこの世界を守るという覚悟を決めながら。

 しかし、彼らはタマズサの恐怖をまだ知らず、この先の戦いで思い知らされることとなる。


 ※


 タマズサとゴブゾウは支配下となった廃墟の村に立ち寄っていた。そこで部下のインプから、拠点を構える許可を求められる。


「許可しよう。だが、責任者はどうするつもりだ?」

「話し合いで決めています。候補となっている者につきましては……」


 インプが話しているところに、別のインプが慌てて駆けつけた。何か騒動があったらしい。


「申し上げます! 勇者一行がこちらに向かっています! 応戦していますが押されています!」

「勇者一行だと!? 先代魔王と同じ悪夢が蘇りそうだ!」

「どうすればいいんだ!」


 インプたちは半狂乱になり、中には地面に頭をガンガン打ちつける者もいた。しかしタマズサは冷静に判断し、全員に視線を送りながら話し始めた。


「落ち着け。相手が誰であろうとも、こちらの勝利は揺るがぬ。むしろ我々を敵に回すとどうなるのか……この世界の民草に見せつけてやろうではないか」

「タマズサ様! 奴らです!」


 インプが指差す方を見ると、ケンジ率いる勇者一行が姿を現していた。彼らは真剣な面持ちで、魔王を倒そうと集中力を高めている。


「貴様らがこの世界の勇者か……妾を倒そうとしているのか?」

「ああ。これ以上、この世界を好き勝手させない。相手が誰であろうとも……俺は勇者としての役目を果たす!」


 ケンジは勇者の剣を構えて、タマズサに襲いかかった。しかし、次々と繰り出す斬撃は全て回避されてしまう。

 一方、余裕のタマズサは回避しながら小さなバリアを展開する。バリアで攻撃を弾き返しながら彼の隙を見つけ、指から光線を放った。


「デス・ソーサラー!」

「!?」


 強烈な闇の光線が真っ直ぐにケンジの心臓を貫いた。あまりの光景に、仲間たちは理解が追いつかない。


「し、心臓が……貫かれて……がはっ!」


 ケンジは口から大量の血を吐き、前のめりに倒れ、そのまま光の粒となって消滅した。残ったのは彼の持っていた勇者の剣だけだった。


「ふん。勇者がこの程度か。呆れてものも言えぬわ」


 それを聞いたゴドムは怒りでワナワナと震えていた。仲間を殺されただけでなく、冒涜されたことに黙ってはいられなかったのだ。


「テメェ! よくも仲間を! ブレイクスラッシャー!」

「見切っておるわ!」


 ゴドムは大剣を振りかざし、タマズサに攻撃を仕掛けるが、その攻撃は容易く回避されてしまう。それどころか逆に彼女の拳をボディーに喰らって、片膝をついた。


「て、テメェ……」


 ゴドムは苦痛に悶えながらもタマズサを睨みつけるが、彼女は余裕の表情で見下ろしている。するとゴドムの周りにインプが次々と集まり、あっという間に彼を取り囲んでしまった。


「俺たちを忘れるんじゃねーーーぞ」

「テメェら! 俺のことを馬鹿にするんじゃねェェェェェ!!」

「ゴドム! 挑発に乗らないで!」


 インプの挑発に乗ったゴドムは、大剣を振りかざしインプに襲いかかる。ベティの言葉も聞かず、彼は一心不乱に大剣を振り回していた。


「……仕方がない。私達も加勢するわ!」

「そうね。あと、ケンジの剣は回収しないと。大切な形見!」


 ベティは呆れながらもゴドムに加勢し、メディも後に続く。アイリンはケンジの剣を回収しに向かい、すぐに見つけて拾い上げた。


「回収完了! 後はゴドムだけど……あっ!」


 アイリンは目の前の光景に冷や汗を流した。ベティとメディも同様だった。



「ここがお前の墓場だよ。兄ちゃん!」

「が……!」



 ……それは、ゴドムがゴブゾウの槍によって、心臓を貫かれている光景だった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?