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ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年12月27日
公開日
31.2万字
連載中
異世界ハルヴァス――かつて魔法と希望が響き合った楽園は、新魔王タマズサの出現で崩壊寸前。空は赤黒く染まり、大地は不気味に脈打つ。規格外の魔力で世界を破滅へとカウントダウンさせるタマズサに、女神フセヒメは起死回生の賭けに出る。八つの運命の珠をハルヴァスと地球へ放ち、魔王に挑む「八犬士」を覚醒させる! 舞台は地球・東京、後楽園ホール。プロレス大会を控え熱狂が最高潮の瞬間、空が裂け、魔王軍「悪鬼」の五人組が襲来! 赤黒い装束の戦鬼たちは、張り手とドロップキックなどで観客を蹴散らし、リングは血と悲鳴の戦場と化す。「次はお前が沈む番だ!」と哄笑する悪鬼に、夢の舞台は悪夢へと堕ちた。 生き残ったのは冴えないサラリーマンでプロレスラー志望の東零夜、モデルレスラーの藍原倫子、アイドルレスラーの有原日和。三人の手に虹色のバングルと八犬士の珠が輝いた刹那、彼らはハルヴァスへと強制転移! これが新生「八犬伝」の幕開けだ。 地球とハルヴァス、二つの世界を賭けたデスマッチが始まる! けたたましいゴングが響き渡り、八犬士たちは運命を切り開く。 「リングに上がった以上、生きるか伝説になるかだ!」 ※カクヨムでも投稿しています!

プロローグ 魔王タマズサの誕生

「う……」


 とある魔界。その平原で、一人の美女が目を覚ましながら身を起こしていた。辺りは闇に包まれ、大地は荒れ果て、殺風景で獣の気配すら感じさせる不気味な世界が広がっている。

 彼女の名は玉梓たまずさ。室町時代に名を馳せた絶世の美女だ。夫である山下定包やましたさだかねと共に国政を意のままに操り、権力を握っていた。玉梓にとって山下は単なる道具に過ぎず、彼を利用して自らの地位を揺るぎないものとしていた。しかし、風雲児・里見義実さとみよしざねに捕らえられ、処刑される運命をたどる。山下もまた討ち死にし、二人の野望は潰えた。

 その後、玉梓は怨霊と化し、里見家を滅ぼすべく暗躍を始めた。年老いた狸に憑依し、八百比丘尼はっぴゃくびくにの姿を借りて策を巡らせたが、伏姫が率いた八人の戦士――八犬士が放った八つの珠の魔力に打ちのめされ、悲鳴を上げながら消滅した。その叫びには怒りと絶望が混じり合い、魂が砕け散るような感覚に苛まれていた。

 そして、何者かの力によって彼女の魂は魔界へと転移され、今ここに至ったのだ。


「ここは……どこだ……見慣れぬ景色だが……妾は怨霊となって八犬士に敗れたはずだが……」


 玉梓の心に初めての戸惑いが芽生えた。怨霊として復讐に全てを捧げてきた彼女にとって、この異様な風景は理解を超えるものだった。

 困惑する彼女の前に、緑色のゴブリンが駆け寄ってきた。玉梓の姿を確認すると、ゴブリンはその場で土下座した。その卑屈な態度に一瞬軽蔑の念を抱いたものの、彼女の胸には新たな可能性への好奇心が湧き上がる。


「お待ち申し上げておりました、魔王様!」

「魔王? この妾が?」


 ゴブリンの言葉に玉梓は眉をひそめ、聞き慣れない呼び名に疑問を抱く。魔王という地位への不信と、かつての支配者としての誇りが交錯していた。それを見たゴブリンは丁寧に頭を下げ、説明を始めた。


「あなた様は死を迎えた際、この世界『ハルヴァス』に転生召喚されたのです。ここは我々魔族が住まう魔界と呼ばれる場所でございます。」

「この荒れ果てた景色が魔界だと? 妾には初見の地だが……」


 ゴブリンの言葉を聞きながら、玉梓は周囲を見回した。殺風景な世界が魔界であることにまだ半信半疑だったが、心の奥底では新たな支配の舞台としての可能性を見出しつつあった。未知の世界であること、そしてなぜ自分が召喚されたのか――彼女の頭脳は冷静にその謎を解き明かそうと動き始めていた。


「その通りでございます。我々はかつての魔王様の命に従い、ハルヴァス全土を支配せんと動いておりました。だが、勇者一行の出現によりその夢は潰え、魔王様も討たれてしまったのです……」

「それで妾を新たな魔王としてこの世界に呼び寄せたの

か。お前たちも辛い目に遭ったようだな……」


 先代魔王が勇者に敗れ、リーダーを失った魔王軍は散り散りとなり、魔界に身を潜めていた。そこでゴブリンは起死回生を願い、魔王召喚を決行し、玉梓をこの世界に呼び寄せたのだ。その事情に納得しながらも、彼女の心には同情よりも利用価値を見極める冷徹な計算が働いていた。


「お主らの事情は分かった。だが、なぜ妾が魔王なのだ? 怨霊として里見家に仇をなしたことはあれど、魔王としての力があるとは言えぬぞ。」

「ご安心ください。あなた様には魔王としての素質が十分にございます。我々臣下が支えますゆえ、心配は無用でございます。」

「ほう。八犬士も里見家もいないとなれば、これは妾にとって好機と言えるな……」


 宿敵がいないことを知り、玉梓はそれを好機と捉えた。かつての敗北が魂に刻んだ傷が疼きながらも、新たな力を手に入れる喜びがそれを上回っていた。彼女は自らの足で立ち上がり、ゴブリンを見据える。その顔には邪悪な笑みが浮かび、妖しい気配が漂っていた。

 ゴブリンもまた彼女を見上げ、片膝をついて一礼した。新たな魔王として召喚された以上、今後は彼女に忠誠を誓う覚悟だった。玉梓はその忠誠を当然のものとして受け入れ、支配者としての自信を取り戻しつつあった。


「この話、引き受けるとしよう。ところで、お主の名は?」

「ゴブゾウと申します!」

「そうか。ゴブゾウよ、妾はこれより魔王タマズサとしてこの世界を支配する! 憎き者どもを打ち倒し、新たな世界を築いてやろうぞ!」

「はっ、タマズサ様! まずは仲間を集めに参りましょう!」


 戦力を整えることが急務と悟り、タマズサとゴブゾウはすぐに行動を開始した。これまでの失敗を繰り返さぬよう、自らが変わらねばならぬと心に刻みながら。タマズサの胸には、里見家への復讐を超えた新たな野望が芽生えていた。この世界を我が物とする――その決意が、彼女の魂に新たな炎を灯していた。



「あの玉梓が復活するとは、予想外の事態です。八犬士が止めを刺したはずなのに……」


 神々が住まう世界「ゴッドエデン」。その一角にある屋敷の前で、一人の女神が部下の兵士から報告を受けていた。彼女の名はフセヒメ。忠犬ヤツフサと共に里見家の家来に射殺された過去を持つが、彼女の珠により八犬士が結集し、諸悪の根源である玉梓を倒した功績が認められ、女神の地位を得ていた。

 その声には驚きと深い憂慮が滲んでいる。玉梓の復活は、彼女が守り続けてきた平和への脅威であり、かつての犠牲が無駄になるかもしれないという恐怖が心をよぎっていた。


「はい。何者かによって、ハルヴァスへと転生させられた模様です。召喚者が誰かは不明でございますが、ハルヴァスでは現在、タマズサによって大混乱となっています。」


 部下は真剣な表情で報告を続ける。タマズサはゴブゾウと共に多くの魔族やモンスターを集め、魔王軍組織「悪鬼」を設立。近くの村々を襲撃し、多くの者が被害に遭っていた。騎士団が立ち向かっても返り討ちにされるケースが続出しているのが何よりの証拠だ。

 フセヒメはその報告を聞きながら、胸に重い責任感を感じていた。彼女の力で八犬士を導いた過去が、再び試される時が来たのだ。


「そうですか。問題はどうやってハルヴァスへ向かうかです。私が女神である以上、直接降りることは叶いません。となれば、八犬士に頼るほかありませんが……」

「八犬士は現在、別の任務で悪魔と戦っており、手が離せない状況でございます。」


 八犬士は別世界での戦いの最中であり、急ぎ呼び戻そうにも戦が終わるまでは難しい。

 だが、フセヒメには秘策があった。懐から八つの珠でできた数珠を取り出し、それを強く握り、魔術を唱えようと準備を始めた。迷いはあったが、それを振り切る強い意志が彼女の心に宿っていた。玉梓を再び野放しにすれば、世界が闇に飲まれる――その危機感が彼女を突き動かしていた。


「……まさか、新たな八犬士を誕生させるおつもりですか?」

「ええ。タマズサの軍勢を倒すには、それしか方法がございません。危険な賭けと知りつつも、私は新たな八犬士を信じます。」


 兵士の問いに、フセヒメは真剣な眼差しで答え、詠唱を開始した。彼女の声には決意と祈りが込められ、かつての自分と同じように選ばれし者たちが立ち上がることを信じていた。


「八つの珠よ。我が念を授ける代わりに、選ばれし戦士たちの許へ赴きなさい。そして彼らに力と、ハルヴァスを悪から救う使命を与えなさい!」


 フセヒメが珠に念を込めると、八つの珠が輝きを放ち、分離して宙に浮かんだ。その光景に、彼女の心は希望と不安で揺れていた。新たな戦士たちが現れることを信じつつも、彼らが玉梓の力に打ち勝てるのか、その答えはまだ見えなかった。


「おお! その様子なら成功したようですね。」

「後は選ばれし戦士たちの元へ向かうのみ。さあ、行きなさい!」


 彼女の言葉に応じ、八つの珠が動き出すと、眼前には二つのワープホールが突如出現した。五つはハルヴァスへと繋がるホールへ、残り三つは別世界――地球へと繋がるホールの中へと消えていった。フセヒメはその光景を見つめながら、新たな戦士たちへの期待と、彼らを導く責任感に胸を締め付けられていた。


「五つはハルヴァスへ向かいましたが、残りは地球という世界でございます。」

「ならば、彼に頼みましょう。ヤツフサ!」


 兵士の報告を受け、フセヒメは冷静に策を練る。そして忠犬ヤツフサを呼び寄せると、大きな白いフェンリルが姿を現した。

 ヤツフサはフセヒメの功績により犬から神獣フェンリルへと昇華し、自在に体躯を変えられる力を持っていた。彼女の前に現れると、すぐさま小型犬の大きさに縮み、視線を向けた。その瞳には、かつての忠義と、新たな使命への覚悟が宿っていた。


「話は聞かせてもらった。地球の者については俺に任せてくれ。」

「分かりました。準備が整い次第、彼らをこのハルヴァスへと転移させます。彼らが戸惑わないよう、どうか導いてあげてください。」


 フセヒメの命令にヤツフサは頷き、静かに応えた。彼の心には、かつての主であるフセヒメへの変わらぬ忠誠と、新たな戦士たちを支える決意が満ちていた。

 こうして、新たな八犬士の伝説が、この出来事をきっかけに幕を開けようとしていた……。

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