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宝刀と共に消えた落武者:真田大助の秘史
宝刀と共に消えた落武者:真田大助の秘史
はなぢのおやぶん
歴史・時代日本歴史
2024年12月27日
公開日
9.8万字
連載中
大阪夏の陣で命を落とす運命だった真田大助は、豊臣秀頼公から授かった宝刀によって窮地を脱し、芸州広島藩の山間の村へと落ち延びた。そこは、江戸幕府の監視下に置かれた土地。武士としての誇りを胸に秘めつつ、大助は村の警護役として生きる道を選ぶ。

一方、村では庄屋や百姓たちが協力し、厳しい自然環境や度重なる災害に立ち向かいながら、地域の発展を目指していた。領民たちと共に村の運営に力を尽くす中で、大助は武士としての鍛錬だけでなく、村人との絆を深めていく。

しかし、次第に自らの宿命と向き合う必要に迫られることとなる。果たして、彼は己の命と村の平和を守り抜き、新たな道を切り拓けるのか──

第1話 逃亡の始まり

「天上天下唯我独尊、天上天下唯我独尊、天上天下唯我独尊……」


 秀頼公から授かった太刀を握りしめ、教えられた念仏を唱える。俺、真田大助さなだだいすけ(15歳)は、今まさに「大坂夏の陣」から敗走する最中だった。燃えさかる曲輪や砦を背に、赤備えの鎧を纏った姿は敵にとって格好の餌食だ。このままでは逃げ切れない。迫り来る徳川勢を前に、活路を開くには戦うしかない。ここで討ち取られる可能性もあるが、選択肢はひとつだ。


「こわっぱが!」

「なにを!」


 ザクッ! ザクッ! ザクッ!


 俺は次々と足軽を斬り伏せていく。その身のこなしの鋭さに自分でも驚いた。


 俺ってこんなに強かったか……?


 自信はある。俺は真田幸村さなだゆきむらの息子だ。九度山では厳しい修行を積んできた。しかし、この強さはそれだけではない。この太刀……秀頼公から賜ったこの刀の軽さと斬れ味が、俺の力を一段と引き出している気がした。さすがは名刀だ。


「……考えてる暇なんてない! 今は敵を倒し、逃げ切るのみ!」


 叫びながら太刀を振り、敵を薙ぎ倒していく。


「どけどけどけえーっ!」

 ザクッ! ザクッ!


 だが、どれだけ斬っても敵の数は減らない。湧き出るように足軽たちが迫り、俺の体力は限界に近づく。やがて四方を囲まれ、息は上がり、意識朦朧いしきもうろうとなった。


「これまでか……」


 死を覚悟したその瞬間、大音響が響き渡った。

「ドカーン!」


 地面が揺れるほどの爆音とともに、砂煙が舞い上がる。視界が白く曇る中、誰かが俺を抱き上げた。


「若っ!」

 声を聞いて目を開けると、そこには父上幸村の配下で忍者の望月六郎もちづきろくろう(43歳)の姿があった。


「逃げますぞ!」


 六郎に支えられながら、俺たちは必死に走り続けた。


 やがて山林に逃げ込み、ようやく敵を振り切った俺たちは、湧水で喉を潤し、一息ついた。


「若、秀頼公の最後を見届けましたか?」

「ああ、見た……でも俺はすぐに逃げた」

「逃げるのは大殿の命令です。ご自分を責めることはありません」

「……」


 俺は黙り込んだ。胸にわだかまる「後ろめたさ」を感じながらも、逃げたことを後悔はしていない。


「……腹減ったな、六郎」


 話を逸らしつつ周囲を見渡すと、どこかからほのかな香りが漂ってくる。俺の鼻は昔から利く。九度山での貧しい暮らしで、食材を探し続けた経験が役立った。

「タラの芽の匂いがする」

 草木をかき分けると、季節外れに生えている新芽を見つけた。

「あったぞ!」


※タラの芽(ウコギ科タラノキ属の落葉低木)

新芽「たらのめ(楤芽)」を食用する。ほのかな苦みともっちりした食感が味わいで「山菜の王様」と呼ばれている。


 俺たちは数本のタラの芽を収穫し、湧水にさらしてアクを抜いた。口に運ぶと、ほのかな苦みと柔らかな食感が広がる。

「うまい!」

「若、相変わらずの嗅覚ですな」

「これだけは九度山で鍛えた俺の誇りだよ、六郎」


 殺伐とした戦場を離れ、しばしの休息を取った俺たち。


─ ─ こうなったら、絶対に生き延びてやる!



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