目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第4話 わたし、もしかして詰んだ?

「あ、ごめんなさい。ノックもしないで入ってしまって」


 ペコリと頭を下げて入ってきたのは、アシュリーより少し明るいミルクティー色の髪色の女の子。同じ薄茶の髪色でも、彼女のほうがミルク多めって感じかな。

 薄茶の瞳と髪の長さもアシュリーに似ているけど、アシュリーはちょっと面長、彼女は丸顔でかわいい。

 表情も仕草もなんだか守ってあげたい感じで、見た瞬間「ゲームのヒロインきたー!」とか思っちゃった。


 いや、ゲームのヒロインはわたしよね?

 もしかして、ダブルヒロイン?とも思ったけど、そういう灯里の情報は出てこない。

 こんな女の子、ゲームに出てきたかな?

 モブキャラにしては存在感がありすぎなんだけど・・・・・・。


 アシュリーに似た雰囲気の女の子の登場に、ちょっと頭が混乱していると、彼女が目の前にきて笑顔で話しかけてきた。


「あの、あなたは同室になる人ですか? 確か、アシュリーさん、ですよね?」

「え、あ、はい。アシュリーです。もしかして、ピアリーさんですか?」

「はい、ピアリーです。教室ではお話できなかったけど、同じクラスですよね。よかった、同室者がクラスメイトで」

「え? ピアリーさんもAクラス?」

「そうですよ。よろしくお願いします」


 そうだったっけ? ついさっきの出来事なのに、彼女の自己紹介とかまるっきり覚えていないんですけどー?

 そうだ、わたしってば、攻略キャラ探しに必死になっていて、男子生徒ばかり見ていた気がする。

 あれって、鷹の目で男子を物色する女って見られてないかな?

 確かに学園は有望な結婚相手を見つける場所でもあるんだろうけど、アシュリーのようなヒロイン顔で、それやっちゃダメでしょーってことをやっていたかも。

 目立たないように自重しよう、うん。


「同い年で同じ平民ですから、口調とか崩していいですか?」

「あ、うん。わたしもそのほうが気が楽だから、そのほうがいいかも」

「ありがとう。まわりが貴族の方ばかりで緊張してたから、アシュリーちゃんと同じ部屋になれてうれしい。友だちになってね」

「うん、わたしもよろしくね」


 そうか~、ピアリーちゃんも平民なのね。話しやすくて、よきかな~。

 初対面でちゃん付けで、するっと胸のうちに入り込むテクニック、まさにヒロイン力じゃない?

 アシュリーがデフォルトネームだから、わたしがヒロインかも、なんて思っていたけど、もしかして彼女が真のヒロインなのかもしれない。

 もしそうなら、ヒロイン推しで頑張っちゃうんだけど、なぁ。


 向かいのベッドにピアリーちゃんが腰かけると、ちょうどおしゃべりするのにいい感じ。

 孤児院は年下の子ばかりだったから、こんな風に女子会ができるのは楽しいな。

 ん? 女子会って灯里の記憶かな?

 たまに灯里の記憶みたいなのが入ってくるので、考え込んじゃうのが慣れないかも。

 でも、確認しておかないと情報漏れが怖いから、これは慣れないとね。


 ピアリーちゃんの話によると、彼女は実家が王都の隣の領地の商家で、家が遠いので入寮を決めたという。

 学園の勉強では、「精霊学」の授業が興味深いと微笑むピアリーちゃん。かわいい。

 精霊と契約できるの、楽しみよね。わたしも今からワクワクしてる。


 でも、ゲームでアシュリーが契約した光の精霊とは違う精霊にしようなぁ。

 光の精霊ってなんとなく特別で、攻略キャラの目を引きそうじゃない?

 ゲームのシナリオ通りにはならないように、『ときめき♡ファンタジア』のアシュリー像とは違う部分を増やすことにしようと思うけど、そうなると───。


 わたしは、早速友だちになったピアリーちゃんに相談することにした。




 翌日、ピアリーちゃんと登校したわたし。

 クラスメイトと登校するって、久しぶりで新鮮だわ。これは灯里の感想だね。学園生活スタートにワクワクしているのが今のわたしの実感。学生生活を楽しむぞー!


 そのわたしの外見は、昨日とは違って地味に変貌。

 ピアリーちゃんに借りた伊達メガネと、三つ編みのお下げで目立たない見かけになっていると思う。

 だって、美少女顔のアシュリーは座っているだけで注目を浴びてしまうんだもの。

 目立たない見た目になりたい、とピアリーちゃんに話したら、「なぜ?」という表情をしながらも、彼女に協力してもらえたの。

 やぼったいアシュリーの出来上がりってね。


 よし、これでヒロインの外見力も5割ダウン。

 あとは、目立つ行動をしないことを心がけるだけよ。



 Aクラスに入って席につくと、ロジャー先生の授業が始まった。

 これから1週間は、午前中が「精霊学」の授業で、午後は自習のカリキュラムになっているという。

 入学してからすぐの特別授業で、これは1週間後の精霊契約の儀式のための準備だと説明があり、クラスメイトがざわめいた。


 落ち着かないような、浮き立つような雰囲気、わかるよ、期待が高まるよね。


 午前中に「精霊学」の基礎をみっちり教えてもらい、午後は図書館などで精霊について興味のあるものを自主的に学ぶらしい。自分と相性が良さそうな精霊を見極め、契約をスムーズに済ませるために必要みたい。


 ああ、思い出した。

 そういうゲージっぽいのを上げる仕様がゲームにあったかも。


 ゲームのアシュリーは孤児院の子たちのケガや病気を治したくて、治癒の力が使える光の精霊との契約を望んでいた。それで光の精霊のことを調べて、その知識をゲージに貯めていたのを思い出す。

 確か、ゲージが高いほど強い力を持つ光の精霊と契約できて、それでニコラス殿下に目をつけられるんじゃなかったっけ。


 あ~、これは王道の王妃様ルート一直線コースだ。

 思い出して、それはないわ~って思った。

 うん、光の精霊は除外しよう。


 そうそう、ついでに思い出した。

 それ以外の属性の火・水・風・土・闇の精霊と契約すると、その属性と契約した攻略キャラが出てくるんだった。

 そのイベントのきっかけになるのが、精霊との契約の儀式。


 つまり、どの属性の精霊と契約しても、その属性の攻略キャラとのルートが開放されるというわけ。

 これって、やばくない?


 攻略キャラとの恋愛を望まないのなら、どの属性の精霊とも契約できないということになるのでは?

 しかし、精霊師になるには精霊との契約は必須。

 契約ができなければ退学になるかもしれないし、精霊師としての自立の道も閉ざされる。

 それって、わたしのこれからの人生が───。


 わたし、もしかして詰んだ?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?