「雲ひとつない空に桜舞うこの良き日に、オールストーン学園へと入学されたみなさん。入学おめでとう───」
ナイスミドルな学園長のあいさつで、入学式が始まった。
イケボで若い頃はさぞかしモテたであろう学園長だけど、まさか攻略対象とかではないでしょうね。
生徒も先生も美形度マシマシなので、誰が攻略対象なのかわからないんだよね。
ゲーム画面であった、まぶしい光の演出とか当然ないわけで。
う~ん、特に記憶が出てこなさそうだから、学園長はシロだと思う。
しかし、春に入学式とか、体育館で入学式とか、このゲームは日本っぽい設定だなぁ。わかりやすくていいけど。
もちろん、目立たないようにして攻略キャラとは距離をおいて楽しむつもりだ。
灯里には似合わないって自然に出てきた思いだけど、自分がどんな顔をしてたのか思い出せない。年齢とか、なにをしていたとか、この世界に来た原因とかも、記憶がない感じ。
そうなると、灯里ってなんだろうな~って胸に穴が空いたような寂しさがあるけど、アシュリーとしての記憶がしっかりしているからきっとだいじょぶ。
それより今やるべきことは、と話を聞く振りをしながら、視線を巡らせる。
えっと、どの人がそうなんだっけ?
生徒会長のニコラス殿下があいさつをしているなか、先生や生徒会役員、上級生や同級生をざっとチェックしてみたけど、ニコラス殿下以外の攻略キャラが思い出せない。
生徒会役員にはそれっぽい生徒が数人いそうだけど、この人!というのが出てこないのよ~。
イベント発生とかに関係して思い出してくるのかな?
それはちょっとやばい気がする。
攻略キャラと知らずに仲良くなって、実はそうでしたーって展開は避けたい。
いつの間にかイベントが始まっていて、その相手との恋愛ルートがスタートっていうのはやめてほしい。
モブらしき男子生徒すら、タイプの違う美形みたいなものなので、うっかり踏んでしまう地雷がありそうで怖い。
そうなると、男子生徒は全無視かなぁ。
恋をしたい女の子にとっては、イケメン天国なこの状況だけど、わたしにとっては戦々恐々だわ。
すでにわかっているニコラス殿下ですら、ハッピーエンドの結末が思い出せないってかなりまずい気がするんだよね。
定番だったら、身分の差を超えての婚約者ルートかな?って思うけど、どうなんだろう?
ええ、鼻っから未来の王妃候補なんてなりたいと思いませんとも。
わたしは生粋の庶民なので、平民のままでいさせてください!
ちなみに、ニコラス殿下のあいさつは攻略キャラらしい、好感の持てるものでした。
こういうそつないところが逆に物足りないというか、もうちょっとギャップが欲しいかな~って思ったんだよね。
初期メンバーだからこそ、もっと作り込んでほしかった。
って、初期メンバーって新たなキーワードがまろび出てきた。
殿下ひとりってわけはないから、きっと何人かいるんだろうな。
早く思い出して、わたし!
ニコラス殿下の声優は、櫻谷孝史さんだったっけ。確か人気の声優さんだったはず。
イケボは心のオアシス。癒やされる~。
声だけ聞いていたいかも。
入学式のあとは、教室に移動してびっくり。
案内に従ってAクラスの教室に入ると、ニコラス殿下の姿があるじゃありませんかー?!
やっぱりヒロインのそばには、攻略キャラが配置されているのかしら?
そう思うと、男子全員が攻略キャラに思えて、緊張するじゃないですかー。
もう身を縮こませて亀になります、わたし。
自己紹介が始まって気づいたけど、このAクラス、貴族から平民までバランスよく入ってる印象を受けた。入学試験の成績順じゃないんだ。
なぜ?と思ったら、担任の先生の説明で、どのクラスも1年生の内はそうなっているらしい。
身分に関係なく交流して欲しいという学園長の方針だとか。
もしも身分に準じてクラス分けされていたら、平民のわたしはEクラスだと思うんだけどなぁ。
2年生からは成績順になるみたいだから、とりあえずこの1年間はひっそりと地味に過ごそうと思う。
さすがに1年も経てば、攻略キャラもわかってくると信じて。
そんなことを考えていたら、わたしの自己紹介の番が回ってきた。
さっと無難に終わらせよう。
「わたしはアシュリー、平民です。得意科目は、ありません。趣味はクッキ・・・・・・じゃなかった、寝ることです。どうぞよろしくお願いします」
拍手がパラパラあったけど、当たり障りない自己紹介になったかな。
言いながら思い出したんだけど、ゲームではアシュリーの得意科目は音楽、趣味はクッキー作りって言ってた気がする。
実際に歌を歌うのは好きだし、孤児院のみんなにクッキーを焼いて配っていたけど、そこは変えておこう。
できるだけゲームのアシュリーとは違う言動や行動をしたほうがいいかな、と思うから。
アシュリーらしく振る舞うのを禁じる。
う~ん、これはかなり頭を使いそう、だなぁ。
甘いクッキーが無性に食べたくなった。