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第5話 武闘派の本領

「では、作戦決行だ!」


 俺の号令と共に、クラウスがキーボードを叩く。


「さて。プラネットDOSのトラフィックを食らいやがれ!」


 巨大SNS、【ウィスパリングフェアリー】の協力を得て作り上げたアプリ、プラネットDOS。アプリのインストールされた端末は、クラウスの指示したアドレスに、ただアクセスする。それだけ。


 だが、ウィスパリングフェアリーは、30億人のユーザーを抱えている。それだけの端末から一斉にアクセスされれば、どんなサーバーも停止する。


 今回は、エレノアの交渉でヘリオスの制御サーバーへの回線を確立し、アクセスを集中させている。30Tbps のトラフィックは、確実にヘリオスをダウンさせるはずだ。


「ヘリオスの機能停止を確認! 奴の天の目は取り敢えず封じたな」

「さて。次はどう出る?」


 程なくして、ジムが笑い出した。


「アイリスの奴、各国の大手金融機関に攻撃を始めた。財産を人質に取るつもりか?」

「想定内だな。東都ソブリン銀行に攻撃を仕掛けてくれれば、奴は終わりだ」


 東都ソブリン銀行は、敢えてセキュリティに脆弱性を残してある。エレノアがそう交渉してくれた。アイリスに顧客情報を盗み取られるくらいなら、データは破棄すると、約束してある。


「おっ、攻撃してきた。だが残念。そこには何の情報もない」


 アイリスに対し、こちらが敢えて弱みを見せれば、簡単に引っ掛かってくれるわけだ。


「ふっ、スコーチドアース(焦土作戦)、成功だな」


 ジムの仕掛けていたウイルスに感染し、アイリスは自己崩壊を始めた。だがもちろん、これで終わるとは思っていない。


「最後にやってくれたよ。こっちの位置情報を抜き取られた。また兵士が来る!」


 クラウスが怒りを込めて叫ぶ。やはり全て順調とは行かないわけだ。


「ようやく俺の出番か」


 俺は鉄棍を手に取り、立ち上がる。


「増援を呼ばれると面倒だ。位置情報の偽装まで、何分かかる?」

「俺なら3分でできる」


 ジムは心強い返答をしてくれた。


「じゃあ余裕を見て2分半で片付けてくる」


 俺はシェルターを飛び出し、東京の街へ繰り出した。やっぱり、皆の活躍をただ見ているだけではつまらない。


 しばらく走ると、すぐにヘリから降りてくる銀色の兵士2人が見えた。


「150秒以内にぶっ殺してやるよ、AIの奴隷ども」


 俺は兵士を前に啖呵を切る。


【民間人は速やかに避難してください。オヴェスタ連邦陸軍による特殊作戦が始まります】


 この期に及んでまだオヴェスタ軍のふりをするか。もはや滑稽だな。


【10秒以内に退避行動が見られない場合、警告射撃に移ります。10、9、】


 俺は警告を無視し、セミオートの射撃を浴びせる。だが、全て躱された。奴らはまだ、ヘリから降り立って背中を向けた状態だというのに。


「大した実力だ」


 俺の射撃をノールックで躱すとは、普通の兵士ではない。アイリスの観測データがリアルタイム共有されているのだろう。そこかしこに監視カメラがある。アイリスがそれにアクセス出来ないわけはないしな。そしておそらく、脳自体のリミッターを外されている。そうでなければ、観測データを瞬時に処理し、反応してみせるなんて芸当はできない。


 次の瞬間にはマズルフラッシュが閃く。俺はすかさず避けるが、近くの電柱に銃弾がめり込んだ。銃弾は爆散し、電柱がこちらに向かって倒れてくる。


 なんとか回避できたが、千切れた電線を回避したので隙が出来てしまった。兵士の容赦ない拳が迫る。


「これは……!」


 腕で受ける判断を直前で変え、身を捩って回避した。


 やはり、明らかに人間の限界を超えた膂力だ。まともに受ければ腕が折れていた。加えて、手榴弾のように炸裂する銃弾も面倒だ。これは時間かかるかもな。


「ちょっと誘導してみるか」


 俺はわざと壁際に沿って走る。炸裂弾が後を追うようにして着弾し、クレーターを作っていく。俺は行き止まりに逃げ込んだ。


 三方を壁に囲まれたここなら、炸裂弾は迂闊に使えないはず。衝撃が跳ね返ってきてしまうからな。ならば拳が来るはずだ。


 案の定、兵士たちは銃を捨て、大振りのパンチを繰り出してきた。だが、俺が間一髪で躱すと、腕が壁にめり込んだ。


「はい、隙あり!」


 俺は鉄棍を振り下ろし、兵士の腕をへし折った。


「さすがにここまでの先読みは無理なようだな、アイリス!」


 俺はそのまま鉄棍で顔面を粉砕し、さらにもう一人の兵士の顎を蹴り砕いた。


「にしても、悲鳴一つ上げないのか。AIに操られているとはいえ、不気味だな」


 まるでロボットでも相手にしているような感覚だった。こんな人間とも機械ともつかない不気味な代物を相手取っていかないといけないのか。


「ジム、もう終わった。130秒くらいで片付いた。そっちは?」


 俺が電話をかけると、ジムは嬉々として返事をした。


【こっちも今片付いたとこだ。もう、操り人形どもとアイリスとの通信は途絶した。俺達の居場所を見失って諦めたんだろうよ】


「そうか。作戦成功だな」


 こうして、知る人ぞ知る義賊ハッカーだった俺達は、暴走AIをデリートした世界的英雄となった。


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