それから一年後。仲間は3人集まり、アペイロンは5人組グループとなっていた。もちろん、世間はその素性を知らない。だが、俺たちは世の中の悪事を次々と暴いていた。
「大河。日本の特殊詐欺グループなんか潰しても、つまらねぇよ。もっとでかい国を相手取りたい」
セキュリティ担当のクラウスが文句を言ってくる。
リサの知り合いだと言う彼もまた、素行不良で名門大学を追放されたらしい。最近流行りの特殊詐欺犯を警察に突き出してやったのに、まだ不満なようだ。
「それには金と協力者が必要でしょ? 私がかき集めてくるから待ってなさい?」
エレノアが窘める。こいつは、アペイロンのいわば渉外担当だ。公式サイトに仕込んだアペイロンの隠し応募フォームに気付き、加入が決まった。身分を隠しての外回りが得意な、なかなかの切れ者だ。
「俺も、新作のサイバーマシン試したいんだよね」
プログラマーのジムも嘯く。
「あんたのはサイバーマシンじゃなくてコンピューターウイルスでしょ。格好よく言っても無駄だから」
「俺の自信作をウイルスと一緒にするな!」
「はいはい」
ジムは天才エンジニアらしくこだわりが強い。
「それより、セカンダリーオメガ社の粉飾決算疑惑が浮上してる。さらに知名度を上げるにはちょうどいいと思うんだけど、どうかしら?」
エレノアはまたうまい話を持ってきたようだ。セカンダリーオメガ社といえば、世界最大手のファブレス企業だ。
「あそこのセキュリティは堅いからなぁ。リサ、どう思う?」
クラウスが問いかける。セキュリティの専門家たるクラウスも、リサの記憶能力については頼りにしていた。
「最近サーバー更改が行われたらしく、データベースソフトのバージョンも上がってる。ただ、プログラムの修正も発生したから、新たに脆弱性が生まれた可能性もある。私が分かるのはこんなところね」
リサを匿うためにでっち上げた組織だったが、リサはすっかり馴染んでいた。
「大河が行くまでもなさそうだな」
「そうね。潜入するなら私のほうが警戒されないかも」
エレノアが名乗りを上げる。渉外だけでなく、スパイ的な工作活動も得意のようだった。
「じゃあ俺は送迎係かな」
俺もITにはそれなりの専門知識があるが、ここにいるメンバーたちには到底敵わない。そのうえ、一般企業への潜入に傭兵スキルが要るとも思えないので、車を出すだけで終わりそうだ。
「リーダーが雑用係ってどうなのよ……」
リサが鋭いツッコミを入れてくる。そこは仕方ないだろ。
「それだけ権限委譲が進んでいるということだ。組織としてはいい兆候だよ」
「はぁ、そうね」
とはいえ、リサを狙うオヴェスタ連邦軍を相手取るとなれば、俺の出番も増えるだろう。最近奴らに動きがないのが不気味だが。
「ちょっと待て。リサ。これってやばくないか?」
クラウスがなにかのログ画面を開いて見せる。
「うちのサーバのipアドレスが抜かれてる。どうやって?」
リサは困惑気味だ。
「俺の構築したセキュリティ的には、ipが分かったところでアクセスはできない。それこそ、世界一のスパコンでも千年かかる計算だ。なのにこいつ、侵入を試みてる」
「そのアクセスのプロパティ見せて……あぁこれ、わたしが作ったやつだ」
「分かるのか?」
「とんでもない速度で試行を繰り返してるけど、総当たりじゃない。一定のアルゴリズムに基づいて試行してる。それに、アクセスブロックされないよう発信元情報を変え続けてる」
リサは瞬時に詳細な分析をしてみせた。
「そんなの、人間業じゃないな。ツールを使っているにしても、相当大がかりなプログラムだ」
「そうね、だってこの攻撃手法、私が考えてAIに学習させたアイデアだから」
マジかよ。リサはそんな教材をAIに与えていたのか。AI研究に携わっていたとは聞いていたが、一体どんなのを作っていたんだ?
「アイリスが……来る! 皆ネットワーク切って!」
リサが指示するや否や、皆瞬時に端末をオフラインにした。俺も共用サーバーを落とす。
「アイリスって何なんだ? セカンダリーオメガ社とどう関係がある?」
「そろそろ説明してくれ」
皆がリサに視線を集める。
「分かったわ。皆を信頼して言う。アイリスの正体について、ちゃんと説明するわ」
リサはようやく、重い口を開いた。