「それじゃあ行ってまいります。」
「お邪魔にならないように、しっかりつとめるんだぞ。」
「わかってるよ、じいちゃん。」
私は工房長に見送られながら、アルベルトとともに、ロイエンタール伯爵家の馬車で、王立図書館へと向かった。
本当なら、御者に扮しているロイエンタール伯爵家の騎士には、騎士としての仕事があるから、解放してあげたいところだけれど。
辻馬車を捕まえるとなると、レオンハルトさまの護衛が必要になってくる。だけど村人に気付かれないようにこっそり護衛をお願いしている立場としては、アルベルトとレオンハルトさまをかち合わせるわけにいかない。
ロイエンタール伯爵夫人として出かけるのであれば、イザークも馬車を自由につかってくれてかまわないと言ってくれているしね。
初めて貴族の馬車に乗ったらしいアルベルトが、終始緊張の面持ちだったのが、少しだけ申し訳なかったけれど。
王立図書館について、お目当ての本を司書に頼んで探し出してもらい、身分証を提示すると、司書の顔色が変わった。
「魔塔の賢者さまですか……!?」
アルベルトは少し離れたところで、珍しそうに本を眺めていたから気付かれなかったと思うけれど、そんなことを大きな声で言われたら困るわ。私はシーッと司書をいさめた。
「……魔塔の賢者さまのおめがねにかなう本でしたら、一般書籍ではなく、禁書庫にございます。どうぞこちらへ。お連れさまは大変申し訳ございませんがご遠慮ください。」
そんなものがあるの?私は了承して、アルベルトにしばらくここで時間を潰して待っていて欲しいと告げた。アルベルトはコックリと頷くと、適当な本を取ってめくり始めた。
王立図書館の司書が連れて来てくれた場所は、少しカビ臭い地下室の、鍵のかかった部屋だった。ここは王族と、それに準じる魔塔の賢者にのみ、閲覧の許可がある本ばかりなのだそうだ。
万が一にも持ち出されないようになのか、平積みされた本に鎖がかかっていて、この中でだけ読めるようになっているらしい。
棚に入っている本もあったけれど、それらもしっかり鎖がつけられていて、本と本の隙間が、鎖の分だけ開けられていた。
「聖女さまも過去にお使いになられたという回復魔法の数々を記した書籍はこちらになります。こちらであれば、どのような疾患や怪我であっても、治せる魔法が記されております。ごゆっくり御覧ください。」
そう言われたのだけれど、私はこの本に記されている魔法陣を絵に描かなくてはならないから、外に持ち出せないのは困るわね。
……ここで絵を描く他ないわね。目当ての魔法陣のページを探し出すと、私は地下室でイーゼルを立てて、キャンバスを乗せた。
アルベルトを何も言わずに長い事待たせてしまうことになるわね。一声かけたかったのだけれど、仕方がないと諦めて、さっそく絵を描き始めた。
以前1度描いただけあって、魔法陣を描くのはかなりスムーズにすすんだ。あとはこれが乾くのを待つだけね。
するとしばらくして、王立図書館の司書の方が様子を見に来て、本を絵に描いている私を見てギョッとしたようだった。
「絵に描き写されたのですか?」
「……まずかったでしょうか?」
持ち出し禁止の本だもの、ひょっとしたら写本を作ることすらいけないのかも知れないわ、ということに思い至る。
「いえ、王族と魔塔の賢者さまのための本ですので、それは問題ありません。おっしゃっていただければ、我々が写本にいたしましたが……。」
と申し訳なさそうに言ってくれた。
「ああ、そうだったんですね。いえ、絵でないと意味がないので。お気遣いありがとうございます。」
「……そうなのですか?それでしたらよいのですが。ですが絵が乾くまでに、持ち運びが大変なのではないでしょうか?」
「そうですね……。本当はすぐにでも、絵に触れて問題ない状態にしたいのですけれど、乾くのに時間のかかるものですから、そうもいかなくて……。」
「それでしたら、我々が写本をする際に、インクを乾きやすくさせるための魔道具をお貸しいたしましょうか?」
と言ってくれる。
「え?そんなものがあるのですか?」
「はい、大切な本ですから、写本といえど、インクがこすれてしまったら台無しになります。ですのでその為の魔道具を用意しているのです。すぐに乾くと思いますよ。」
「本当ですか!?ぜひお貸しいただきたいですわ。とても助かります。」
そんな便利なものがあるのね。どこで売っているのかしら。ぜひとも購入したいわ。
「それは、どこに行けば手に入りますか?」
「文房具関連の大きな店であれば、魔道具も取り扱っている場合がありますよ。そちらにいらしてみてはいかがでしょうか?このあたりであれば、我々がよく使っている、トラウトマン商会にあることでしょう。」
トラウトマン商会ですって?ヴィリのお父さまの商会だわ。そんなものまで取り扱っていたのね。早速帰りに立ち寄りましょう。
「よいことを教えて下さってありがとうございます。早速立ち寄らせていただいますわ。今日は王立図書館の魔道具をお貸しいただいてもよろしいでしょうか?」
「かしこまりました、さっそく持ってまいりますね。」
王立図書館の司書の方が、インクを乾燥させる魔道具を持ってきてくれる。
それを使ったらあっという間に絵が乾いて、触れることが出来るようになった。
これならこれから必要な絵を描いた時に、すぐにでも絵の効果を使うことが出来るわ。
絵をケースにしまってカバンに入れ、王立図書館の司書の方にお礼を言って、アルベルトを迎えに行く。
「ごめんなさい、待ったでしょう?」
「ううん、ここにはたくさんの本があって退屈しなかったよ。用事は終わったの?」
「ええ。特別な本を貸していただいて、それを絵に描くことが出来たわ。これできっと村長さんのご病気も治る筈よ。早速村に戻りましょうか。」
「そうしよう。」
外に出ようとしたところで、シュテファンさまとばったり遭遇した。そういえば、いつもお昼をここで本を読みながら過ごしているんだったわね。今日もそうだったのかしら。
「フィリーネさま。お久しぶりです。図書館でお会いできるとは偶然ですね。今日はとてもついているな。」
そう言ってにこやかに微笑むシュテファンさま。それを見たアルベルトが、値踏みをするようにじろりとシュテファンさまを睨む。
……レオンハルトさまがおっしゃっていた目線というのは、これのことかしら。確かにこの目つきで見られたら、敵意を持っていると思われても仕方がないかも知れないわね。
アルベルトに睨まれたシュテファンさまは困惑しつつ、こちらの方は……?とやんわりと尋ねてきた。
「今お世話になっている村の方で、私に仕事を依頼して下さっている方のお孫さんです。村長さんが大怪我をしてから、体調が思わしくないそうで……。私の絵を使って治せないかと思って、図書館に来てみたんです。」
「絵を使って……怪我を治す……?」
とシュテファンさまはキョトンとした。
そう言えば、私が魔法絵師として認められて、そこで得た力の内容についてまでは、詳しくお話したことがなかったかも知れないわね。私は私の絵の能力について説明した。
「なんと……。そこまでの力がおありだったのですか。長患いは辛いですからね。私も祖母がぎっくり腰になって以来、腰が外れやすくなってしまいまして、歩くのを怖がってしまってなかなか出歩かなくなったことで、足腰がそもそも弱ってしまって……。出来るだけ散歩に誘うようにはしているのですが……。ご家族も心配なことでしょう。魔法の力で早くよくなるとよいですね。」
とそう言って微笑んでくれた。
「まあ、そうだったのですか?それでしたら今からシュテファンさまの自宅にお伺いして、お祖母さまのお怪我も治して差し上げましょうか?村長さんのご自宅にお邪魔するまでには、まだ時間がありますし。」
「本当ですか?ですが、お連れの方もいらっしゃることですし、ご迷惑なのでは?私は別に後日でも構いませんが……。」
今にも噛みつきそうな目でシュテファンさまを睨んでいるアルベルトに遠慮をしたのか、そんな風に言ってくる。
……アルベルトったらどうしちゃったのかしら。普段は動物好きな優しい青年なのに。村人たちに対する態度を見ていても、お年寄りが困っているのを黙って見ているような人じゃあない筈だけれど……。
シュテファンさまだから、気に入らないのかしら?まさかね。
「シュテファンさまはいつもお忙しくていらっしゃるでしょう?王宮での仕事も、ご自分のお店のこともありますもの。タイミングの合う時に伺うのが1番ですわ。今日はこの後のご予定は?」
「店は従業員にまかせてありますので、今日はこのまま家に戻っても問題ありません。」
「でしたらなおのこと、今日伺わせていただきますわ。私も立て込んでおりますので、次を待っていたら、いつになるかわかりませんもの。いかがでしょうか?」
「お連れさまが問題ないのであれば……。」
「構わないかしら?アルベルト。」
「おばあちゃんが困っているというのなら、いいよ。けど、俺も一緒に行く。」
「構いませんか?シュテファンさま。」
「若者が来たほうが祖母も喜ぶと思います。ご迷惑でなければぜひいらしてください。」
シュテファンさまはそう言って微笑んだ。
そこへ突然、
「──シュテファンさま!こんなところにいらっしゃったのね!探しましたわよ!」
と、赤毛のボブカットの女性が、突然後ろからシュテファンさまの腕に絡みついた。そしてなぜか私のことを睨んでくる。
「あら、お話中でしたの。失礼いたしましたわ。わたくしはコゼット・バーリル。バーリル伯爵令嬢ですわ。シュテファンさまの婚約者ですの。どうぞお見知り置きを。」
「婚約者……?」
「バーリル嬢、そのお話はお断りした筈ですが。こんな人目のある場所で淑女が突然異性に抱きつくなど、あまり褒められたことではありませんよ。」
そうシュテファンさまに言われて、しぶしぶ、と言った様子でシュテファンさまから手を話した。
「今日はこの方々と大事な話があるのです。ご遠慮いただけませんでしょうか?」
「この方々……?」
そう言って、私とアルベルトをじろりとなめるように見てきた。
「先約があるのなら仕方がありませんわね。また改めて、面会のお約束を取り付けさせていただきますわ。それではごきげんよう。」
そう言って優雅にカーテシーをして去って行った。嵐のような女性だったわね。
「……彼女は弟と家督を争ってまして。上位貴族から領地経営の出来そうな優秀な婿が取れれば、家督を譲ってもいいという条件を出されているそうで……。どうも私に狙いを定めているようで、最近私の来る場所来る場所に押しかけてこられるのです。」
ああ……。シュテファンさまは3男とはいえ侯爵令息だものね。それにご自分の化粧品店を経営している、優秀な実業家でもあらせられるわ。少し学べば領地経営なんてお手の物でしょうし。おまけに化粧師として、王宮にも出入りしていて、王族の覚えのめでたい方だもの。入婿として条件がいいのでしょう。
「うちの両親が思いの外乗り気でして……。それで婚約者などと触れ回っているようなのですが、私にはそのつもりはないのです。
……あなたがいますから。」
そう言って、じっと私を見つめてくる。突然自分に話をふられてドギマギしてしまう。
思わず時が止まったような気がした。
「──おばあさんのところに行くんじゃなかったの?村長のところにも行くんだし、あんまりここで長話してる時間はないと思う。」
そこに割り込むようにアルベルトが口を挟んで来て、私は思わず我に返った。
「ああ。そうだったわね。じゃあさっそく行きましょうか。ロイエンタール伯爵家の馬車が控えておりますから、そちらに同乗いただけますか?シュテファンさま。」
「かしこまりました、お邪魔させていただきます。祖母をよろしくお願いいたします。」
シュテファンさまが、ロイエンタール伯爵家の御者兼護衛に、フィッツェンハーゲン侯爵家への行き方を伝える。
馬車はするすると走り出したのだけれど、馬車の中はどうにも落ち着かなかった。
シュテファンさまが話しかけようとすると、アルベルトがそれを遮って私に話しかけたりしてきて、少しも3人での会話にならなかった。……居心地が悪いわ。
フィッツェンハーゲン侯爵家は、ロイエンタール伯爵家ほどでないにしても、立派で歴史を感じる建物だった。
ロイエンタール伯爵家は、イザークが稼ぎ出してから立てた家だから、まだ歴史が浅いのよね。本来は義母が引っ込んでいた領地の別邸が本邸で、今のロイエンタール伯爵邸が本邸になったのは、イザークが商人として頭角を表してから立て替えられたものなのだ。
それなのに、その当時のロイエンタール伯爵に権利のあるものなのだから、法律ってややこしい。あくまで当時のイザークは従業員の1人で、売上はロイエンタール伯爵家が持っている商会のもの、ということだった。
商会の売上から先代が自分への配当金という形でお金を受け取って建てたもの。だから売上のもとになったお金がイザークの実力によるものでも、法的には先代の物であり、先代亡き後に引き継いだ義母の物というわけ。
「おばあさまはいらっしゃるかい?お客さまがいらしているんだ。君たちはお茶の準備をしてくれ。私はおばあさまを迎えに行く。」
シュテファンさまが帰宅するなり、テキパキと従者たちに指示を飛ばす。
「大奥様は自室にいらっしゃいます。」
そう言った侍女にうなずくと、
「祖母を迎えに行ってまいります。お茶の準備をさせますので、それまでおくつろぎください。すぐに戻りますので。」
そう言って家の奥に消えて行った。ほどなくしてお茶の準備がなされ、お茶を飲みながら待っていると、車椅子に乗った御婦人が、シュテファンさまに車椅子を押されながら、応接室にやって来た。
「こんな姿でごめんなさいね、ブリギッテ・フォン・フィッツェンハーゲンと申します。若いお客さまだなんて嬉しいわ。私の体を治してくださるとのことですけれど……。」
「フィリーネ・フォン・ロイエンタールと申します。こちらは、」
「アルベルト・ノートンです。」
平民とは思えない丁寧な挨拶をするアルベルト。絵の具工房で貴族とも付き合いがあるからかしら?とても意外な姿ね。
シュテファンさまがブリギッテさまを車椅子から抱きかかえて降ろし、ソファーに座らせた。
「……もう長いことこの状態なの。だからあまり期待はしていないのだけれど、この子があんまりにも言うものだから……。」
ブリギッテさまは、はにかんだ笑顔が少女のように愛らしい女性だった。それを微笑ましげに見ているシュテファンさま。おばあさまのことが大好きでいらっしゃるのね。
「私の力がお役に立てれば幸いです。早速試してみてもよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわね。」
私はブリギッテさまの前で、絵を左から右に撫でた。すると魔法陣は発動し、眩い光に包まれる。それがブリギッテさまの全身を包みこんで、ブリギッテさまは不思議そうにそれを眺めていた。
「さあ、これでよくなったと思います。立ってみていただけませんか?ブリギッテさま。」
「なにか変化があったようには感じなかったけれど……。少し怖いわ。」
そう言って、ブリギッテさまは立とうとはしなかった。
「私が手助けしますよ、おばあさま。手を添えますので、立ってみて下さい。」
そう言って、シュテファンさまがブリギッテさまに手を差し出した。
「わかったわ……。そこまでシュテファンが言うのであれば……。」
恐る恐る立ち上がるブリギッテさま。
「──!!痛くないわ!足も腰も、どこも痛くないの!なんてことかしら!」
「良かったです。これからはもとの通りの生活が可能になると思いますわ。」
私がそうニッコリと微笑むと、
「聖女さま……。」
ブリギッテさまは感動したように、両手を口元で揃えて私をウルウルと見つめてくる。
「聖女さまだなんて大げさですわ。私は私の出来ることをしたまでですもの。」
謙遜する私に、
「シュテファン。あなた、この女性と結婚なさいな。」
と突然言い出した。
「おばあさま?何をいきなり……。」
シュテファンさまも驚いている。
「わたくしはあのコゼット・バーリルとかいう女が気に入らなかったのです。息子たちがなんだかんだ言っているようですが、我が家の当主はまだわたくし。シュテファンとあの女を結婚させて、シュテファンを婿に出すと言うのなら、当主は息子に譲らず、シュテファンに譲ります。そしてこの方を妻に迎えなさい。これは当主命令ですよ!」
「おばあさま、彼女はまだ人の妻ですよ。」
「まだ?まだということは、離婚の意思がおありということかしら?フィリーネさん。」
「はい、確かに私は離婚に向けて動いておりますが……。」
突然の申し出に困惑しかない。
「でしたらなんの問題もないでしょう。聖女の肩書の前に、離婚歴なんて些細なことよ。王族に目をつけられる前に、はやく周囲を固めることね。……これでも祖母ですもの。孫の気持ちはわかっていてよ、シュテファン。」
「おばあさま……。」
そう言われて赤面するシュテファンさま。
「わがフィッツェンハーゲン侯爵家は、いつでもあなたを受け入れる準備があるということだけは、覚えておいてちょうだいね。」
そう言ったブリギッテさまは、先程までの弱々しげな態度はどこへやら。現当主としての威厳を保った堂々とした姿で、そうキッパリと宣言したのだった。
村長さんの治療の約束をしていたこともあったので、それをシュテファンさまがブリギッテさまに伝えて、その日はそのまま失礼させていただくことになったのだけれど、まさか離婚もする前から、ご家族から嫁に来いだなんて言われるとは思わなかったわね……。歓迎して下さるのは有り難いけれど。
帰りの馬車の中で、アルベルトは終始不機嫌そうだった。
「……お嫁に行くつもりなの?」
アルベルトがぼそっと言う。
「え?まだ考えていないわ。まだ離婚もしていないし、誰かとどうこうなるなんて、考えられる立場じゃないもの。」
「そう、良かった。」
少しだけ機嫌がなおったみたいね。その足で村長さんの家に行き、アルベルトが来たことで、村長さんは私たちを出迎えてくれた。
「ご挨拶が遅くなり、大変申し訳ありませんでした。新しくこの村に住まわせていただいております、フィリーネと申します。」
貴族の名前はあえて伏せることにした。貴族が住むなんて、面倒しかないものね。知っている人だけ知っていればいいわ。
「ああ、うん。すまんね、こんな体勢で。」
村長さんはベッドから起き上がった体勢で挨拶をしてくれた。
「村長さんのことを治す為に、今日は来たんだ。彼女が治してくれるよ。他の人のことも治したんだ。だから安心して任せて。」
「……これを治す……?だが、高額な治療費を支払って、教会にでも見てもらわないと、わしの内臓は完治しないと言われたよ。」
期待していないのか、そう言って目線を落とす村長さん。
「まずは試させて下さい。」
私はそう言って、絵を右から左に撫でた。
パアアアッと光を放ち、村長さんの体を包みこんだ。
「……痛く……ない?」
ブリギッテさまの時と違って、常時痛みがあったからなのか、村長さんはすぐに変化に気がついたようだった。
そしてベッドから起き上がると、ピョンピョンとその場で地面から飛び跳ねた!
「治ってる!治ってるぞ!あんたはすごい!聖女さまなのか!?」
「いえ、私はただの魔法絵師でして……。」
「本当にありがとう!もう2度ともとの生活は出来ないと思っていたんだ!」
村長さんは私の手を両手でグッと握った。
「村長さん、彼女はまだ村人たちに紹介を受けていないんだ。村長さんの役目だろ?だから全員に挨拶が出来なかったんだ。」
アルベルトが本来の目的を伝えてくれる。
「おお、そうかそうか、それはすまんかったなあ。さっそく村人たちを集めて、新しい村人たちを集めて宴会をひらこう!」
「いえ、そこまでしていただくわけには参りませんわ。挨拶だけ出来ればそれで……。」
「わしの体を治してくれた功労者だぞ?それを知らせれば、一気に村人たちも受け入れることだろう!本当なら、教会に大金を払わなくちゃならなかったんだ。これくらいのことはさせてくれ!」
「わ、わかりました……。」
村長さんの勢いにおされてそう答える。
村長さんの奥さまが、その日のうちに村人たちに通達を出して、さっそく私の歓迎会が開かれることとなった。
会場は村で1番大きな村長さんの家だ。初めて会う村人たちも、見かけて気になってはいたんだよ、と話しかけてくれた。
村長さんが怪我を直したことを大々的に吹聴して回るものだから、皆の尊敬と畏怖が混じったような視線が落ち着かなかった。
歓迎会にはレオンハルトさまもいらしていて、遠くの方からグラスを掲げて挨拶してくれた。村人たちに囲まれている私に近寄るのが、申し訳ないということだろうか。
歓迎会は遅くまで続いて、次の日には私を知らない村人は誰もいなくなっていた。すれ違うたびにみんなが挨拶してくれる。この村に来られて本当に良かったと思った。
──その頃、私の知らないところで、フィッツェンハーゲン侯爵邸では、ブリギッテさまの体調が突然良くなったことに、侍女たちが噂話を繰り広げていた。
シュテファン坊っちゃんが連れて来た女性が、ブリギッテさまの体調を一発で直したらしい。それはどうも聖女さまらしい。
シュテファン坊っちゃんは聖女さまに夢中なようだ。ブリギッテさまはシュテファン坊っちゃんと聖女さまとの結婚を後押しするつもりらしい。
フィッツェンハーゲン侯爵家は、聖女さまを娶ったシュテファン坊っちゃんが継ぐことになるらしい。コゼット・バーリル伯爵令嬢のことはどうするのか?
その話はフィッツェンハーゲン侯爵家の侍女と親しくしている侍女の口から、コゼット・バーリル伯爵令嬢の耳にまで、あっと言う間に届いたのだった。
私がその話を、王宮に出入りしていたシュテファンさまを通じて知った頃には、既にこの国には聖女がいるらしい、というまことしやかな噂とともに、貴族どころか王族の間でまで知られた後だった。
それを知ったコゼット・バーリル伯爵令嬢に、義母の手の者が近付いていたことも、やがて最悪の形で知ることになるのだった。
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