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第120話 適材適所の猛獣使い

「はい。おじさん脳内会議開始」


 普段は宿で生活しているリグマだが、このときばかりは自室にこもる。

 知らない人が見れば驚く光景であり、これを知っているのは魔王と四天王のみ。

 要するに、いちいち驚かれたり説明するのが億劫なのだ。


「会議って、議題はなんなのさ?」


「主にディキティスのことだな」


「あのトカゲ野郎か。何かしでかしたってのか?」


「まあ、蘇生当初よりは問題は減っている」


「その問題ってなんだよ……あまり、面倒なことになってたら手に負えないぞ」


 リグマは次々と姿を変えては発言し、その一人芝居のようなやり取りで、彼らはたしかに意思の疎通をとっていた。


「レイくんのことは話したな」


「魔王様の側近に任命されたという男だったか」


「そう、そのレイくんがどうにもディキティスと折り合いがつかないようなんだよ」


「ほうっておきなよ。レイだって子どもじゃないんだから、僕たちが世話を焼いてもおせっかいでしょ」


「そっちは、さすがに俺も介入する気はねえさ。なんやかんやでディキティスのやつも、レイくんを嫌ってはいなさそうとわかったしな」


「なら、なんの問題があるんだよ」


「わりと仲良くやってそうなんだが、ちょっと暴走気味だったみたいでな。ダンジョンの侵入者殺害率が9割を超えた」


「っは、まじかよ! 面白えじゃねえか! レイもトカゲも!」


「笑いごとじゃねえの。それじゃあだめなんだよウルラガ」


 困るリグマをよそに、ウルラガと呼ばれた人格は面白そうだと笑う。

 これだから、自分の人格たちはろくなやつがいない。

 だが、今後ダンジョンが増えていくのなら、カーマルのように役割を分担する必要もある。

 こんなやつらだが、さすがに魔王様のためとなれば働くだろうと、リグマは思い直した。


「こ、怖っ……レイのやつ、そんなことしてるのかよ。魔族らしくないやつだと思っていたのに……」


「レイくんは無自覚に敵を追い詰めるぞ。お前も気をつけることだアナンタ」


「お、脅かすなよ……」


 こっちは腰が引けている。

 いっそのこと、ウルラガと混ぜて半分にできないものかとさえ思い始めた。

 だが、そんなことができるのならとうの昔にやっている。

 そして、できたとしてもこいつらの人格は死んで、すべてを自動的に行う便利な分体が2体死ぬだけだ。


 しかし、仮にも四天王である自分の人格のくせに、相変わらず臆病なものだ……。

 いや、だからこそ使い道があるのではないだろうか。


    ◇


「ということで、こいつはアナンタだ。前言ってたビビりの」


 リグマに知らない男を紹介されたと思ったら、どうやらカーマルのような副人格の1人のようだ。

 目が細い長身の男は、居心地悪そうに挙動不審な様子で俺たちの話を聞いている。


「はじめましてだな。よろしくアナンタ」


「あ、ああ……それじゃあ、俺はこれで」


「待て待て、このビビり。レイから逃げるな」


 え、もしかして、俺にすら怯えるってことか?

 それはもはや臆病とかではなく、ただの人見知りなのでは……。


「レイとディキティスとイピレティスだと、侵入者皆殺しダンジョンを作りそうだからな」


「そ、それは反省しているって」


 ちゃんと、プリミラのお説教は俺たちに響いているとも。

 あの子に、不本意なお小言をさせるわけにはいかないからな。


「まあ、それでもとんでもないダンジョンを作るのがレイくんだし、ディキティスとイピレティスはいまいちあてにならない。優秀なんだが、ことこの点においては話は別だ」


「ディキティスは全力で挑むタイプだし、イピレティスはあれで案外好戦的だからな」


「そこで、このビビりが役に立つかもしれないと思ってな」


 どういうことだ? もしかして、ダンジョンの作り方について詳しいのだろうか。

 なんにせよ、リグマが推薦するというのであれば、アナンタと一緒にダンジョンの調整をしてみるか。


    ◇


「ゴブリンたちは、思いの外できることが多い。同じ部屋に罠を仕掛けることで、あいつらが状況に応じて自発的に罠を利用できるかもしれん」


「なるほど……たしかに、あいつら頭がいいからできそうだな。よし、まずは転がる岩を」


「いや、待ってくれよ……。なんで、いつのまにか今以上に効率的に敵を倒す話になっているんだよ……」


 ……あ、ほんとだ。

 なるほどな~……そっか~、これか~。

 いつもこうやって、ダンジョンの難易度を上げてしまっていたのか。


「それはいずれにするか」


「仕方あるまい……」


 せっかくアナンタが指摘してくれて気づいたので、ここで一旦軌道を修正することにした。

 ディキティスも渋々と納得してくれているあたり、わりと俺と同じくらいずれている魔族な気がしてきた。


「一応、ぶっつけ本番じゃないように、侵入者が来ない場所で練習だけでもさせるか」


「ならば私が見ておこう」


「完全にやめるわけじゃねえんだ……こいつら怖えよ……」


 そうは言うが、俺は地底魔界だけは全力をもって侵入者を倒すつもりだぞ。

 なので、こうして思いついた案が使い物になるかどうかは、常に試しておくべきだし、いざという時のために訓練しておくべきだろう。


「迷路を定期的にといわず、一定時間ごとに作り替えるのは?」


「作成途中で壁に挟まれるものが現れないだろうか?」


「それはそれで、身動き取れなくなって毒にかかるからいいんじゃないか?」


「たしかにそうだな。では、魔力の問題のほうだが……」


「いや、ほんと待って……。死んじゃうだろ。迷路で遭難して毒で死んじゃうだろ……」


 ……本当だ。でも言い訳させてくれ。

 俺の力はダンジョンを作ることだ。だけど、何も考えずにただ適当に作っても簡単に攻略されてしまう。

 色々と考えて組み合わせることで、ダンジョンはもっとすごいものにできるんだ。

 それがついつい楽しくなってしまい、いつもやりすぎてしまっているだけなんだ。


「手を抜きたくない。最も効果のあるダンジョンを作りたい。それはわかるんだけどさあ……人類をうまく利用するんだろ?」


「そうだな……。そこを忘れちゃだめだよな」


「まあ、俺が怖いと思うダンジョンになりそうだったら、そのたびに口を挟ませてもらうよ……」


 アナンタ……頼りになるじゃないか。

 リグマがビビりと言っていたが、そのおかげでうちのダンジョンが危険かどうかの判断がとても速い。

 それが俺とディキティスのダンジョン作りに足りなかった部分なので、おかげでなんとか形になりそうだ。


「え~……アナンタさ~ん。もっと殺戮の限りを尽くしませんか~?」


 今まで口を挟んでたのがこれだからなあ……。

 知らず知らずのうちに、最高効率を目指す俺とディキティス、物騒な考えのイピレティスで、凶悪なダンジョン作りをしていたらしい。


    ◇


「レイ様……こんなにも成長なされて……」


 プリミラは、俺のお母さんかなにかなの?

 四人で改良したダンジョンを見て、感動に打ち震える幼女にどう反応すればいいのかわからない。


「疲れた……まじで疲れた……」


「おう、役立ったみたいだな。アナンタ」


「聞いてないぞお……ここまで、毎回指摘しないといけないなんて」


「すげえだろ。レイくん」


「思うに、レイだけじゃなくて、ディキティスとイピレティスがセットなのが、いけないと思う……」


「でも、モンスターの指示はディキティスだし、イピレティスは側近だからね。誰かがついてやって、見ないといけないんだよ」


「俺かあ……」


「レイが慣れてきたら、こっちも手伝ってもらうけどね」


「あ、俺のほうも頼む」


「俺の負荷高すぎだろぉ……」


 すごいな。

 あれ全部リグマだけど、三人は普通に会話している。

 そして、アナンタはリグマとカーマルに仕事を押しつけられそうになっているようだ。

 リグマのやつ、自分で自分の仕事増やしてないか……?


 いつか、チンピラや無気力と呼ばれていた人格とも会うことになるんだろうか。

 そのときは、リグマ一人でなんでもやってしまいそうだな。

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