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第114話 封印の超戦士、あるいは悪魔

「さあ、なぜか四天王は全員揃っていることですし、私の雄姿を見せるときです」


「魔王様。お気を落とさずに」


「なんで、プリミラはすでに慰めの言葉をかけているんですか!」


 そりゃあ、今までの積み重ねだろうな……。

 他の四天王たちも、あのリピアネムでさえ、これから起きる失敗を予期しているようだ。


「たしかに、確率アップチャンスは挑戦できませんが、私はこれまでにそこそこの蘇生薬を引き当ててきました。これが、その証拠です!」


 フィオナ様は、不屈の精神で宝箱に魔力を注いだ。

 さすがは魔王様だ。何度やられても諦めずに戦っている。


「むむむむむむ……」


「腕輪ですね」


 どうやら、またなにかの装備アイテムを引き当てたようだ。

 蘇生薬ではないが、ハズレだと断言していないので、もしかしたらそれなりに用途があるアイテムなのかもしれない。


「これは、そうですね……リピアネムに授けましょう」


「ありがとうございます」


 うん。こうして部下に装備を下賜する魔王様という姿だと二人ともさまになる。

 普段の若干ぽんこつな感じが嘘のようだ。


「ところで、その腕輪はどういうものなんですか?」


 装飾が凝った腕輪ではあるが、この世界の場合それで終わりということもないだろう。

 俺のこの指輪のように、なんらかの付与効果があると見るのが妥当だ。


魂喰たまぐらいの腕輪と言って、装備した者の力を奪います」


「呪いの装備じゃないですか!」


 あれだろ。一度装備すると解呪するまで外せないうえ、なんらかのデメリットがある装備品だ。

 自分の部下の、それも最強の戦力になんてもの渡しているんだ。この魔族は。


「リピアネム。それつけたらだめだぞ」


 てっきり装備しろと渡したのかと思ったが、その内容を聞く限りでは装備してはいけない代物だった。

 きっと、見た目がいいから、インテリアにでもしろってことだったんだ。


「もうつけたぞ」


「ああ……」


 手遅れか。こうなったら、解呪ができないか試みるか……。

 たしか、世良せらが聖女だったはずだし、なんとかなりそうか?

 それか、装備品というのなら、カールならなにか知っているかもしれない。


「落ち着いてください、レイ。私もなにも考えなしに、リピアネムに魂喰らいの腕輪を授けたのではありません」


「む……体がいつもより重い。鍛錬にはなりそうだ」


 リピアネム 魔力:73 筋力:99 技術:80 頑強:70 敏捷:99


 たしかに、リピアネムのステータスは全体的に大きく減少している。

 それでも、四天王を除いた魔王軍では十分強いのは、やはりすごいことではあるが。


「その腕輪は装備した者の力を奪い続け、腕輪自身に溜め込みます。なので、それをつけている限りはリピアネムは、いつもより力を抑え込めているはずなのです」


「あ~……なるほど。力の制御ができなくても、あの腕輪のおかげで強制的に出力が落ちていると」


 急に部下に呪いの装備を装着させたのかと焦ったが、冷静になって考えればリピアネムにぴったりの装備といえる。

 力が落ちている状態でも、これだけの強さなので勇者以外はどうとでもなるだろう。

 それよりも、彼女が散々苦労してきた日常生活での問題が、これでようやく解決するであろうことのほうが重要だ。


「呪いの装備ではないんですよね?」


「当然です。そんな変な物を渡すわけないじゃないですか」


 それもそうだ。

 フィオナ様が、自分の部下についてやたらと甘いのは、よく知っているじゃないか。

 そんなフィオナ様が、リピアネムに呪いの装備なんて渡すはずはなかった。


「ほれ、リピアネム」


「ああ、すまない。リグマ」


 さっそく力を試させようと、リグマがリピアネムに鉄球を渡した。

 ……あれ、自分の身体じゃないか? さすがはスライム。雑に身体を引きちぎるとは。


「ふん!」


 リグマの身体の一部を握りつぶそうとするも、その鉄球は変形するだけに留まった。

 いつものリピアネムであれば、粉々に破壊していたというのに、これはすごい進歩だな。


「……大丈夫そうだな。これならうちの宿で働いても、少なくとも備品を破壊するってことはないだろ」


「本当か! よし! 私にすべて任せるがいい!」


「待て待て待て。どこで何をさせるかは、もう少し考えさせろっての」


 いくら力が抑えられたとはいえ、本人が暴走機関車みたいなところは変わらないな。

 しかし嬉しそうだ。きっとこれなら、今まで門前払いされていた各職場で手伝いもできるだろうし、喜ぶのも当然か。


「リピアネムの好きに働くといいですよ。私の分まで」


「魔王様……」


「待ってください。感動しているところすみませんが、魔王様に仕事を押しつけられています」


「問題ない! 今の私なら、どんな仕事でも手伝えるからな!」


「魔王様を甘やかしすぎないでください……」


「レイ。私がぞんざいに扱われそうです。慰めたり甘やかしたりしてください」


 俺に振らないでください……。

 プリミラも不満そうな顔で俺を見ないでくれ。さすがに今のは、ほんのわずかとはいえ表情の変化がわかったぞ。


「まあ、色々な場所に行って、相性がいい仕事を見つけるのが一番なんじゃないかな」


「そうするとしよう。いくぞリグマ。ついてこい!」


「ええ……おじさん休憩中」


「おいていくぞ!」


「ああ、もう! 従業員たちへの説明も必要だから、俺がいないとだめでしょうが!」


 やっぱり、こういうときの被害ってリグマなんだなあ……。

 性根が働き者だし、しかたないといえばしかたないか。


    ◇


「……いや。これは違うぞ」


「うん。わかってる。というか忘れてた」


 リグマがダートルと名乗って経営している宿館。

 仕事の一つとして、利用客が去った後の部屋の掃除がある。

 次の客のために、部屋を新品のように準備するのが、従業員たちの役割なのだ。


「一応、もう一回やってみろ」


「うむ。こうだな」


 リピアネムが部屋を掃除すると、部屋の調度品が倒れる。落ちる。

 ベッドメイキングを済ませたはずなのに、使用後のベッドよりもくしゃくしゃになっている。


「なぜだ?」


「お前さんが不器用なこと忘れてたわ……」


 おい、技術80。お前が不器用だというのなら、世のすべてが不器用になりかねんぞ。

 とはいえ、俺も忘れていた。リピアネムの技術の高さは、剣技特化なんじゃないかと仮説を立てていたっけ。

 その技術も、力の制御といっしょに値が減少している。

 ……もしかして、力を制御できる代償として、以前よりも不器用になったんじゃないか?


    ◇


「この草を抜けばいいのだな?」


「はい、根元から収穫してください」


「ちぎれた」


「…………畑に大穴が空いていないので、以前よりは進歩しています」


 不器用というか、やっぱり力の制御がうまくいっていない?

 いや、たまにうまくいっているものもあるので、やっぱり不器用なのか?

 でも、成功があるってことは、プリミラがフォローしたように以前よりもずっと成長している。


    ◇


「それじゃあ、これを全部千切りにしてくれる?」


「任せろ!」


「……」


「……」


 マギレマさんに頼まれ、一心不乱にキャベツを千切りするリピアネム。

 飛んでる。飛び散ってるぞ。切ったキャベツが床に落ちて、マギレマさんの犬たちがそれを食べてるぞ。


「ネムちゃん。敵をみじん切りにする感じでやってみようか」


「ふむ……こうか?」


「そうそう、上手上手」


 いいのかそれで……。いや、今まではまな板とかキッチンごと斬りそうだったから、これも成長だ。

 そして、やっぱり刃物を扱う系の作業が一番相性が良さそうだな。

 先ほどと違い、敵を屠る勢いでキャベツを斬り続けるリピアネムを見て、どうにか彼女の職場が決まったと安心した。


 あのままだと、ドジっ子リピアネムとかいう、新たな属性が生まれそうだったからな……。


    ◆


 魂喰らいの腕輪


 常に力を貪り続ける無尽の腕輪。

 装着者の力を静かに吸い取り続けるが、それに耐え忍ぶ者のみがより多くの経験を得る。


 力は内部に蓄積され続け、腕輪の封印を解いたときに蓄積した力に応じて装着者を強化すると言われている。

 しかし、あまりにも膨大な力の蓄積が必要であり、また腕輪を身につけながら戦うことは困難でもある。

 そのため、腕輪の封印を解くに至った者は、これまでにわずかな数しか存在しない。

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