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第104話 最初から炎なので燃やし尽くせません

「さあ、次はレイの番です! 私に蘇生薬を献上するのです!」


 うちの魔王様が暴君だった。

 なんという無茶な要求をしてくるんだ。この魔族は。


「期待しないでくださいってば……」


 そう前置きをして、さっさと宝箱を開けてしまう。

 すると、そこには見覚えのある虹色の液体が入った瓶が……。

 え、本当に?


「ほら見なさい! 私のレイはすごいんですからね!」


 あなたのレイはそんなにすごくないので、そこまで期待されても困ります。

 だけど、どうやら俺も蘇生薬を引き当てることができたようだ。


「一個手に入ったので、あとははずれたとしても気が楽ですね」


「いえいえ、レイなら大量の蘇生薬を引けるはずです」


 フィオナ様の中の俺はどういう存在なんだ……。

 青天井で上がっていく俺の期待に、応えられる自信がなくなってくる。

 まあいいや。最低でも一個確保できたのなら上出来だろう。


「次は……」


「ええ!?」


 フィオナ様が驚くのも無理はない。

 次の宝箱に入っていたのも蘇生薬だったのだから。

 え……? なんだ。なんかバグったか?

 あるいは、蘇生薬の類似品のようなアイテムでもあるんだろうか。


「これ、ほんものですかね?」


「間違いありません。これで、最低でも二人は蘇生できます!」


 フィオナ様のお墨付きならば、これが蘇生薬もどきのようなアイテムでないのはたしかだろう。

 連続で蘇生薬を引き当てたか……。大丈夫かな? なんかここで生涯の運を使い果たしてないか?

 宝箱はあと二つ。とりあえず、残りも開けてみよう。


「……」


「……」


「あの、なんかやばいことになってる気がします」


「い、いえ、いいことじゃないですか! これはそう。今までの揺り戻しなんです! 私が散々はずれた分、今連続であたりがきているんですよ!」


 蘇生薬三本目。

 ここまでくるとさすがに怖くなってくる。


「フィオナ様のはずれの揺り戻しが俺にくるって、なんか変な気もしますけど……」


「平気です。レイは私のですし、生涯ともに歩んでいくので一心同体ですから」


 一生雇用してくれるのはありがたいけど、雇用主の運を奪っている気がして心苦しい。

 自分のガシャ結果ははずれているのに、俺があたって喜んでくれるのは器が大きいな。


「さあ、このまま四連続蘇生薬を引き当てましょう」


「いや、さすがに……無理ですね」


 宝箱を開けると、そこには大量の食材が入っていた。

 相変わらず体積以上のものが入っているが、ともあれようやくほっとすることができた。

 このまま四つとも蘇生薬だったら、宝箱が完全にバグったと思っていただろう。

 はずれを確認することで、ようやく正常だったと判断できた気がする。


「あ~……いえ、でも三つも蘇生薬が手に入るなんて、さすがはレイです。頭をなでてあげましょう」


「ありがとうございます……」


 なでるというが、その前に思い切り抱きついてる件はもうなにも言わないんですか……。

 顔近いです。耳に息がかかる距離って、相変わらず無防備だな! この魔族は!

 絶対に俺のことを異性どころか、同種としてすら認識してないだろ!

 それでも仕えますけどね! 捨てられるまでは!


「い、嫌でしたか? なんか、険しい表情をしているような……」


「いえ、煩悩と戦っていただけなので気にしないでください」


「そうですか?」


「ええ、フィオナ様は残念なくせに綺麗でかわいいので気をつけてください」


「そ、そうですか! そんなに私が好きですか! ……残念? あれ?」


 よし、なんかいつもの残念なフィオナ様要素が大きくなった。

 油断したな魔王め。この状態なら煩悩なんて浮かびようがないぞ。

 そうして俺は、ただのかわいい生き物になったフィオナ様に、無心でなでられ続けるのだった。


    ◇


「ふう……有意義な時間でした」


 ペットとの触れあい的なあれだな。


「それでは、さっそく蘇生薬を使用しましょう」


「もういいのですか? 入室しても、レイ殿をなで続けていたので、その行為が大切なことだと思っていたのですか」


「わ、忘れなさい!」


「承知いたしました」


 リピアネムの指摘にフィオナ様の顔が真っ赤になった。

 さすがに魔王様としては、ペットとの触れあいの様子を部下に見られるのは恥ずかしいのだろう。


「リピアネム……お前すごいな」


「なにがだ? まあ、よくわからんが、褒められて悪い気はしないぞ!」


「もうそれでいいや……」


 ずけずけとフィオナ様に物言うリピアネムに呆れたようだが、あまりにもなにもわかっていないようなので、リグマは指摘することを放棄してしまった。


「それにしても、蘇生薬が三つも? 魔王様ずいぶん運がいいんですねえ」


「いえ、私が引き当てたのはこっちです。そして、これはあなたにあげましょう。ピルカヤ」


「え、うわあ……まじっすか? これもらっちゃっていいんですか?」


 極光の炎とか言ったっけ。

 不思議な色に輝く炎が手渡され、ピルカヤは恐る恐るといった様子で炎を取り扱っていた。


「あなたが一番上手に使えますからね。これで、パワーアップできるはずです!」


「はい。次は勇者なんかに負けません」


 真剣な表情で、フィオナ様に報いるべく働こうというのだろう。

 きっと、ピルカヤにとって今回与えられたアイテムはそれほどのものだったということだ。

 ……ただでさえ社畜根性がありそうなので、働きすぎないかだけ心配だな。

 今後それとなく様子を見ておこう。


「それじゃあ、失礼して……いただきます」


「え、飲むの?」


 ピルカヤは、口を開けて不思議な色の炎を飲み込んでしまった。

 あれ、装備アイテムとかじゃないんだ。


「うわあ! だ、大丈夫なのか!? ピルカヤ!」


 飲み込んで少しすると、ピルカヤの炎が力強く大きく燃え盛っていく。

 思わず心配するも、周囲もピルカヤ自身も特に慌てた様子はない。

 そうか……ピルカヤなら、このくらいの炎簡単に制御できるってわかっているわけか。


「レイは私の後ろに隠れておきましょうね」


「え」


 フィオナ様が俺を炎から守るように前に立つ。

 あの、普通逆……。いや、ステータス的に正しいのはわかるんだけどね。


「極光の炎を支配しきるまでは、こちらにも炎が飛んでくるかもしれませんから」


「あ、やっぱりそういう感じなんですね……でも、みんな慌てている様子はないみたいですけど」


 制御不能な炎が飛んでくるのなら、さすがに四天王たちも危険じゃないか?


「お姉さんコックさんだから、火は平気~」


「おじさんスライムだから、火は効きにくい」


「水属性なので、火は得意です」


「ドラゴンだから、火は効かん」


 なるほど、マギレマさんだけはなんか違うけど納得した。

 得意な属性だから動じていなかったってだけか。


 納得したと同時に、フィオナ様のほうに青い炎が飛んできた。

 しかし、フィオナ様に届く前にそれはかき消されてしまう。

 周りの誰かがなにかした様子もないので、フィオナ様の圧倒的な魔力が炎を消したとかなんだろうなあ……。


 その後も、時折炎が飛んでくるが皆冷静に対処していき、誰一人として傷つくことはなかった。


「よし、終わった~。あ、すみません。炎そっちに飛んでました?」


「かまいません。制御できたようでなによりです」


 ピルカヤの体はほんのわずかに色が濃くなった気がする。

 そして、あの極光の炎を取り込んだためか、炎がわずかに青や緑に輝くよう変化したようだ。


「これいいですね~。常に燃えてるから、永続パワーアップって感じで最高ですよ」


「ふふ、喜んでもらえたようでなによりです」


 ピルカヤ 魔力:135 筋力:99 技術:85 頑強:99 敏捷:85


 ピルカヤのパワーアップはどうやら問題なく成功したらしいな。

 魔力がずいぶんと上がっている。……うらやましい、俺もなんか魔力上昇アイテムとかないかなあ。


「今度こそ、鑑定より遠くから感知してやります」


「ええ、頼りにしていますよピルカヤ」


 国松とジノ。二人の協力で強化された鑑定は危険だが、今のピルカヤならそれもかいくぐれそうだ。

 フィオナ様。蘇生薬こそ引けなかったものの、今回はだいぶあたりよりのアイテムを引いたんじゃないか?


    ◆


 極光の炎


 不規則に色を変化させる神秘の炎。

 使用者に炎の力をもたらすとともに、永続的に延焼ダメージを与える。


 鮮烈な色彩とともに与えられた炎の加護は、触れた者がその身を燃やし尽くすまで効果を発揮すると言われている。

 古の時代では炎の神に捧げられる生贄に与えられ、命が燃え尽きるそのときまで焦熱の舞を踊り続けた。

 炎は加護か、あるいは呪縛か、大いなる力の前にその差は些事である。

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