「なるほど……ありがとう。助かった」
ピルカヤが戦う前というか、死を偽装する前に彼女たちはしっかりと役割を果たしてくれていたようだ。
「フィオナ様の倒し方か……」
「ガシャで爆死するとかですかね?」
「いつものことじゃないですか」
「なんてこと言うんですか!」
そもそも自分のことなのに、なんでこんな余裕なんだよ。この魔族は……。
「魔王様を倒す条件とやらは残念ながら聞き出せませんでしたが、今は達成できないことと、そのための力を持った転生者を探していることはわかりました」
「それも難航しているみたいだったな。クニマツとジノが組んで索敵範囲が広がったことは厄介だが、戦う力はまだないってわけだ」
「索敵範囲の拡張が厄介なんだよなあ。ピルカヤでさえ見つかるのは、今後こちらの情報収集に支障をきたしそうだ……」
それも、仲間が増えれば増えるほどに厄介になる。
「私が倒しに行くか?」
「いや、近くに勇者たちがいるというのなら、リピアネムも簡単に勝てるわけじゃなさそうだ」
「むう……耳が痛いな。たしかに、リックたちは私を打ち倒すほどの力を持っていた」
下手な手出しはできないか。
四天王でさえ負ける可能性があるとなると、あとはもうフィオナ様に戦ってもらうしかないわけだからな。
だけど、国松たちが言っていたフィオナ様を倒す条件とやらが怖い。
もしも、何度も戦って勇者たちを鍛えるとかが条件なら、こちらもやはり下手な手出しはするべきではない。
「……どうしたもんかな」
「あまり気にする必要もないんじゃないかな? 直接戦ったからわかるけど、勇者たちはまだまだ万全じゃない。転生者たちも仲間集めに難航している。今までと一緒だよ。今はこっちも準備期間と考えていいと思う」
ピルカヤがそんな意見を提案してくれた。
なるほど……直接戦ったピルカヤがそう言うのなら、ここで話を聞いただけの俺よりもたしかな情報なのだろう。
下手に手出しができずに困っていたわけだし、ピルカヤの言うとおりこちらの体勢を整えるのに注力するのもいいかもしれない。
まずは魔王軍の蘇生。
そして、ダンジョンを新たに作成して、あわよくば国松かジノをそこで仕留めるか捕獲する。
その方針を変える必要はなさそうだ。
となると、元々の予定であった食材調達のほうがどうなったか。
「買い物はやり直しかな」
「いや、トキトウとオクイ以外で、こそこそ買い出しは終わらせた。レイが心配していた金銭面だが問題なさそうだぞ?」
「そうか、勇者たちに遭遇したのに悪いな。資金も足りていると」
「というか、ロペスが獣人たちに回復薬を売りつけてくれた金もあるしな。うちけっこう金持ちだぜ?」
なるほど、それなら案外売上の経験値変換はそのままでもよかったかもしれないな。
どの道、様子を見ながら戻すつもりだったし、折を見て少しずつ経験値とさせてもらおう。
◇
「なんだか、結局今までどおりって感じで終わっちゃいましたね」
「いいじゃないですか。私は今の生活を気に入っていますよ?」
フィオナ様にとっては、勇者も転生者も脅威じゃないんだろうなあ。
たしかに、あのとんでもないステータスのフィオナ様が倒されるなんて、にわかには信じがたい。
「それでも、レイが困っているのなら、私がなんとかしてあげましょう」
そう言ってフィオナ様が胸を叩く。
たしかに、フィオナ様ならなんとかできそうだけど、ゲーム知識というこちらにない武器を持っている以上、相手を侮るのもよくはない。
「それは最後の手段にして、今はがんばって蘇生薬を作りますか」
「ついにレイが全面的に私のものに!」
「というか、出会ったときからずっとフィオナ様のものですけどね」
「……」
返事がない。もしかして図々しかったか?
「そ、そうですねえ! レイは未来永劫私のものですから、誰にもついていっちゃいけませんよ!」
「わかってますよ」
なのでそんなにテンパった様子ではなく、もう少し落ち着いてください。
最近気づいたけど、フィオナ様ってけっこう独占欲高いっぽいな。
便利なダンジョン改装スキル持ちの俺を、他の勢力に取られたくない様子が伝わってくる。
「……首輪とかいります?」
「フィオナ様がつけたいならつけますけど……」
「い、いえ! 忘れてください!」
道具兼ペットだな。完全に。
道具はともかく、我ながらかわいくないペットだと思う。
「さ、さあ! 今日もじゃんじゃん蘇生薬を引きましょう!」
引くとは言っているが、当てられるとは言っていない。
まあ、そこは指摘するのも野暮ってもんだ。
「ところで、レイはどのくらい魔力を使えるんですか?」
「ちょっと待ってくださいね。えっと……」
まあ、レベルはこんなものだろう。
魔力が68か。もしかして、ドワーフダンジョンが壊されたときに70に到達していたら、ダンジョンの崩壊に抗えたのかな?
ダンジョン魔力:48467
本命はこっちだ。
ほんとにもう、マギレマさんには頭が上がらない。
「魔王様~。レイく~ん。夕飯なにがいい?」
「本当にありがとうございます」
タイミングよく夕飯のリクエストを聞きにきたので、思わず深々と頭を下げてしまった。
「え!? ど、どうしたのレイくん?」
「……マギレマばっかりずるいです! 私のレイですけど!? 取らないでくれますか!?」
「と、取ってないです……」
フィオナ様もわりかし本気らしく、抱きしめる力が強い。
……苦しさと気持ちよさが半々くらいだ。
「私のレイなのに、マギレマのほうが慕われてる気がします!」
「いや、俺はフィオナ様を一番慕ってます」
「……なら、もっと私を見なさい!」
ええ……。というか、俺もしかしてそんなにマギレマさんをじろじろ見ていたか?
いくら魔王軍の仲間でも失礼だな。次から気をつけよう。
「な、なんか忙しそうなんで出直しますね~」
あ、行ってしまった。
「私を見なさい」
視線でマギレマさんを追うと、フィオナ様はそれすらも気に入らなかったらしい。
両手で頬を抑えられて、顔の向きを変えられると、そこにはフィオナ様の顔があった。
「と、とりあえず、宝箱に魔力注入します?」
「そうですね」
怖い……。こんな至近距離でまじまじと見つめられると、さすがに怖いな。
いつものポンコツなフィオナ様に早く戻ってほしい。
「ふう……いいでしょう。ところで、なんでマギレマを崇拝していたのですか?」
「ええと、ダンジョン魔力がすごい量になっているのを確認していたときに入ってきたため、思わず……」
「ほほう、ちなみにどれほどでしょうか?」
4万8000です。
「……私もマギレマに頭を下げてきた方がいいでしょうか?」
「やめてください」
あなた魔王様なので、部下を崇拝しないでください。
「5回も回せますね。それでは、今日こそ蘇生薬を引き当てましょう!」
「あ、4回にしようと思います」
「え~……回す数の多さこそ正義ですよ? 私が言うのですから間違いありません」
なんて説得力のある言葉なんだ……。
でも、さすがに9000×5の消費は避けておこうと思う。
端数部分の8000を残すことを考えて、どうせだからキリの良い1万で回そうかななんて思いついてしまったのだ。
「せっかくなので、1回1万で回しつつ、8000は予備としてとっておこうかなと」
「なるほど、高額ガシャですね。であれば、いい結果が得られるかもしれません」
フィオナ様も納得してくれたようだし、さっそく宝箱に魔力を注入していくか。
「レイ、終わりました~」
「こっちも終わりました。それじゃあ、フィオナ様の宝箱から開けてみますか?」
「ええ、前座はさっさと終わらせてしまいましょう」
それでいいのか魔王様。
魔王様が前座って、俺は大魔王かなにかになったのだろうか。
「それじゃあ……これは?」
初めて見るアイテムだ。
アイテムか? これ。
宝箱の中には虹色……いや、オーロラっぽい色の炎の塊が燃え盛っていた。
「むむ! これは……極光の炎ですね」
「あたりですか?」
「う~ん……蘇生とは全く関係ありません。ありませんが……ピルカヤに与えましょう」
炎だしな。よくわからないけど、きっとピルカヤならうまく扱えるのだろう。
なんだか久しぶりに、暗影の指輪以来にフィオナ様が納得するアイテムを引けたんじゃないか?
この調子で、ぜひとも俺もいい流れに続きたいものだ。