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第94話 ジェルミの素晴らしき転生者有効活用術

「ジェルミ第二王子か……名前ありのNPCだろうし、手ごわいんだろうな」


 ジェルミ 魔力:50 筋力:46 技術:42 頑強:48 敏捷:41


 なんともいえないステータスだ……。

 国松よりは強い。だけどルフよりは弱い。

 戦闘には関わらないNPCだったのかもしれないな。


 他のステータスは、以前国松くにまつと共にダンジョンに潜った兵士たちよりやや高い。

 きっと王子というくらいだから、専属の兵士のようなものがいるのだろう。

 まあ、今回は仕留めるわけじゃないし、ステータスはそこまで問題ではないな。


 ……いや、待て。

 一人おかしいのがいるぞ。なんだあれ。


 犬井いぬい拓麻たくま 魔力:70 筋力:2 技術:0 頑強:1 敏捷:1


 俺は自分のステータスが極端に魔力寄りだと思っていたが、上には上がいるらしい。

 魔力は俺より上で70もある。しかし、それ以外のステータスはほぼ無いに等しい。

 名前からすると、こいつも元は日本人の転生者なんだろうけど、ジェルミと共に行動しているのはこの極端なステータスと関係するのか?


「カザマたちよりは慎重だねえ」


「というか、クニマツくらい慎重に進んでいるな。女神の力の差で罠を起動している回数は多いけど」


「それでも、最低限の被害ですんでいるので、なかなかやりますね……はっ! もしかして、今度こそ幸運な力!?」


「捕獲しませんよ?」


「わかってますよ~。カザマより運が良さそうに見えませんからね」


 運が良さそうなら、方針を変えて捕獲指示を出していたんだろうか?

 フィオナ様がやれというのなら、別に俺も逆らう気はないけれど、気になるところだ。


「しかし、確実にダメージは与えています。レイ様のダンジョン、そう易々と攻略できるものではありません」


 いや、易々と攻略してもらうのが今回の目的なんだけどなあ。

 プリミラに評価してもらえるのは嬉しいが、まだまだ難易度が高すぎるのかもしれない。

 これは、今回だけでは攻略できないかもしれないな。

 その場合は、罠を減らすか、いくつか停止しておくか、あるいは配置を変えるとか……。


「!! なんだ!?」


 考えにふけりかけた瞬間、地響きのような音に意識を引き戻された。

 ……これに似た音は聞いたことがある。

 ロペスがプリミラの畑に侵入し、鳥たちに追い回されたときにも聞いた音。

 洞窟が崩れたときの音にそっくりなんだ……。


    ◇


「まずいな」


「ジェルミ王子。このダンジョン……罠の数が通常よりも」


「数だけではない。その殺意の一つ一つが、そこらのモンスターどもとは比べ物にならん」


 うちに出現したゴブリンどものダンジョン。

 あそこに出現するボスゴブリンの殺意よりも、この無機質な罠の殺意のほうが恐ろしい。

 いや、これをしかけた者の殺意と言うべきか。


 ……ドワーフどもが言っていたことも、案外偽りではないのかもしれぬな。

 この殺意の塊。ドワーフどもが罠をしかけただけでは、こうはいかない。

 もっと純粋な魔族。それも殺戮を生業としているような存在がしかけたに違いない。

 四天王……いや、これこそが魔王がしかけた他種族を殺すことに特化した罠か。


「魔王が廃棄した場所……存外正しいのかもしれぬ」


「……いかがいたしましょう? もしも本当に魔王が住まう場所なら……」


 近衛が物怖じしたように、今にも撤退を進言しようとする。

 落ち着け。気持ちはわかるが、それは早計だ。


「魔王が関連していることは間違いないだろう。だが、もしも今も魔王が管理しているダンジョンだというのなら、俺たちはとうに全滅しているはずだ」


 罠の殺意は俺でも冷や汗を流すほどだ。

 だが、この罠はあくまでも放置しているだけであり、俺たちを直接狙っているわけではない。

 魔王が今も見張っているのなら、もっと適切なタイミングで罠を起動してもおかしくない。

 もっと悪辣な組み合わせで侵入者を殺しにくるだろう。


「直接狙われているわけではない。注意して進めばどうということはないはずだ」


「はっ!」


 そう、はるか昔に仕掛けられた、誰を対象としたかさえわからない罠だ。

 そんなものにかかって歩みを止めてたまるものか。


    ◇


「ちぃっ!!」


 またか。かろうじて回避できたものの、やはり罠の一つ一つが脅威というのは厄介なものだ。

 一度でもまともにかかれば、きっとその時点でそれ以上の進軍は不可能だ。

 それどころか、命を落としてもおかしくない。


「ジェルミ様……これ以上は危険です」


「はあ……はあ……」


 だめだな。

 罠罠罠罠。罠ばかりで嫌になる!

 集中力はとうに切れた。そして怒りを制御できん。

 おのれ魔王。よくもここまで姑息な罠を張り巡らせてくれる。

 近衛の言うとおりだ。これ以上無理に進んだところで、手駒を失うだけか。


「帰るぞ」


「はい!」


 いかん。このままでは腹の虫がおさまらない。

 魔王……いや、すでにここを放棄した魔王に報復などできない。

 ならば、当初の目的でも果たすとするか。


「そもそもだ。こんなダンジョンがあるから、ドワーフどもが調子に乗って栄えた街など作ろうとする」


「その通りです」


「こんなダンジョンがあるから、わざわざこの俺が資源を得るために攻略することになっている」


「はい、おっしゃる通りです」


「なくなればいい。こんなダンジョン」


 そうだ。

 ドワーフどもの資源を奪うのが最優先目的だったが、ここは次点の目的を果たすべきだろう。

 もともと人間たちを呼びよせて、自分たちの国を栄えさせようとしたドワーフどもが悪い。

 自国民を返してもらうだけだ。こんなダンジョンなくなれば、馬鹿な自国民どももドワーフの国に通うことはなくなるだろう。


「ジェルミ様。入口です」


「ああ、そうだな」


 ドワーフどもへの恨みをつのらせている間に、ダンジョンの入口付近まで戻ったらしい。

 来た時と同様に栄えていることが今は不愉快だ。

 必要ないだろう。もっと大きな都市がうちにはある。

 こんな場所に足しげく通う国民ども、お前らは人間であることを忘れたか。


「イヌイ。やれ」


 ならば、お前たちに思い知らせてやる。

 大転生で転生者を最も確保したのは、俺たち人間だ。

 その力がどういうものか、ドワーフも人間も思い出すがいい。


「ぁ……ああ……」


 ほとんどの転生者は自堕落で役立たずだ。

 女神から得た力もろくなものではないことも少なくはない。

 だが、こいつのようにたまに掘り出し物は見つかる。


 もっとも、それも宝の持ち腐れ。

 本人がまったく鍛える気もなく、力を使いこなす気もなく、ただただ腐っていくことが多い。

 だから、俺は腐る前に正しく運用してやることにしている。


 薬に魔法、可能な限りの手段で、役立ちそうな力を持つ転生者を改造してやった。

 力を使うことに特化させているため、日常生活さえ困難となる身体ではあるものの、一度力を使えればそれでいい。

 俺ならば、使い捨ての道具だろうとうまく使ってやる。


「崩壊の力を使え! イヌイ!」


「あぁぁああ!!!」


 こいつの力は崩壊。

 もっとも、ありとありゆるものすべてを崩壊させるなんて、都合のいい力ではない。

 こいつが破壊するものは、人工物だけだ。


 残念ながらダンジョンというものは、自然にできた地下世界をベースに構築されている。

 だから基盤は壊せない。だが、その中に後から作られたものは別だ。

 忌々しい商店の数々も、あの罠も、きれいさっぱり消してやる。


「な、なんだ!?」


「さっさと客を逃がすよ! 宿そのものが崩れてきている!」


 慌ただしくダンジョンから避難する者ども、いい気味だ。

 他種族の国でのうのうと金稼ぎなどしているからそうなる。

 さて、宿に商店、治療所に……ほう、採掘場も崩壊しているようだな。


「よくやった。イヌイ」


「……」


 返事はない。

 力を無理やり増幅させて行使させたのだ。耐え切れずに壊れたのだろう。

 だが、それで十分。こいつの役割は十分果たした。

 さあ、混乱に乗じて徹底的にダンジョンの資源を回収するとしよう。


 ……いや、いくらなんでも崩落が大きすぎやしないか。

 これではまるで、ダンジョンすべてが人工物のような……。

 まずい、このままでは巻き込まれる。入口まで避難を……。

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