「ジェルミ第二王子か……名前ありのNPCだろうし、手ごわいんだろうな」
ジェルミ 魔力:50 筋力:46 技術:42 頑強:48 敏捷:41
なんともいえないステータスだ……。
国松よりは強い。だけどルフよりは弱い。
戦闘には関わらないNPCだったのかもしれないな。
他のステータスは、以前
きっと王子というくらいだから、専属の兵士のようなものがいるのだろう。
まあ、今回は仕留めるわけじゃないし、ステータスはそこまで問題ではないな。
……いや、待て。
一人おかしいのがいるぞ。なんだあれ。
俺は自分のステータスが極端に魔力寄りだと思っていたが、上には上がいるらしい。
魔力は俺より上で70もある。しかし、それ以外のステータスはほぼ無いに等しい。
名前からすると、こいつも元は日本人の転生者なんだろうけど、ジェルミと共に行動しているのはこの極端なステータスと関係するのか?
「カザマたちよりは慎重だねえ」
「というか、クニマツくらい慎重に進んでいるな。女神の力の差で罠を起動している回数は多いけど」
「それでも、最低限の被害ですんでいるので、なかなかやりますね……はっ! もしかして、今度こそ幸運な力!?」
「捕獲しませんよ?」
「わかってますよ~。カザマより運が良さそうに見えませんからね」
運が良さそうなら、方針を変えて捕獲指示を出していたんだろうか?
フィオナ様がやれというのなら、別に俺も逆らう気はないけれど、気になるところだ。
「しかし、確実にダメージは与えています。レイ様のダンジョン、そう易々と攻略できるものではありません」
いや、易々と攻略してもらうのが今回の目的なんだけどなあ。
プリミラに評価してもらえるのは嬉しいが、まだまだ難易度が高すぎるのかもしれない。
これは、今回だけでは攻略できないかもしれないな。
その場合は、罠を減らすか、いくつか停止しておくか、あるいは配置を変えるとか……。
「!! なんだ!?」
考えにふけりかけた瞬間、地響きのような音に意識を引き戻された。
……これに似た音は聞いたことがある。
ロペスがプリミラの畑に侵入し、鳥たちに追い回されたときにも聞いた音。
洞窟が崩れたときの音にそっくりなんだ……。
◇
「まずいな」
「ジェルミ王子。このダンジョン……罠の数が通常よりも」
「数だけではない。その殺意の一つ一つが、そこらのモンスターどもとは比べ物にならん」
うちに出現したゴブリンどものダンジョン。
あそこに出現するボスゴブリンの殺意よりも、この無機質な罠の殺意のほうが恐ろしい。
いや、これをしかけた者の殺意と言うべきか。
……ドワーフどもが言っていたことも、案外偽りではないのかもしれぬな。
この殺意の塊。ドワーフどもが罠をしかけただけでは、こうはいかない。
もっと純粋な魔族。それも殺戮を生業としているような存在がしかけたに違いない。
四天王……いや、これこそが魔王がしかけた他種族を殺すことに特化した罠か。
「魔王が廃棄した場所……存外正しいのかもしれぬ」
「……いかがいたしましょう? もしも本当に魔王が住まう場所なら……」
近衛が物怖じしたように、今にも撤退を進言しようとする。
落ち着け。気持ちはわかるが、それは早計だ。
「魔王が関連していることは間違いないだろう。だが、もしも今も魔王が管理しているダンジョンだというのなら、俺たちはとうに全滅しているはずだ」
罠の殺意は俺でも冷や汗を流すほどだ。
だが、この罠はあくまでも放置しているだけであり、俺たちを直接狙っているわけではない。
魔王が今も見張っているのなら、もっと適切なタイミングで罠を起動してもおかしくない。
もっと悪辣な組み合わせで侵入者を殺しにくるだろう。
「直接狙われているわけではない。注意して進めばどうということはないはずだ」
「はっ!」
そう、はるか昔に仕掛けられた、誰を対象としたかさえわからない罠だ。
そんなものにかかって歩みを止めてたまるものか。
◇
「ちぃっ!!」
またか。かろうじて回避できたものの、やはり罠の一つ一つが脅威というのは厄介なものだ。
一度でもまともにかかれば、きっとその時点でそれ以上の進軍は不可能だ。
それどころか、命を落としてもおかしくない。
「ジェルミ様……これ以上は危険です」
「はあ……はあ……」
だめだな。
罠罠罠罠。罠ばかりで嫌になる!
集中力はとうに切れた。そして怒りを制御できん。
おのれ魔王。よくもここまで姑息な罠を張り巡らせてくれる。
近衛の言うとおりだ。これ以上無理に進んだところで、手駒を失うだけか。
「帰るぞ」
「はい!」
いかん。このままでは腹の虫がおさまらない。
魔王……いや、すでにここを放棄した魔王に報復などできない。
ならば、当初の目的でも果たすとするか。
「そもそもだ。こんなダンジョンがあるから、ドワーフどもが調子に乗って栄えた街など作ろうとする」
「その通りです」
「こんなダンジョンがあるから、わざわざこの俺が資源を得るために攻略することになっている」
「はい、おっしゃる通りです」
「なくなればいい。こんなダンジョン」
そうだ。
ドワーフどもの資源を奪うのが最優先目的だったが、ここは次点の目的を果たすべきだろう。
もともと人間たちを呼びよせて、自分たちの国を栄えさせようとしたドワーフどもが悪い。
自国民を返してもらうだけだ。こんなダンジョンなくなれば、馬鹿な自国民どももドワーフの国に通うことはなくなるだろう。
「ジェルミ様。入口です」
「ああ、そうだな」
ドワーフどもへの恨みをつのらせている間に、ダンジョンの入口付近まで戻ったらしい。
来た時と同様に栄えていることが今は不愉快だ。
必要ないだろう。もっと大きな都市がうちにはある。
こんな場所に足しげく通う国民ども、お前らは人間であることを忘れたか。
「イヌイ。やれ」
ならば、お前たちに思い知らせてやる。
大転生で転生者を最も確保したのは、俺たち人間だ。
その力がどういうものか、ドワーフも人間も思い出すがいい。
「ぁ……ああ……」
ほとんどの転生者は自堕落で役立たずだ。
女神から得た力もろくなものではないことも少なくはない。
だが、こいつのようにたまに掘り出し物は見つかる。
もっとも、それも宝の持ち腐れ。
本人がまったく鍛える気もなく、力を使いこなす気もなく、ただただ腐っていくことが多い。
だから、俺は腐る前に正しく運用してやることにしている。
薬に魔法、可能な限りの手段で、役立ちそうな力を持つ転生者を改造してやった。
力を使うことに特化させているため、日常生活さえ困難となる身体ではあるものの、一度力を使えればそれでいい。
俺ならば、使い捨ての道具だろうとうまく使ってやる。
「崩壊の力を使え! イヌイ!」
「あぁぁああ!!!」
こいつの力は崩壊。
もっとも、ありとありゆるものすべてを崩壊させるなんて、都合のいい力ではない。
こいつが破壊するものは、人工物だけだ。
残念ながらダンジョンというものは、自然にできた地下世界をベースに構築されている。
だから基盤は壊せない。だが、その中に後から作られたものは別だ。
忌々しい商店の数々も、あの罠も、きれいさっぱり消してやる。
「な、なんだ!?」
「さっさと客を逃がすよ! 宿そのものが崩れてきている!」
慌ただしくダンジョンから避難する者ども、いい気味だ。
他種族の国でのうのうと金稼ぎなどしているからそうなる。
さて、宿に商店、治療所に……ほう、採掘場も崩壊しているようだな。
「よくやった。イヌイ」
「……」
返事はない。
力を無理やり増幅させて行使させたのだ。耐え切れずに壊れたのだろう。
だが、それで十分。こいつの役割は十分果たした。
さあ、混乱に乗じて徹底的にダンジョンの資源を回収するとしよう。
……いや、いくらなんでも崩落が大きすぎやしないか。
これではまるで、ダンジョンすべてが人工物のような……。
まずい、このままでは巻き込まれる。入口まで避難を……。