「くだらんな。これがダンジョン? ドワーフどもの話題作りのための町ではないのか?」
「しかし、大量の罠が発見されているのは事実です」
「ドワーフどもの自作自演かもしれんがな」
魔王が勇者相手に消耗したことで、一部の者たちにとってダンジョンは稼ぎ場となっている。
現にうちに発生したゴブリンダンジョンも、定期的にそこそこのアイテムやモンスターが現れるため、脅威などではなく、有効活用できる施設という見方が大きい。
俺も何度か利用したが、一定の強さを持つ者にとって、あそこはちょうどいい戦闘ができる場所という印象だった。
投降した無抵抗の魔族どもを痛めつけるだけでは、実戦の経験が不足するので、俺にとっても利用価値のある場所だ。
「もはや、魔王が作ったダンジョンなど脅威でもなんでもない」
むしろ人類にとって役立つ場所にすぎない。
間抜けなことだ。必死に力を振り絞り、人類を追い詰めるどころか手助けしているのだからな。
そんなことにも気付けない愚者が魔王の正体というわけだ。
「であれば、ダンジョンだと偽り、有益なアイテム狙いの外部の人間を呼び寄せる可能性もある」
姑息なことだ。
大方発見したのは手つかずの採掘場あたりだろう。
それをダンジョンと呼ぶことで、採掘に興味はないがモンスター狩りやアイテム狙いの人間を集めているのだ。
そして思惑通りに人は集まり、まんまとドワーフどもの国に小規模とはいえ町ができた。
「未踏のダンジョンというのなら、今日で踏破してくれる」
「ジェルミ様。お食事を用意しましたが……本当によろしかったのでしょうか? 商店で販売している弁当などで」
「かまわん。携帯食よりはましだろう」
さすがにこんな場所で、贅の限りを尽くした食事を望むほど世間知らずではない。
それに興味はある。どうやら、ダンジョンで商店を経営する物好きが、やけに評判のいい弁当を販売しているらしい。
さすがに俺を満足させるほどではないだろうが、どの程度のものなのか食べてみるのも一興だろう。
「うまっ!!」
……なんだこれ。うまい。うますぎる。
食材の問題か? 調理する者の腕か? だめだ。王国の料理人では太刀打ちができない。
俺でこれだ。近衛のやつらも当然その味に抗うことはできず、一心不乱に食事をしている。
なるほど、やるじゃないかドワーフども。戦えない分、いつの間にかこのような隠し玉を鍛え上げていたとは。
「これを作ってる者を雇うぞ」
「賛成です」
どのみち入口に店があるのなら、ダンジョン攻略ついでにこれを作成した料理人を雇うとしようじゃないか。
そう思い商店に足を踏み入れると、そこにいたのはハーフリングの男が一人。
「なんだ。この店は特に繁盛していると聞いたが、店員はお前だけか」
「この時間帯なら客足も減ってますからねえ。それで、なにか買い忘れですか? 王子様」
種族は違えど俺のことを知っているか。
知っていてその軽薄な態度というのは気に食わんが、所詮は劣等種族。
自国の民でもなく、愚かな種族に期待するだけ無駄だ。
「この弁当を作った料理人に会わせろ」
「参ったなあ。弁当はもう売り切れですよ。それ最近の売れ筋なんで」
「追加で購入したいと言っているのではない。それを作った者をうちで雇おうとしているだけだ」
「いやあ、さすがにそれは……はは」
「仲介料くらいくれてやるぞ」
「それはありがたいんですけどねえ。どうしても名を伏せてほしいと言われているんですよ」
ちっ、使えん。
どうせ引き抜きを恐れて、ドワーフあたりが正体を隠しているといったところだろう。
まずは、このダンジョンをさっさと踏破すべきだな。
「他にご入用は?」
「いらん」
へらへらとした顔が腹立たしいハーフリングにそう告げて、近衛とともに奥を目指す。
罠だけは生きていると言っていたが、どこまでが本当でどこからがドワーフのやつらが仕掛けたものかわかったものではない。
どちらにせよ、注意しながら進む必要はありそうだな。
地図はある。
しかし、やつらが罠で他種族を害そうとしている可能性もある。
この地図もどこまで信用していいかわかったものではないな。
やはり、参考程度に実際のダンジョンを見て対応していくか。
「期待しているぞ。お前たち」
そのやる気のない態度は気に食わんが、能力だけは本物だ。
最悪の場合、ドワーフどもの発展の妨げだけでもして帰還するとしようじゃないか。
◇
「もう出てきてもいいぜ」
「すまないロペス。万が一僕らの顔を知っていたらまずいからな」
「ジェルミ王子だよね? なんで、わざわざここまで」
「まさか……私たちを連れ戻しに!?」
ピルカヤから連絡があったとき、最初は俺もそうかもしれないと考えていた。
だけど、どうやら彼らの目的はトラップまみれのこのダンジョンの攻略のようだ。
なんかついでに弁当を作ったのは誰か聞いていたが、マギレマさんを勧誘でもしようとしたのだろう。
仕方ないな。マギレマさんの弁当は美味いから。
「どうする? ボス。ここで仕留めちまうのかい?」
「いや、そろそろここも攻略させていいと思っていたんだ」
採掘場は多数作成し、それらは少しずつ石を復活させている。
なのでドワーフたちは今後もここを訪れるだろう。
俺の成果ではないが、ここはまるで町のように発展しており、ダンジョンそのものでなく店の方を目的に訪れる者たちもいる。
最近参画したマギレマの弁当もそれに一役買ってくれているが、ここはもはや攻略しようがしまいが人が集まる場所となっているのだ。
ダンジョン攻略のために人が集まるようにする。もうそうしなくても大丈夫なはずだ。
むしろ、ここからは危険ではないというアピールをしたほうがプラスになる。
「ボスって、魔族だよな……。人類に対する敵対行動をとらなくて平気なのかい?」
「バランスが大事なんだよ」
「そうだぞロペス。レイさんは無差別に人類を殺すような魔族じゃない」
……いや、どうだろう?
わりと無差別に殺してる気がするので、その信頼には応えられない気がするぞ。
「まあ……今回は攻略させるから、そのつもりで」
「……俺たちにできることは?」
「
「オーケイ。そのくらいお安い御用さ」
もちろん、そのためには事前にジェルミ王子の到来を知る必要がある。
「ピルカヤも頼りにしてるぞ」
「有能だからね。ボク!」
さて、方針は決まったし頼もしい味方も揃っている。
あとは粛々とダンジョンを攻略してもらい、お引き取り願うとしようか。
さすがに今回だけで攻略とはいかないだろうが、できれば二、三回程度で満足してもらえるといいのだが……。
「レイ殿。私もなにかあれば手伝うぞ」
「今回は戦闘はしないつもりだから、また今度な……」
「ままならないものだ……」
なんかごめんな。
きっとそのうちリピアネムの力が必要になるときも来るから、今は我慢してくれ。
◇
「クニマツ殿! 大変です!」
「ど、どうしました? 兵士長さん」
最近の狩り場がしばらく使えなくなるということで、ジノに会いに行こうと思っていたのだが……。
なんだか、大慌ての兵士長さんにただならぬものを感じる。
「ジェ、ジェルミ第二王子が!」
ジェルミが?
もしかして、ドワーフの国で問題でも起こしたか。
あの王子のことだから、十分あり得そうな話だな。
「ジェルミ第二王子が……亡くなられました」
「は……?」
どうやら、ジノのところに行っている場合じゃなくなったようだ……。