目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第33話 地底の中の楽園計画

「今度は麻痺治療薬の需要ができそうですね」


「売った物だけじゃ対処できないように、モンスターを追加するとかえぐいねえ」


 テコ入れは大切だからな。バランス調整をする気持ちがわかった気がする。

 だけど、あまりやりすぎると攻略そのものを諦められかねないので、これはほどほどにしておくとしよう。


「それにしても、思いのほか商店が繁盛していますね。あの儲けで蘇生薬さえ買えたら……いえ、いっそ宝箱の魔力に使えたら」


 フィオナ様は今日も破滅的な思考をしておられるようだ。

 というか、宝箱ガシャに課金要素が追加されたら、いよいよプリミラが本気で怒りそうだからやめてください。


「蘇生薬って、やっぱり市場に出回っていないんですか?」


「ごくまれに、非常に高額で出回るようですが、基本的にはどこも国が保有していますね」


 まあ、それはそうだろうな。

 死んだ四天王さえ生き返るのだから、有事の際に使用するために確保しておきたいだろうし、売るやつなんていないだろう。


「それと、市場に出回っても魔族である私たちが購買することは不可能ですね」


 プリミラが補足してくれたが、そちらも納得だ。

 そうでなければ、わざわざ時任ときとうを店員として雇う必要もなかったわけだし。


「じゃあ、フィオナ様の魔力を回復させるアイテムを買うとか……」


「魔王様は、魔力が常人よりはるかに高いため、すべてを回復させるアイテムはありません。そのための玉座の魔力だったのですが……」


「な、なんですか!? もう魔力は注入し終えたじゃないですか! レイも余計なことを言ってはいけませんよ!?」


 ああ、あれって回復アイテムの代わりだったのか。

 ということは、フィオナ様の魔力回復はアイテムの使用ではなく、緊急用の魔力で回復するか、自然回復しか手段はないってことだ。

 ……そりゃあ、プリミラも怒るよな。


「まあまあ、そのうちレイが強くなったら、魔王様の代わりに魔力を注げるようにもなるでしょ」


「俺どころか、ピルカヤが百人くらい必要なんだけど……」


「まじ……? いやあ、さすがは魔王様だねえ」


 そして、そんなフィオナ様が魔力を注ぎ続けてもなかなか入手できないということが、蘇生薬の希少さを物語っている。

 ゲームなら簡単に買えるようにしてくれたらいいのに……。

 戦闘中は復活できずに、戦闘後にHP1で復活するって仕様だったのかな。


「魔王様ほどとは言わないけど、レイもそろそろ強くなったんじゃないの?」


「まあ、そこそこには」


 商店の売上だけでなく、罠やモンスターもそれなりに経験値を稼がせてくれている。


 和泉いずみれい 魔力:36 筋力:16 技術:24 頑強:23 敏捷:17


 その結果、魔力がまた上昇してくれているのはありがたいことだ。

 他のステータスの伸びが悪くなってきている気がするけれど、魔力さえ伸びれば最悪なんとかなるだろう。


 ステータスのほうはいつもどおり伸びてくれているので問題ない。

 問題はダンジョンメニューのほうか。

 いや、進展がないとかではなく、新たなメニューが現れてくれたんだけど……。


 宿屋作成:消費魔力15


 ダンジョンマスターは、いったい俺にどんなダンジョンを作らせようとしているんだ。

 商店に宿って、居心地のいい空間の提供が最終目標なの?

 まあ、作るんだけどさ。


「うわっ!」


 ピルカヤが驚いた様子で叫んだ。

 そして、ピルカヤがちょうど見ていた場所にいる時任も目を丸くしていた。

 急に宿屋が設立されたので、さすがに驚いてしまったらしい。


「……レイ。あれはなんですか?」


「あれは宿屋です」


 英語の教科書みたいなやり取りの後に、フィオナ様は頭を抱えてしまった。


「私の知ってるダンジョンと違う……」


 ですよね。俺が知ってるダンジョンとも違います。

 さて、作ってみたが、やはり商店のときと同じく従業員などはいない。

 だけど設備は完璧だ。これなら、訪れた客たちも満足することだろう。

 ……受付さえ用意できればの話だが。


「あの、どうやって経営するのでしょうか? あの獣人はすでに商店で手一杯です。兼任はさすがに難しいかと」


「だよなあ……どうしようか」


「考えなしだったんですか!? ……レイ。魔力の無駄遣いはよくありませんよ?」


「魔王様もです」


「しまった! 飛び火が……」


 フィオナ様に言われたくはないと思ったが、プリミラからすればどっちもどっちのようだ。

 いや、でも俺のほうはダンジョンを育てるためだし、必要経費みたいなもんだ。


「わ、私のほうは魔王軍を復活させるためですし、必要経費のようなものでして……」


 あ、この魔王。俺のことを見捨てて自分だけ助かろうとしているな。


「どちらも同じです」


 しかし、結局俺もフィオナ様もプリミラのお説教からは逃げられなかった。

 フィオナ様……。よく最初にプリミラを蘇生させる決断をしたな。

 いや、それだけ自分の意思に自信がなく、セーフティとなる人が必要だったというだけか?


    ◇


「あ、あの~……なんか横から宿屋みたいなのが生えてきたんですけど」


「ええ、いずれあなたの同僚となる者の職場です」


「そ、そうですか……ということは、もしかして私のように魔王様にくだった者が他にも?」


「あくまでも予定です」


「そ、そうですか……」


 とりあえずみんなで宿屋を見に行く。

 魔王と四天王二人が一気に現れたので、時任が死を覚悟した顔をしていた。


 フィオナ様はあいかわらず魔王様モードで時任に接しているが、少しずつ化けの皮が剝がれているというか、俺のせいでポンコツ発言をしているので、時任も対応に困っているようだ。


「時任って、この宿屋の従業員をしてくれそうな人材に心当たりない?」


「え……いやあ、獣人で戦いから逃げているのなんて、私くらいですし……お店を経営してる人たちは、その気になれば戦えるとかで、私だけが臆病者扱いでした……」


 たそがれた目をしながら、時任はおどおどと答えた。


「私も選択肢なんて最初に使わなければ、力を過信できて、本当はあっさり死ぬ恐ろしい世界だと気づかずにすんだんですけどねえ……」


「どんな選択肢を出したんだよ……」


「私の今後の方針です……。魔王様と戦うを選んでも、レベルを上げて魔王様と戦うを選んでも、死ぬという結果がつきつけられました」


 ああ、そういうことだったのか。

 時任も選択肢を使う前は、俺が初めに話したやつらと同じだったということだ。

 突然女神に力を与えられ、一方的に魔王を倒せと言われて、とりあえず言われるがままに魔王を倒して帰ろうとしている。

 女神の力もあるし、ゲームの世界のボスを倒すなんて簡単にできると過信してしまうのだろう。


 きっと、皆最初に女神から与えられた力を試してみたはずだ。

 だけど、時任はそこで選択肢の力で、この世界がそう易々と攻略できないと知ってしまったということか。


「ふむ……選択肢の力。やはり便利そうですね」


「フィオナ様?」


 フィオナ様がなにか思案している。

 時任の力について、なにかいい使いかたでも思いついたのか?


「ところで、ここに宝箱があります」


「なんであるんですか……」


 フィオナ様が時任に見せたのは、もうおなじみとなっている宝箱ガシャだ。


「これをあなたが開けた場合にどうなるか、選択肢を見てください」


「え、え~……はい。えっと、開けたらなんかすごい剣が手に入るみたいです……開けなかったら、さらに宝箱の中身がよくなるとか」


「そうですか」


 フィオナ様はその言葉を聞いて、宝箱に魔力を込めた。


「もう一度お願いします」


「は、はい。今度は……蘇生の薬が」


「今です! レイ!」


「は、はい!」


 すごい剣幕に押され、俺は言われるがままに宝箱を開けた。

 中には本当に蘇生薬の瓶が……。


「どうですか! これが私の成果です!」


「お、おめでとうございます……」


 ああ、もう手遅れだ。

 時任がいることも忘れて、フィオナ様は完全にポンコツになってしまわれた。

 まあ、それだけ喜んでいるのだし、たまにはこのくらい報われてもいいだろう。


 新たな蘇生薬。つまり、四天王をさらに復活させることができるわけだ。

 人選はフィオナ様が選ぶことになるだろうが、次はいったいどんな魔族と顔合わせすることになるんだろう。


    ◇


「トキトウ! 次です!」


「はい! 蘇生薬じゃありません!」


「ぬ~……次です!」


「次もだめです!」


「……次は?」


「だめです……」


 なんかやけに息の合った二人が、商店の中で楽しそうに騒いでいる。


「なんだあれ?」


「なんか、蘇生薬狙いつつ魔力を注ぎ続けてるみたいだよ。まあ、結果は見てのとおり」


「だめっぽいな」


「だねえ。注いだ量だけでなく、運も必要みたいだから、開けるタイミングを見ても確定で入手、とまではいかなそうだよ」


 そう甘くはないか。

 フィオナ様はだんだんと不満げな表情になって、諦めの声で叫んだ。


「確定演出が追加されただけじゃないですか~!!」


 まあ、世の中そんな甘くはないよな。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?