——駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。
夜の帳が静かに降り、ネオンの光が地面に淡く反射している。
通りの向こう側には、コンビニの自動ドアが開閉を繰り返し、時折漏れる電子音が静寂に溶け込んでいた。
灰皿のそばに立つ霧島晴人は、煙草を一本取り出し、手慣れた動作で火をつける。
吸い込んだ煙がゆっくりと肺を満たし、吐き出された白い煙は夜の空気に紛れて消えていった。
ふと、足音が近づく。
「晴人くん、おつかれ~。」
甘坂るるが片手にカフェラテのカップを持ちながら現れた。
「こんばんは、甘坂さん。」
「ふぁぁ……最近眠れなくて夜更かししちゃうんだよね……。」
るるは小さなあくびを隠すように口元を手で覆い、カフェラテをひとくち飲む。
「……カフェインの取りすぎですね。」
霧島が淡々と返すと、るるは「えぇー?」と首を傾げた。
「でもさ、晴人くんの方こそ、いっつも煙草吸うときにコーヒー飲んでるくせに!」
るるが笑いながら缶を軽く揺らすと、霧島は「……習慣です」と短く返す。
「でもさ、コーヒーとか紅茶って、リラックスするために飲むのに、飲みすぎると逆に目が冴えるの、なんかずるくない?」
「……確かに、矛盾しているように思えますね。」
霧島は灰を落としながら頷く。
「ところで、晴人くんはコーヒー派?それとも紅茶派?」
るるが興味津々に尋ねると、霧島は少し考えるように目を細めた。
「……コーヒーならブラック。紅茶ならストレート。」
「やっぱりー!なんでもストイックな飲み方するよね!」
「……味をシンプルに楽しみたいだけです。」
るるは「ふぅん」といたずらっぽく微笑みながら、カフェラテをもう一口飲んだ。
「私は絶対甘くする派だな~。コーヒーも紅茶も、お砂糖とミルクは必須!」
「……だと思いました。」
二人は煙草を静かにくゆらせながら、それぞれの飲み方について軽く談笑した。
「……そういう時は、ノンカフェインのものを飲んでみるのもいいかもしれません。」
霧島が提案すると、るるは「え、カフェインなし?」と驚いたように目を丸くした。
「……眠れないなら試してみるのもいいかもしれません。」
「なるほど!じゃあ今度、カモミールティーとか飲んでみようかな。」
るるが前向きに頷くと、霧島は「それがいいと思います」と静かに答えた。
霧島は煙草の灰を落とし、静かに火をもみ消す。
るるもそれに倣い、残りの煙をゆっくりと吐き出してからフィルターを灰皿へと落とした。
——カフェラテの甘いミルクの香りと、煙草の残り香が微かに漂う中、二人のたわいない話はゆるやかに続いていった。