——近くの河川敷。満開の桜が青空の下で風に揺れ、その花びらが舞い降りる。
川面には散った花びらが浮かび、桜色の帯がゆっくりと流れていく。春の日差しが穏やかで、微かな風が心地よく頬を撫でていた。
霧島晴人と甘坂るるは河川敷の広場にレジャーシートを敷き、二人並んで腰を下ろしていた。桜の木々が頭上で枝を広げ、薄いピンク色の光景が二人を包み込んでいる。
「いい天気だねー!」
るるが深呼吸をしながら笑顔を浮かべる。その手には、持参したお弁当が詰まった小さなバスケットが握られていた。
「……そうですね。絶好の花見日和です。」
霧島が静かに答える。彼は足元に置かれたバスケットに視線を向けた。
「じゃあ、早速お弁当タイムにしようか!」
るるがバスケットを開けると、色鮮やかな料理が詰まったお弁当箱が現れた。卵焼き、唐揚げ、彩り豊かな野菜の煮物、そして小さな桜の形をしたご飯が並べられている。
「すごい……手が込んでいますね。」
霧島が感心したように呟くと、るるは得意げに胸を張った。
「でしょ?頑張ったんだから!」
彼女が自慢げに言うと、霧島は「……感謝していただきます」と軽く頭を下げた。
二人はお弁当を手に取り、桜の木々を眺めながらゆっくりと食事を楽しんだ。花びらが時折風に舞い、レジャーシートに優しく降り積もる。
「ねえ、晴人くん。こうやって桜を見ながら食べると、普通のお弁当でも特別に美味しく感じるよね。」
「……確かに。景色が加わると、食事の印象も変わります。」
霧島が短く答えると、るるは満足げに頷いた。
食事が一段落すると、るるがスマホを取り出して霧島の方を向いた。
「ねえ、一緒に写真撮ろうよ!」
「……写真、ですか。」
「そう!せっかく満開の桜だし、記念に残しておきたいじゃん!」
るるがスマホを掲げて「はい、笑って!」と言うと、霧島は少し戸惑いながらも口元に僅かな笑みを浮かべた。
「これ、いい感じだね!」
写真を確認して満足そうに頷くるるを見て、霧島も静かに笑みを浮かべた。
「よーし、この写真でちょっと遊んでみるか!」
るるがアプリを開き、撮ったばかりの写真を加工し始める。
「えっと、まずは……ほら、これ!晴人くんにメガネつけてみた!」
スマホを見せると、画面には霧島の顔に丸いメガネが追加された姿が映っていた。
「……思ったより自然ですね。」
「でしょ?じゃあ次はこれ!」
るるが指を動かすと、霧島の顔に猫耳とヒゲが加えられた。
「晴人くん、猫耳も似合うじゃん!」
「……その評価は微妙です。」
霧島が少し眉をひそめると、るるは声を上げて笑った。
「いやー、これ楽しいね!じゃあ次は……晴人くんをお姫様風にしてみる?」
「……それはやめてください。」
真剣な口調で霧島が制止すると、るるは「冗談だってば」と笑いながら手を振った。
「でもさ、写真をこうやっていじるだけでも、今日の記念になるよね。」
「……確かに。思い出には良いかもしれません。」
霧島が軽く頷くと、るるは「じゃあ、これ保存しておくね!」と笑顔を浮かべた。
「ねえ、あっちいこ。」
るるが指を差した先には、河川敷の端に設置された灰皿が見える。
二人は立ち上がり、レジャーシートを片付けて灰皿へと向かった。桜の木々の間を抜けながら、るるが「お花見ってやっぱりいいよね!」と明るく話しかける。
灰皿のそばで煙草に火をつけ、二人は並んで桜を見上げながら一服を楽しむ。
「こういう時間があると、少し贅沢に感じますね。」
霧島が静かに呟くと、るるは満足げに微笑んだ。
「また来年もこうして花見できるといいね!」
「……そうですね。」
——春の日差しに包まれ、桜の花びらが舞う中、二人のたわいない話は、桜の香りと煙草の煙に彩られながら穏やかに続いていった。