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第56話:お花見って楽しいですね?

 ——近くの河川敷。満開の桜が青空の下で風に揺れ、その花びらが舞い降りる。

 川面には散った花びらが浮かび、桜色の帯がゆっくりと流れていく。春の日差しが穏やかで、微かな風が心地よく頬を撫でていた。


 霧島晴人と甘坂るるは河川敷の広場にレジャーシートを敷き、二人並んで腰を下ろしていた。桜の木々が頭上で枝を広げ、薄いピンク色の光景が二人を包み込んでいる。


「いい天気だねー!」

 るるが深呼吸をしながら笑顔を浮かべる。その手には、持参したお弁当が詰まった小さなバスケットが握られていた。


「……そうですね。絶好の花見日和です。」

 霧島が静かに答える。彼は足元に置かれたバスケットに視線を向けた。


「じゃあ、早速お弁当タイムにしようか!」

 るるがバスケットを開けると、色鮮やかな料理が詰まったお弁当箱が現れた。卵焼き、唐揚げ、彩り豊かな野菜の煮物、そして小さな桜の形をしたご飯が並べられている。


「すごい……手が込んでいますね。」

 霧島が感心したように呟くと、るるは得意げに胸を張った。

「でしょ?頑張ったんだから!」

 彼女が自慢げに言うと、霧島は「……感謝していただきます」と軽く頭を下げた。


 二人はお弁当を手に取り、桜の木々を眺めながらゆっくりと食事を楽しんだ。花びらが時折風に舞い、レジャーシートに優しく降り積もる。


「ねえ、晴人くん。こうやって桜を見ながら食べると、普通のお弁当でも特別に美味しく感じるよね。」

「……確かに。景色が加わると、食事の印象も変わります。」

 霧島が短く答えると、るるは満足げに頷いた。


 食事が一段落すると、るるがスマホを取り出して霧島の方を向いた。

「ねえ、一緒に写真撮ろうよ!」

「……写真、ですか。」

「そう!せっかく満開の桜だし、記念に残しておきたいじゃん!」

 るるがスマホを掲げて「はい、笑って!」と言うと、霧島は少し戸惑いながらも口元に僅かな笑みを浮かべた。


「これ、いい感じだね!」

 写真を確認して満足そうに頷くるるを見て、霧島も静かに笑みを浮かべた。


「よーし、この写真でちょっと遊んでみるか!」

 るるがアプリを開き、撮ったばかりの写真を加工し始める。

「えっと、まずは……ほら、これ!晴人くんにメガネつけてみた!」

 スマホを見せると、画面には霧島の顔に丸いメガネが追加された姿が映っていた。


「……思ったより自然ですね。」

「でしょ?じゃあ次はこれ!」

 るるが指を動かすと、霧島の顔に猫耳とヒゲが加えられた。

「晴人くん、猫耳も似合うじゃん!」

「……その評価は微妙です。」

 霧島が少し眉をひそめると、るるは声を上げて笑った。


「いやー、これ楽しいね!じゃあ次は……晴人くんをお姫様風にしてみる?」

「……それはやめてください。」

 真剣な口調で霧島が制止すると、るるは「冗談だってば」と笑いながら手を振った。


「でもさ、写真をこうやっていじるだけでも、今日の記念になるよね。」

「……確かに。思い出には良いかもしれません。」

 霧島が軽く頷くと、るるは「じゃあ、これ保存しておくね!」と笑顔を浮かべた。


「ねえ、あっちいこ。」

 るるが指を差した先には、河川敷の端に設置された灰皿が見える。


 二人は立ち上がり、レジャーシートを片付けて灰皿へと向かった。桜の木々の間を抜けながら、るるが「お花見ってやっぱりいいよね!」と明るく話しかける。


 灰皿のそばで煙草に火をつけ、二人は並んで桜を見上げながら一服を楽しむ。

「こういう時間があると、少し贅沢に感じますね。」

 霧島が静かに呟くと、るるは満足げに微笑んだ。

「また来年もこうして花見できるといいね!」

「……そうですね。」


 ——春の日差しに包まれ、桜の花びらが舞う中、二人のたわいない話は、桜の香りと煙草の煙に彩られながら穏やかに続いていった。

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