——駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。
昼下がりの穏やかな日差しが街路樹の間から差し込み、地面に淡い影を作っている。
空にはいくつかの雲が浮かび、微かな春風が頬を撫でていった。
霧島晴人は、灰皿のそばで煙草をくわえ、ゆっくりと煙を吐き出した。
白い煙が、やわらかな日差しに溶け込むように漂っていく。
「晴人くん、おつかれー!」
軽やかな声とともに甘坂るるが現れた。カジュアルなジャケットを羽織り、足元にはスニーカー。いつも通り明るい笑顔を浮かべながら、隣に立つ。
「こんにちは、甘坂さん。」
「なんか、最近ぽかぽかしてきたよねー。」
るるが軽く背伸びをしながら言うと、霧島は「……そうですね」と短く頷いた。
二人は煙草に火をつけ、白い煙が春風に揺られながら空へと消えていく。
「もうすぐ桜が咲く頃だよね。今年の開花予想、見た?」
るるが楽しげに話を切り出すと、霧島は少しだけ視線を遠くに向けて答えた。
「……ニュースで少しだけ見ました。今週中には咲き始めるらしいですね。」
「やっぱりそうだよね!なんかワクワクするなー。」
「ただ、甘坂さんがまた花粉症に苦しむ季節ですね。」
霧島が淡々とした口調で言うと、るるは「あー、ほんとそれ!」と肩をすくめた。
「晴人くん、花粉症じゃなくていいよねー。羨ましい!」
「……春は好きですが、花粉症にはなりたくないです。」
「もう!共感してるようでしてないのがムカつく!」
るるが冗談っぽく言いながら軽く笑い、霧島も微かに口元を緩めた。
ふと、るるが近くにある自販機を指差した。
「そういえば、あそこの自販機、最近新しい飲み物が増えたの知ってる?」
「……いいえ、気づきませんでした。」
「私、昨日あそこで買ったんだけどね。桜味のジュースだったの!めっちゃ春っぽいと思わない?」
「……桜味、ですか。」
「そう!でも正直、桜の味って何って感じだけどね!」
るるが笑いながら話すと、霧島は少し考え込むように眉を寄せた。
「……確かに、桜味というのは想像しづらいですね。」
「でしょ?でも、なんか飲んでると気分が春っぽくなってさ。晴人くんも試してみたら?」
「……考えておきます。」
「ねえ、晴人くん。今年は一緒に桜見に行こうよ!お花見!」
るるが突然提案すると、霧島は少しだけ驚いたように目を向けた。
「……お花見、ですか。」
「そうそう!せっかくだからさ、今年はゆっくり桜を見ながら話そうよ。」
霧島は短く考えるように目を伏せ、そして静かに頷いた。
「……それも良いですね。」
「やった!じゃあ、今週末とかどう?もう見頃になってるかもしれないし。」
「……天気次第ですが、問題ありません。」
「決まりね!場所とかはまた相談しよ。」
るるが嬉しそうに笑いながら煙草をくゆらせると、霧島はその様子を静かに見守った。
二人は並んで喫煙所を出る準備をしながら、次のお花見計画の話を続けた。
——柔らかな春風に包まれながら、二人のたわいない話は、桜の季節への期待を乗せて穏やかに続いていった。