——駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。
けぶる木漏れ日が街路樹の間を通り抜け、足元に揺れる影を作っている。
冬の冷たさがほんの少し和らぎ、春の気配が静かに漂っていた。
霧島晴人は灰皿のそばに立ち、煙草をくわえ、ゆっくりと煙を吐き出す。
白い煙が柔らかな風に揺れながら、空へと溶けていく。遠くで聞こえる電車の音や、人々の足音が昼の静けさをかすかに彩っている。
軽やかな足音が近づき、明るい声がその場の空気を少し弾ませた。
「晴人くん、おはよー!」
振り向くと、甘坂るるが笑顔を浮かべて立っていた。淡い色合いのカーディガンを羽織り、袖口を軽く引きながら、煙草を取り出している。
「こんにちは、甘坂さん。」
「最近さ、少し暖かくなってきたよね!」
るるが嬉しそうに言うと、霧島は軽く頷いた。
「……そうですね。春の気配を感じます。」
二人は煙草に火をつけ、吐き出された白い煙が春風に揺れて消えていく。
「配信がちょっと忙しくてさ。でも、それがすごく楽しいんだよね。」
るるが煙草をくゆらせながら話を切り出した。
「ゲームと配信を通じて、みんなと同じ時間を共有するのが、なんか特別な感じがしてさ。」
「……それは良いことですね。」
霧島が静かに返すと、るるは軽く笑いながら頷いた。
「そういえば、学生の頃も似たようなこと考えてたかも。軽音部で歌ってたとき、みんなで音楽を作って、それを聴いてもらうのが楽しくてさ。」
「……ボーカルでしたよね。」
「そうそう!ステージに立つのは緊張したけど、それ以上に楽しくて!」
るるは懐かしそうに笑いながら、遠くを見つめた。
「今はゲーム配信でみんなを笑顔にするのが一番楽しいけど、歌を使った配信とか、またやってみたいなーってたまに思うんだよね。」
「……甘坂さんらしいですね。」
「でしょ?」
るるが笑顔を見せると、霧島は軽く煙草をくわえ直した。
「春って、何かを始めるのにちょうどいい季節だよね。」
るるがふと呟く。
「……確かに。春は何かを変えたくなる季節ですね。」
「晴人くんは何か新しいこと、始めたいって思ったりしないの?」
「……今は特にないですが、新しい季節には何か挑戦するのも悪くないですね。」
「だよね!春が来るとちょっとだけ前向きな気分になるもんね。」
「……そうかもしれません。」
暖かな風が二人の間を静かに通り過ぎ、煙が柔らかく揺れながら空へと消えていく。
「今年の春、なんかいいことがあるといいよね。」
「……ええ、良い春になるといいですね。」
「じゃあ、いい予感がするってことで!」
るるが楽しそうに言うと、霧島は静かに頷いた。
二人は煙草を消し、街路樹の間をゆっくりと歩き始める。春風が頬をかすめ、二人の影が揺れていた。
——春の木漏れ日に包まれながら、二人のたわいない話は、これから始まる新しい季節に静かに溶け込んでいった。