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第50話:冬って乾燥しますよね?

 ——駅前のゲームセンターにある喫煙所。

 曇り空の下、冷たい風が街路樹を揺らし、遠くの街灯が微かに瞬いている。

 通りを行き交う人々の吐く白い息が、冬の厳しさを静かに物語っていた。


 霧島晴人は灰皿のそばに立ち、煙草に火をつけた。吐き出した煙が冷たい空気に溶けていく。そんな時、軽やかな足音が近づいてきた。


「晴人くん、おつー!」

 甘坂るるが明るい声とともに現れる。コートの袖口を引っ張りながら、寒さに肩をすくめている。


「こんばんは、甘坂さん。」

「寒いねー!ほんと、冬は肌が乾燥してカサカサになるから困るよ!」

「……確かに、空気が乾燥していますね。」

 二人は並んで煙草に火をつけ、吐き出した煙は、冷たい夜風にさらわれるように揺れながら消えていった。


「ねえ、晴人くんって乾燥対策とかしてる?」

「……特に何もしていません。」

「だよねー。絶対そうだと思った!」

 るるが予想通りの答えに満足げに頷くと、ポケットから小さなチューブを取り出した。


「これ、ハンドクリーム!冬は必需品なんだよー。」

「……なるほど。」

「試してみてよ。いい香りだから!」

「……僕が使う必要はないと思います。」

「そんなこと言わないで!ほら、手出して。」


 るるが強引に霧島の手を取り、チューブから少しだけクリームを絞り出す。


「こうやって手に馴染ませるんだよ。」

「……なるほど。」

 霧島は少し戸惑いながらも、るるの動作に従った。甘く柔らかな香りが漂い、彼は軽く鼻を近づける。


「どう?いい匂いでしょ?」

「……悪くありません。」

 霧島が静かに頷くと、るるは得意げに笑った。


「これね、友達に教えてもらったんだけど、本当にお気に入りなんだ!」

「……手入れが行き届いていますね。」

「でしょ?晴人くんもこれからは手元のケア大事だよ!」


 霧島が淡々と答えると、るるは楽しそうに笑いながら煙草をくわえた。


「そういえば、タバコの味とか香りって、ライターで変わるってきいたことある?」

「……Zippoだとオイルの香りが混ざるって聞きますね。」

「そうそう!前に使ってたことがあるけど、独特だよね。」


 るるが思い出したように笑うと、霧島も軽く頷いた。


「僕も少しだけ使っていました。オイルを補充する手間があって、途中でやめましたが。」

「わかるー!見た目はカッコいいけどね。あのカチッて音も好きだったなー。」

「……味や香りの違いを楽しむには良い道具だと思います。」


 るるが自分のターボライターを取り出して見せながら、「でも普段はやっぱりこれだよね」と笑う。

「強風の時でも、安定してますからね。」

「でもさ、気分転換にたまには違うライターとか使ってみたくならない?」

「……最近は考えたことはありませんが。」

「じゃあ、次に私が面白いの見つけたらプレゼントしちゃおうかな!」

 るるがいたずらっぽく笑うと、霧島は「……それは楽しみにしておきます」と静かに答えた。


「冬の夜にこうしてタバコ吸いながら話してると、なんか落ち着くよね。」

「……ええ。静かな時間が良いですね。」


 二人はしばらく無言で煙草をくゆらせ、冬の冷たい空気に溶け込むように静かに立ち尽くしていた。


 ——冬の夜の冷たい風に包まれながら、二人のたわいない話は、甘いハンドクリームの香りとタバコの煙に彩られ、静かに続いていった。

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