——駅前のゲームセンターにある喫煙所。
冬の空気が冷たく肌を刺す中、日差しがわずかに地面を照らしている。
行き交う人々が手を擦り合わせながら足早に過ぎ去っていく中、霧島晴人は灰皿のそばで煙草に火をつけた。
「晴人くん、おはよー!」
軽快な声とともに甘坂るるが喫煙所に現れた。彼女のコートのポケットからは、手袋が覗いている。
「こんにちは、甘坂さん。」
「寒いねー!ほんと冬って厳しい!」
「……まあ、こういう日もあります。」
二人は並んで煙草に火をつけ、白い息とともに煙が静かに空へと消えていく。
「そうだ、晴人くんってさ、お年玉とかあげたりするの?」
「……いえ。あげる相手もいませんから。」
霧島が淡々と答えると、るるは「そっか」と小さく頷いた。
「私はね、甥っ子がいるから毎年ちょっとだけあげてるよ。あんまり多くはないけどね。」
「……そうなんですか。」
「でも、あげる額って悩まない?大きすぎてもなんかプレッシャーになりそうだし、小さすぎてもケチって思われそうだし。」
るるが困ったように笑うと、霧島は少し考え込むように口を開いた。
「金額ではなく、気持ちが大事だと思います。」
「おお、名言出た!」
「……そうでしょうか。」
霧島がわずかに首を傾げると、るるは笑いながら煙草をくゆらせた。
「晴人くんってさ、子供の頃はお年玉、何に使ってたの?」
「……貯金していました。」
「えっ、偉い!私はね、すぐゲームとかお菓子に使っちゃってたよ。」
二人は子供の頃のお正月の思い出について、軽い調子で話し合った。
「ねえ、お正月ってやっぱり食べ物が一番楽しみじゃない?」
るるが軽く笑いながら話し出すと、霧島は「……確かに」と短く頷いた。
「晴人くん、雑煮とかおせちって好き?」
「……嫌いではありません。雑煮はシンプルなものが好きですね。」
「お、なるほど!おすまし派?それとも味噌派?」
「……おすまし派です。」
「へえ、いいねー。うちは味噌だったよ!あと、お餅をたっぷり入れて食べるのが定番だったなあ。」
るるが懐かしそうに笑うと、霧島は静かに耳を傾けた。
「おせちはどう?何が好きだった?」
「……黒豆が好きです。あまり甘すぎないものが良いですね。」
「うんうん、黒豆って美味しいよね!私はだし巻き卵が好きだったなー。あれ、甘くておいしいじゃん!」
「……甘坂さんらしいです。」
霧島が静かに言うと、るるは少し笑いながら「でしょ?」と得意げに答えた。
「雑煮って、うちは大根とかニンジンとか、あと鶏肉も入ってたなあ。」
「……なるほど。うちは餅と三つ葉、それに薄く切ったかまぼこくらいでした。」
「へえ、シンプルだね!それもおいしそう!」
「……そうですね。あっさりした味が好きなので。」
「やっぱり晴人くんって大人だよね。私なんて、お餅を3個とか入れて欲張っちゃってたよ!」
「……それも甘坂さんらしいです。」
二人は煙草をくゆらせながら、それぞれの正月の思い出について話し合った。
「おせちとか作るのも良いかもね!来年は晴人くんと一緒にお正月料理を作ってみたいなー。」
「……それは良いかもしれません。」
「でしょ?じゃあ、それも来年の目標ってことで!」
るるが楽しそうに微笑むと、霧島もわずかに笑みを浮かべた。
——冬の冷たい風の中、二人のたわいない話は、正月の穏やかな空気に溶け込むように静かに続いていった。