——新年の朝。霧島晴人の部屋には、昨夜の年越しの余韻がわずかに残っていた。
窓の外には冬の日差しが差し込み、雪が薄く積もった街並みが静けさを漂わせている。
テーブルの上には、昨夜一緒に食べた年越しそばの名残が残る鍋や食器が並んでいた。
それを片付けていると、るるがキッチンから顔を出した。彼女は昨日と変わらぬ笑顔で、コーヒーカップを手に持っていた。
「ねえ晴人くん、初詣行かない?せっかく新年だし、神社でお参りしようよ!」
「……初詣ですか。」
「そうそう!近くにいい神社があるらしいから、せっかくだし行こうよ!」
るるが楽しそうに提案すると、霧島は短く頷いた。
「……分かりました。」
「やった!じゃあ準備して出発しよう!」
二人は霧島の部屋から徒歩で行ける距離にある神社へと向かった。雪が舞い散る中、参道には露店が並び、人々の笑い声が響いている。
「わー、やっぱりお正月って感じだね!」
るるは周囲を見渡しながら、嬉しそうに歩いていた。隣を歩く霧島は少し控えめに彼女の様子を見守るような雰囲気だ。
「……賑やかですね。」
「こういうのって、なんか気持ちが引き締まるよね!」
るるは小走りに屋台を覗き込みながら、いくつかの商品に目を輝かせた。
神社に到着すると、二人は手水舎で手を清め、並んで参拝をした。るるが目を閉じて手を合わせる姿を横目で見ながら、霧島も静かに祈りを捧げた。
「ねえ、次はおみくじ引こうよ!」
るるが参拝を終えると、楽しそうにおみくじ売り場へ向かった。
二人がそれぞれおみくじを引くと、るるは「中吉」、霧島は「小吉」だった。
「まあまあ、そこそこのスタートって感じだね!」
「……良い結果とは言えませんが、悪くもありません。」
「そうそう!これから良くなるってことだよ!」
るるが明るく笑うと、霧島も軽く頷いた。
屋台では、るるが焼きそばと甘酒を選び、二人で軽食を楽しんだ。湯気が立ち上る甘酒の香りが、新年の空気に溶け込んでいる。
「ねえ、晴人くん。今年の目標とかある?」
「……特にありませんね。」
「またまたー。何か1つくらい考えてみようよ。」
るるが軽く笑いながら言うと、霧島は少し考えるように視線を屋台に向けた。
「……甘坂さんと、これまで通り話せれば、それで十分です。」
「えっ、それって褒めてるの?」
「……事実を言っただけです。」
霧島の淡々とした言葉に、るるは少し照れながら笑った。
「じゃあ私も、晴人くんと今年もいろんな話をするって目標にしようかな!」
「……それは良い目標だと思います。」
るるは甘酒のカップを持ちながら「でしょ!」と得意げに笑った。
二人が神社を後にする頃、空は少しずつ晴れ間が広がり始めていた。雪が軽く積もった道を歩きながら、るるはふと足を止めた。
「晴人くん、一緒に来てくれてありがとう。楽しかった!」
「……こちらこそ。とても楽しかったです。」
るるは立ち止まり、隣の霧島に向き直ると軽く腕を伸ばした。
「じゃあ、改めて今年もよろしくね!」
霧島は少し驚いた様子で彼女の手を握り返し、静かに頷いた。
「……よろしくお願いします。」
霧島は静かに頷いた後、ふと口元に微かな笑みを浮かべた。その表情に、るるは少し驚いたように瞬きをし、そしてすぐに柔らかな笑顔で応えた。
二人はゆっくりと歩きながら、新しい年の始まりを穏やかに感じていた。
——新年の冷たい風の中、二人のたわいない話は、これから始まる一年に特別な予感を抱きながら静かに続いていった。