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第47話:カウントダウンしますか?

 ——駅前のゲームセンターにある喫煙所。冬の冷たい風が街路樹を揺らし、ちらちらと雪が舞い降りていた。

 街全体が年末の喧騒に包まれ、駅前ロータリーには鮮やかにライトアップされたイルミネーションが輝いている。


「晴人くん、おつかれー。」

 甘坂るるが白い息を吐きながら喫煙所に現れた。トートバッグに揺れる小さなチャームが、街のイルミネーションに反射してきらめいている。


「こんばんは、甘坂さん。」

 霧島は軽く会釈しながら、煙草の箱を取り出した。

「寒いねー。」

 るるが夜空を見上げながら言うと、霧島晴人は「もう年末ですからね。」と短く答えた。二人は並んで煙草に火をつけ、静かに煙をくゆらせる。


「晴人くんって去年の年末は何してたっけ?」

「……特に何もしていませんでした。」

「えっ、ほんとに?私は実家に帰ってたよ。地元の友達と久々に会ったりしてさ。」

「……そういえば、そんな話をしていましたね。」

「じゃあ今年は?」

「今年も、家で静かに過ごす予定です。」


 るるがトートバッグからスマホを取り出しながら笑う。

「それならさ、晴人くんの家で年越ししてもいい?年越しそばとか一緒に作りたいな。」

「……僕の家ですか。」

「そう!二人でテレビ見ながらゆっくり過ごそうよ。」

 霧島は少し考えるようにしてから頷いた。

「……分かりました。」

「やった!じゃあ決まりね!」


 るるが嬉しそうに笑うと、霧島は「楽しみにしています」と静かに答えた。


 ———


 数日後、大晦日の夜。霧島の部屋は普段より少しだけ整えられていた。るるが玄関に現れると、彼女は手に小さな袋を持っていた。


「お邪魔しまーす!これ、年越しのちょっとした差し入れ!」

「……ありがとうございます。」

 霧島は袋を受け取りながら、るるを中へと招き入れた。


 二人はキッチンで並んで年越しそばを作り始めた。

「晴人くん、ネギはもう切った?」

「……はい。こんな感じで良いですか。」

 霧島がまな板に並んだ細かいネギを差し出すと、るるは頷きながら笑顔を見せた。

「完璧!次はそばを茹でるよ。お鍋、火をつけてくれる?」


 二人は手際よく準備を進めながら、軽い雑談を交わした。湯気が鍋の縁から立ち上り、心地よい香りが部屋に広がる。


「そばを茹でる間に天ぷら揚げてもいい?」

「……甘坂さんが揚げ物をしている姿、少し意外ですね。」

「失礼な!私だってこれくらいできるんだから!」


 るるがエビを油に入れると、ぱちぱちと小気味よい音が響いた。


「晴人くんって料理するの?」

「……簡単なものだけです。普段はあまり凝ったことはしません。」

「そうなんだ。でもネギの切り方、上手だよ!」

「……ありがとうございます。」


 そばが茹で上がり、盛り付けが完成すると、二人はテーブルを囲んで座った。

「いただきまーす!」

「……いただきます。」


 温かいそばを一口食べたるるは、満足げに頷いた。

「やっぱり年越しそばっていいね。なんか特別感あるよね。」

「……確かに、そうかもしれません。」


 食事を終えた二人は、テレビでカウントダウン番組を見ながら会話を続けた。

「今年もいろんなことがあったよね。」

「……そうですね。」

「夏に海行ったり、花火大会行ったり、楽しかったなー。」

 るるが懐かしそうに笑うと、霧島も静かに微笑んだ。


「でもね、一緒にタバコ吸ったり、こうしてゆっくりしてる時間が、一番落ち着くかも。」

「……僕も同じです。」

 霧島が短く答えると、るるは満足げに頷いた。


 カウントダウンが近づき、二人はテレビに目を向けた。年越しの瞬間、大きな鐘の音が画面越しに響く。


「明けましておめでとう、晴人くん!」

「……明けましておめでとうございます、甘坂さん。」


 二人は立ち上がり、ベランダへと向かった。夜空には星が瞬き、街には新年を迎えた静けさが広がっている。


「こうやって新年を迎えるのも悪くないですね。」

「でしょ?今年も楽しい一年にしたいなー。」

 霧島は微かに頷き、吐き出した煙が夜空に溶けていった。


 るるが「今年もよろしくね!」と右手を差し出すと、霧島は少し戸惑いながらも手を握った。

「……こちらこそ、よろしくお願いします。」

 握手を交わした瞬間、彼の手の温もりがるるの指先に伝わり、新年の冷たい空気に少しだけ温かさが広がった。


 冷たい風が頬を撫でる中、二人は煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。


 ——新しい年の夜、星空に溶ける煙のように、二人のたわいない話は静かに心に刻まれていった。

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