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第46話:もうすぐクリスマスですね?

 ——駅前のゲームセンターにある喫煙所。夜空にはちらちらと雪が舞い降り、街灯の光に反射して淡く輝いていた。

 街全体がクリスマスムードに包まれ、駅前のロータリーには大きなクリスマスツリーが飾られている。キラキラと光るオーナメントと星が、行き交う人々の足を少しだけ止めていた。


「晴人くん、こんばんは!」

 甘坂るるが、少し寒そうにマフラーを巻き直しながら喫煙所に現れた。


「こんばんは、甘坂さん。」


「見て見て、ツリー綺麗じゃない?」

 るるがロータリーのクリスマスツリーを指差し、目を輝かせた。


「……確かに、賑やかですね。」

 霧島晴人は、手に持った煙草を軽く弾きながらツリーを眺めた。彼の落ち着いた反応に、るるは軽く頬を膨らませた。


「もうちょっとテンション上げてもいいんじゃない?」

「……これでも十分、楽しんでいるつもりですが。」


 二人は並んで煙草に火をつけ、静かに煙をくゆらせた。雪が微かに降り積もる中、クリスマスの飾りが街を彩っている。


「そういえば、去年ここで甘坂さんがサンタのコスプレをしていたのを思い出しました。」

 霧島がふと口を開いた。


「えっ、それ覚えてたの!?忘れてよー!」

 るるは顔を赤らめながら慌てて手を振った。


「……あれはたまたまアルバイトで着ただけだから、本当に仕事用って感じで!」

「そうですか。でも、似合っていました。」


「えっ、もう!急にやめてよ!?なんか恥ずかしい!」

 るるは肩をすくめ、照れ隠しに笑いながら煙草をくわえた。


「ねえ、晴人くんはクリスマスって何してるの?」

「……バイトです。」

「そっかー、そうだよね。私はね、クリスマスイベントの生配信が入ってるの。」

「……忙しい日になりそうですね。」

「うん。でもさ、せっかくだから、いつもの時間に少しだけここで会わない?」


 るるの提案に、霧島は少し考えるように間を置いた。

「……そうですね。それくらいなら問題ありません。」

「やった!じゃあ決まり!」


 るるが嬉しそうに笑うと、霧島は微かに頷いた。


 ———


 数日後、クリスマスイブの夜。喫煙所にはほんの少し雪が積もり、吐く息が白く染まっていた。


「こんばんは、晴人くん!」

 るるが白いコートを羽織りながら喫煙所に現れた。彼女の手には、小さな紙袋が握られている。


「こんばんは。」


「ほら、これ!」

 るるは紙袋を差し出した。

「クリスマスだし、手作りのお菓子とケーキを用意したんだよ!」


「……ありがとうございます。」

 霧島は少し驚いた表情を見せながら袋を受け取り、ふとポケットに手を入れ、小さな箱を取り出した。

「こちらも、どうぞ。」


「えっ、私に?」

「……大したものではありませんが。」

 箱の中には、小さなアクセサリーチャームが入っていた。シンプルなデザインだが、るるの雰囲気に合いそうな優しい色合いだった。


「わあ、可愛い!ありがとう!」

 るるはチャームを手に取り、嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「この色合い、すごく私っぽい!晴人くん、よくこんなの見つけたね!」

「……偶然見つけた店で目に入りました。」

「そっか。でも、こういうのって本当にセンスいるんだよ。ありがとう、大事にするね。」


 るるはチャームをバッグに付けながら、嬉しそうに何度も眺めていた。霧島は静かに頷きながら、軽く息を吐いた。


「来年はもっとゆっくり一緒に過ごせたらいいですね。」

 霧島はふと視線を落とし、吐く息とともに短い沈黙が流れる。その表情には、どこか遠慮がちな雰囲気が漂っていた。

「えっ、今のって、来年も一緒に過ごす約束?」

 るるが少し驚いたように笑顔を浮かべて問い返すと、霧島は一瞬だけ遠くを見た後、静かに頷いた。

「……もし、甘坂さんが良ければ。」

 その言葉を聞いたるるは、頬を微かに染めながら嬉しそうに笑った。

「もちろん!約束だよ!」


 るるが少し名残惜しそうに立ち上がる。


 「……それじゃ、そろそろ行かないと。」

「配信、頑張ってください。」

「うん!晴人くんも、バイト頑張ってね!」

 二人は軽く頷き合い、それぞれの行き先に向かう準備を整えた。

「じゃあ、またね。」

 るるが小さく手を振りながら歩き出す。

 その後ろ姿を見送りながら、霧島は一瞬だけ手に持った袋を見つめ、静かに息を吐いた。


 雪がしんしんと降り積もる中、駅前のロータリーに輝くツリーが小さな光を灯し続けている。


 ——二人のたわいない話は、キラキラと輝くツリーの光のように、心の中にそっと温かな灯りをともしていた。

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