——数日前、甘坂るるから届いたラインには、彼女らしい明るさが伝わるメッセージが並んでいた。
「晴人くん!温泉行く日、決めたよ!今週の土曜どう?」
「分かりました。」
霧島晴人が淡々と返信すると、即座にるるからのスタンプが送られてきた。
*
週末の土曜日、二人は近場の天然温泉施設に到着していた。施設は広々としており、温泉、岩盤浴など多彩な設備が揃っている。
「ここ、思ったより立派だね!」
るるが施設内を見回しながら感心した様子で声を上げる。
「……そうですね。落ち着いた雰囲気で良い場所だと思います。」
受付を済ませた二人は、それぞれ男女別の温泉に向かった。
———
霧島は大浴場で体を流し、露天風呂へと向かった。昼下がりの柔らかな陽射しが湯気に反射し、静けさが漂っている。
「……静かですね。」
湯船に浸かりながら、霧島は湯の温かさが体に染み渡るのを感じていた。近くには竹林があり、風に揺れる竹の音が微かに耳に届く。
一方のるるは、女湯の露天風呂でリラックスした様子を見せていた。
「はー、やっぱり温泉は最高だよねー!」
湯船の縁にもたれながら、るるは湯気の向こうに揺れる木々の影をぼんやりと眺めていた。温泉特有の硫黄の香りと、ほのかな木の香りが心を落ち着かせてくれる。
———
二人は温泉を堪能した後、岩盤浴エリアで再び合流した。
「次は岩盤浴だよ!」
るるが腕を引っ張るようにして霧島を促し、二人は岩盤浴エリアへと向かった。
岩盤浴の部屋は照明が落ち着いており、ほんのり暖かい空気が漂っている。木目調の壁とアロマの香りが心地よさを演出していた。
「ここ、なんかオシャレじゃない?」
「……確かに。居心地が良さそうですね。」
二人は指定されたシートに横になり、静かに会話を交わした。
「こういうのも悪くないですね。」
「でしょ?晴人くん、もっとリラックスして!」
「……充分リラックスしていますよ。」
霧島の穏やかな表情を見て、るるは満足そうに頷いた。
しばらく無言で横になっていると、るるがぽつりと話し始めた。
「なんかさ、こういう静かな時間って大事だよね。普段、結構バタバタしてるからさ。」
「……確かに。日常とは違う時間の流れを感じます。」
「晴人くんもさ、たまにはこういうとこ来ないとダメだよ!」
「……心に留めておきます。」
るるが「それじゃ遅いんだよ!」と笑うと、霧島も肩をすくめて軽く微笑んだ。
体がぽかぽかに温まったところで、二人は喫煙所へと向かった。施設の屋外に設けられた喫煙スペースは、遠くに夕焼けを望むことができる静かな場所だった。
「こんな景色見ながら吸うの、贅沢だよね。」
るるが煙草に火をつけながらぽつりと呟く。
「……確かに。たまにはこういう時間も悪くないと思います。」
霧島も煙草に火をつけ、夕焼けを眺めながらゆっくりと煙を吐き出した。
「……次はもう少し遠出してみるのもいいかもしれませんね。」
「おっ、晴人くんがそんなこと言うなんて珍しい!」
夕焼けが少しずつ薄まり始める空を見上げながら、るるが小さく伸びをした。
「ねえ、このままここでご飯食べていかない?」
「……それが良いですね。」
二人は食事スペースへ向かうため、立ち上がった。施設内の温かい空気と、ほんのり漂う湯気の匂いが、二人を包み込んでいた。廊下には温泉帰りの人々の笑い声が微かに響き、ゆっくりと歩く二人の間には、心地よい静けさが漂っていた。
「温泉街のご飯も良いけど、ここも負けてないかもね!」
「……選択肢が多いのは良いことですね。」
るるがメニューを見ながら何を食べるか悩んでいると、「これも美味しそうだし、あっちも気になるなぁ」と楽しげに指を動かしていた。
霧島は淡々と頷きながらその選択を見守っていた。
「甘坂さんが選んだものを頼みます」と静かに告げると、るるは「えっ、それプレッシャーなんだけど!でも、任せて!」と笑顔を返した。
二人は笑い合いながら、温泉後の特別な一食を楽しむ準備を進めていた。
——温泉の心地よい余韻に浸りながら、二人のたわいない話は、まるで湯気のように柔らかく心に広がっていった。